患者のためのがんの薬事典
スーテント(一般名:スニチニブ)転移性腎がんの1次治療で最も使われている薬剤
転移性腎がんに適応を持つ分子標的薬の中で、1次治療で最もよく使用されているのがスーテントです。効果は高いのですが、副作用も強いのが特徴。治療を継続するためには、投与量の調整や適切な副作用ケアが必要です。新しい分子標的薬として、2012年にインライタ、2014年にヴォトリエントも登場しています。
どんな薬?――スーテント
*スーテントは転移性腎がんの治療に用いられている分子標的薬です。いくつかの標的分子を持っている薬剤ですが、代表的な標的がVEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)です。
がん細胞は増殖するにあたり栄養を必要とするため、血液を送ってくれる新しい血管を増やそうとします。そのために、がん細胞はVEGF(血管内細胞増殖因子)を放出します。すると、それを血管の受容体がとらえ、がんを栄養する新しい血管(新生血管)を伸ばすのです。スーテントは、血管内皮にあるVEGFRに自らが結合することで、新生血管ができるのを防ぎます。新生血管ができないと、がんは栄養不足に陥って生きていけなくなるため、治療効果が現れます。このような作用を持つ薬を、「血管新生阻害薬」といいます。
転移性腎がんに対しては、数種類の分子標的薬が使われていますが、多くのものが血管新生阻害薬に分類されています(表1)。スーテントなどの分子標的薬が登場する以前、転移性腎がんの治療を担っていたのはインターフェロンでした。スーテントは、インターフェロンとの比較試験で有効性が証明され、承認されています。
スーテントは、転移性腎がんであれば、低中リスクのがんにも、高リスクのがんにも使用できる薬剤です。ただ、副作用が比較的多いので、進行がゆっくりで予後が良好ながんには、もう少し効果の穏やかな薬剤でも効果がある場合があります。そのような場合がん研有明病院では、副作用の比較的軽いインターフェロンも使っています。
*スーテント=一般名スニチニブ *スミフェロン=インターフェロンアルファ *トーリセル=一般名テムシロリムス *ネクサバール=一般名ソラフェニブ *アフィニトール=一般名エベロリムス
スーテントの投与方法
スーテントは経口薬です。投与量は1日50mg(12.5㎎のカプセルを4つ)が基準とされています。ただ、日本人の患者さんで、50mgの内服を続けられる人はほとんどいません。多くの場合、37.5㎎(3カプセル)に減量することになりますし、最初から37.5㎎で治療を開始することもあります。それでも十分に治療効果が得られています。37.5㎎でも副作用が強く出る場合には、25㎎(2カプセル)まで減量することがあります(図1)。
投与スケジュールが独特で、「4週投与・2週休薬」の6週サイクルを繰り返していきます。副作用が強い薬なので、休薬期間を設ける必要があるのです。「4週投薬・2週休薬」で副作用が強く出る場合、最近では症例によっては、「2週投薬・1週休薬」に変えることがあります。治療成績は変わらないという意見もありますが、信頼性の高い比較試験は行われていません。
スーテントの副作用対策
スーテントは副作用が比較的強い薬剤で、手足症候群、倦怠感、味覚異常、高血圧、下痢、血小板減少、白血球減少などが現れることがあります。患者さんのQOL(生活の質)を低下させないためにも、治療を継続するためにも、適切に対処していくことが大切です。
◆手足症候群……手足の皮膚に、紅斑、水疱などの症状が現れ、痛みを伴います。治療を開始する前から皮膚の保湿を心がけ、現れた症状に対しては外用薬を使用します。適切なケアを行うことで、十分にコントロールできます。
◆倦怠感……患者さんにとってはつらい副作用です。甲状腺機能低下が見られる場合には、甲状腺ホルモン薬を使用します。
◆味覚異常……甘い味だけが残ったり、醤油の味が不快に感じられたりします。現在のところ有効な対策がありません。
◆高血圧……血圧が高くなることがあります。降圧薬を頓服で処方しておき、患者さん自身が毎日血圧を測定し、高くなっていたら服用するようにします。
◆下痢……多くの人に見られる副作用ですが、ほとんどが下痢止め薬(止瀉薬)で対処できます。
◆血小板減少、白血球減少……定期的に検査し、許容範囲以上に減少している場合、その程度によっては、投与量を減量したりします。
スーテントによる治療が効いていても、副作用が強いために治療が続けられない場合は、他の薬剤に切り替えることがあります。
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