患者のためのがんの薬事典
ロンサーフ(一般名:トリフルリジン・チピラシル配合錠)進行大腸がんの新薬が登場
日本発の進行大腸がん治療薬、ロンサーフ。第Ⅱ相試験でプラセボ(偽薬)群と比べて有意に全生存期間(OS)を延長させたことが評価され、異例の速さで承認されました。進行大腸がん治療に新たな選択肢をもたらすと期待される一方、世界で初めて臨床使用されるだけに、より慎重な取り扱いが求められています。
どんな薬?――ロンサーフの特徴
◎進行大腸がん治療での位置づけ
*ロンサーフは、今年5月26日に発売されたばかりの新しい進行大腸がんの薬です。適応は、「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん(標準的な治療が困難な場合に限る)」です。
大腸がんの治療は、早期の場合は手術が第一選択となります。一方、切除ができない進行・再発の大腸がんの場合、化学療法が選択されます。
進行大腸がんの治療は、*FOLFOX療法や*FOLFIRI療法、*XELOX療法に*アービタックスや*アバスチンなどの分子標的薬を組み合わせた治療が標準治療となっています。10年前と比べると治療の選択肢は広がっており、2013年5月に発売された*スチバーガも標準治療に組み込まれ、現在4次治療までは治療法が確立しています(図1)。
ただし、それらの治療で効果が現れない場合、次に打つ手はありませんでした。ロンサーフは、そうした場合に「次の一手」となることが期待されている薬剤です。
◎ロンサーフの作用と効果
ロンサーフは、DNAに取り込まれることで抗腫瘍効果を発揮するFTDという物質と、体内でFTDの分解を阻害するTPIという物質を配合した、新しい作用機序を持つ抗がん薬です。
この薬の特筆すべき点は、日本で臨床試験が行われ、全世界に先駆けて日本が最初の発売国となった薬剤であることです。
国内20カ所の施設で行われた臨床第Ⅱ相試験は、*5-FU系、*エルプラット、*イリノテカンの2種類以上の薬剤を使用して病勢進行(PD)となった患者さん、つまりそれらの薬を使用してもがんが大きくなるなどの症状が現れた患者さん169例を対象に行われました。112例にロンサーフが、57例にプラセボ薬が投与され、効果を比較したのです。
その結果、プラセボ群6.6カ月、ロンサーフ群9.0カ月と、主要評価項目であった「全生存期間(OS)」を有意に延長しました(図2)。またプラセボ群と比較したロンサーフ群の生存期間を評価する「ハザード比」は0.56でした。これは、プラセボ群よりも、44%生存期間が長いということを意味します。
また、がんが大きくならない「無増悪生存期間(PFS)」も、プラセボ群が1.0カ月に対してロンサーフ群は2.0カ月、「治療奏功期間(TTF)」はプラセボ群の1.0カ月に対してロンサーフ群は1.9カ月と、ほぼ2倍に匹敵する延長がみられました。
病状が進まない状態を示した「病勢コントロール率」は、プラセボ群10.5%に対して、ロンサーフ群は43.8%と有意に改善しました。これは43.8%の人が、病状が進まない状況が続いたことを示しています(図3)。
この第Ⅱ相試験の結果が評価され、世界で初めて、日本で承認されたのです。
*ロンサーフ=一般名トリフルリジン・チピラシル配合錠 *FOLFOX療法=ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)+5-FU(一般名フルオロウラシル)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) *FOLFIRI療法=ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)+5-FU(一般名フルオロウラシル)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン) *XELOX療法=ゼローダ(一般名カペシタビン)+ エルプラット(一般名オキサリプラチン) *アービタックス=一般名セツキシマブ *アバスチン=一般名ベバシズマブ *スチバーガ=一般名レゴラフェニブ *5-FU=一般名フルオロウラシル *エルプラット=一般名オキサリプラチン *イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン
ロンサーフの投与法
◎対象となる患者さん
ロンサーフの対象となるのは、それまでの標準治療に効果がみられない人です。図1の1次から4次治療をすべて受けて効果が示されなくなって初めて、投与対象となります。
日本で初めて発売された薬で、投与経験も少ないため、当初は限られた施設で化学療法に熟練した医師により慎重に投与されることになります。
◎投与法
ロンサーフは、経口薬です。用法・用量は、以下の通りで、大変複雑です(図4)。
❶朝食後および夕食後の1日2回を、5日間連続で経口服用したのち、2日間休薬する
❷これを2回繰り返したのち、14日間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す
❸服用量は体表面積に合わせて決定する。患者さんの体表面積により、2種類(15mg、20mg)の錠剤を組み合わせて使用する
❹時に制吐薬も服用する必要がある
効果が出ている間はずっと服用するものなので、間違えることなく服薬するために、患者さん自身や家族の服薬管理が重要となります。調剤薬局で1回使用する分ごとにまとめて(一包化)もらう、お薬カレンダーを使うなど、服用を間違えないための工夫が必要になるでしょう。
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