患者のためのがんの薬事典
シスプラチン(商品名:ブリプラチン/ランダ)1980年代から変わらぬ化学療法の中心的存在
1980年代に登場した抗がん薬ですが、その高い治療効果から、現在でも、肺がんをはじめ多くの種類のがんで、化学療法におけるキードラッグとして重要な役割を果たしています。悪心・嘔吐など強い副作用がありますが、制吐薬などの支持療法が進歩し、かつてのように苦しまずに治療が受けられるようになっています。
どんな薬?――シスプラチン
◎抗がん薬のイメージを作った薬
*シスプラチンが登場したのは1980年代ですが、現在でも多くのがん種の治療で使用されています。
小細胞肺がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、頭頸部がん、胃がん、食道がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮頸がん、骨肉腫など、その範囲は極めて広く、それぞれの治療におけるキードラッグとして、重要な役割を担っています(表1)。
1980年代以降、抗がん薬は大きな進歩を遂げており、新しい薬剤が次々と登場してきました。こうした時代にあって、これだけ長い間、化学療法の中心的存在であり続けているのは稀有なことです。効果のない薬剤は消えていきますから、現在まで残っているという事実が、シスプラチンの優れた効果を物語っています。
その一方で、副作用の強さも特筆すべきものでした。とくに悪心・嘔吐は、多くの抗がん薬の中でも最も強い部類に入ります。一般に、抗がん薬治療というと、「気持ちが悪くなり、たびたび嘔吐し、食事もとれなくなる」というイメージが広まっています。
このイメージを作ってしまったのがシスプラチンです。多くのがんの治療で使われていたため、影響力が大きかったのでしょう。優れた制吐薬が開発された現在では、悪心・嘔吐でつらい思いをすることはほぼないのですが、抗がん薬に対するイメージだけは、今も根強く残っています。
◎プラチナ系の中でも効果は最強
シスプラチンは、DNAに結合して障害を与え、DNAの合成を阻害することで、殺細胞作用を発揮します。
プラチナ系抗がん薬と呼ばれる仲間には、*パラプラチン、*エルプラット、*アクプラなどがあります。これらの抗がん薬は、副作用が強いシスプラチンの代わりになる抗がん薬として開発されたものでした。
確かに副作用の点では使いやすいのですが、効果の点で最も優れているのはシスプラチンでした。したがって、現在でも、シスプラチンを使用できる患者さんであれば、効果を優先してシスプラチンが使われています。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *パラプラチン=一般名カルボプラチン *エルプラット=一般名オキサリプラチン *アクプラ=一般名ネダプラチン
小細胞肺がんへの治療①限局型――シスプラチン+エトポシド療法+放射線治療
◎小細胞肺がんの限局型と進展型
シスプラチンは多くのがん種の治療に使われていますが、その中の1つの例として、小細胞肺がんに対する治療を紹介します。
肺がんはがん細胞の病理組織学的な違いから、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられます。肺がんの10~15%を占める小細胞肺がんは、進行が速く、手術だけでは治せないのが特徴です。その代わり、抗がん薬と放射線療法がよく効きます。
進行の程度により、限局型と進展型に分類し、それぞれ異なる治療が行われます(図2)。限局型は、がんが片肺に留まっていて、遠隔転移がないものです。片肺なので、手術や放射線療法を併用できます。
これに対し、がんが片肺にとどまらず、それを越えて広がっているのが進展型です。
◎投与方法(シスプラチン+エトポシド療法)
抗がん薬による化学療法と放射線療法を併用します。70歳以下で、全身状態が比較的良好で、とくに腎機能が悪くなければ、シスプラチンを使った併用療法が行われます。
標準治療とされているのが、「シスプラチン+*エトポシド療法」と放射線療法の同時併用療法です。4週で1コースとなっており、1日目にシスプラチン、1、2、3日目にエトポシドを投与します。これを4コース続けます。そして、1コース目のみについて、1、2、3週目にそれぞれ5日間ずつ、1日2回の放射線療法が行われます(図3)。
短期間に集中して抗がん薬治療と放射線療法を行うため、副作用も強く、患者さんにとっては負担の大きな治療です。ただし、限局型の小細胞肺がんは、この治療で3割ほどの患者さんが治癒しますから、副作用があっても頑張る価値のある治療と言えます。
年齢や腎機能の問題でシスプラチンが使えない場合には、代わりにカルボプラチンが使われます。また、数は少ないのですが、Ⅰ期(がんが3㎝以下でリンパ節転移なし)では手術が行われ、その後に抗がん薬治療が行われます。
*エトポシド=商品名ベプシド/ラステット
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