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患者のためのがんの薬事典

ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)副作用の比較的少ない術後ホルモン療法の代表的な薬

取材・文 ●増山育子
発行:2014年1月
更新:2014年4月

  

乳がん術後の代表的なホルモン療法薬として長く使われてきたノルバデックス。現在、術後5年間の服用が標準治療となっています。この2年間で国際的な臨床試験(ATRAS試験、aTTom試験)の結果がまとまり、服用をさらに5年間継続する合計10年間の治療によって、再発などのリスクが軽減することが明らかになりました。

乳がん手術後のホルモン療法薬

乳がん全体の約7割にあたるホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの働きによってがん細胞が増殖します。このタイプの乳がんの治療には、エストロゲンの作用をブロックして、がん細胞の成長を阻止するホルモン療法が有効です。

ホルモン療法は、一般に術後に再発や転移の予防を目的として、また、再発転移乳がんにおいても進行を遅らせるために行われます。ホルモン受容体陽性とわかれば進行度にかかわらず適応となります。

ホルモン療法に使われる薬には、患者さんが閉経前か後かによって選択するタイプがあります。閉経前の場合は、脳に働きかけて卵巣でのエストロゲン産生を抑える「LH-RHアゴニスト製剤」が、閉経後なら「アロマターゼ阻害薬」が選択されます。アロマターゼ阻害薬は、副腎から分泌される男性ホルモンを女性ホルモンに変換するアロマターゼという酵素の働きをブロックするものです。

図1 ホルモン療法薬と対象

そして閉経前か後かにかかわらず使えるのが、「抗エストロゲン薬」です(図1)。

LH‐RHアゴニスト製剤=リュープリン(一般名リュープロレリン)、ゾラデックス(一般名ゴセレリン)など アロマターゼ阻害薬=アロマシン(一般名エキセメスタン)、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、フェマーラ(一般名レトロゾール)など 抗エストロゲン薬=ノルバデックス(一般名タモキシフェン)、フェアストン(一般名トレミフェン)など

ホルモン療法薬として長く使われてきた薬

エストロゲンは、乳がん細胞にあるエストロゲン受容体と結合して、乳がん細胞の増殖を促します。抗エストロゲン薬は、エストロゲン受容体に先回りしてその鍵穴にあたる部分を塞ぎ、エストロゲンとの結合を妨げます。

ノルバデックスは、1981年に販売され、30年以上にわたって使われている代表的な抗エストロゲン薬です。副作用が比較的少なく、長期投与も可能という特徴があり、世界的に行われた数々の臨床試験の結果、術後補助療法薬としてその有用性が認められました。

閉経後の術後ホルモン療法では再発抑止効果が高いアロマターゼ阻害薬が主流となっており、ノルバデックスは選択肢の1つという位置付けです。

一方、閉経前の患者さんに対してはLH-RHアゴニスト製剤と併用する方法もあり、ホルモン療法の中心的な役割を果たしています。

ノルバデックスは経口薬(飲み薬)で、1日1回20㎎服用します。10㎎錠と20㎎錠があり、それぞれのパッケージには名称の似た薬との誤処方誤飲を防ぐために「抗女性ホルモン剤」と明記されています。

10年間の服用で 再発・死亡のリスクが低下

ノルバデックスは術後補助療法として5年間服用すると、再発や乳がん死のリスクを低下させることが明らかになっています。そのため現在は、この術後5年間の継続投与は標準的な治療となっています。

この標準治療に加え、さらに5年間延長して合計10年間服用すると、再発率および乳がん死亡率が低下するという大規模臨床試験の結果が、昨年発表されました(図2)。

図2 ノルバデックスの服用期間に関する臨床結果(ATRAS試験)

この臨床試験では、5年間の術後補助療法を終えた患者さんをそのまま終了する群(5年群)と、引き続き5年間合計10年間投与する群(10年群)に割り付けて比べたところ、再発・死亡リスクとも10年群で低いことが明らかになったのです。

さらにこの試験結果で着目されたのは、術後5~9年目までは再発・死亡リスクにほとんど差がなかったものが、術後10年目以降は10年群の患者さんでリスク低下が顕著になっていることでした。術後補助療法を終了した10年目以降に、治療の持ち越し効果ともいえる現象が現れると考えられます。

10年群では、乳がん死のリスクを最初の10年間で約3分の1に、次の10年間で約2分の1までに低下させることが示されたのです。

エストロゲン受容体陽性(ER+)の乳がんでは、手術後5年を過ぎてから再発するケースもまれではないことから、投与期間の延長によって晩期再発のリスクを減らせるというこの報告は注目に値することですが、ホルモン療法を受ける患者さん全員に必要とは限りません。主治医とよく相談のうえ、選択することになるでしょう。

化学療法で用いられる抗がん薬などと比べて、ノルバデックスには重篤な副作用が少ないことが特徴です。

そのなかで、やや発現頻度の高い副作用として、月経異常や無月経など婦人科系の症状、吐き気・嘔吐、食欲不振や下痢などの消化器系の症状が挙げられます。ほてり、のぼせ、発汗といったエストロゲンの減少に伴う不快な症状に悩まされる場合もありますが、通常、飲み始めてから数カ月で軽快します。

子宮体がんのリスクも定期的にチェック

子宮への影響も懸念されるところですが、海外の報告には2年以上の長期服用で子宮体がんや子宮内膜症になる可能性が増すという指摘があります。ノルバデックス投与中または投与終了後は定期的に婦人科検診を受けて、チェックすることが大切です。

また、抗凝固薬のワーファリンはノルバデックスの作用を増強することがあり、また、抗うつ薬の一部には作用を減弱させる可能性のあるものがあります。副作用や服用期間については、医師とよく相談されるとよいでしょう。

ワーファリン=一般名ワルファリン

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