患者のためのがんの薬事典
オプジーボ(一般名:ニボルマブ)メラノーマ治療で期待の新薬
皮膚がんの1つ、メラノーマには長い間、インターフェロンとダカルバジンしか打つ手がありませんでした。しかも、それらの効果は弱く、決定的な一手には成り得ないものでした。オプジーボは、日本で開発され世界に先駆けて発売された免疫療法薬です。メラノーマへの新たな一手として、治療が始まっています。
メラノーマとはどんな病気?
メラノーマは皮膚に発生する皮膚がんの1つ。悪性黒色腫とも言われ、非常に悪性度の高いがんです。日本人は10万人当たり2人の発症率で、欧米の10万人当たり20~30人に比べれば低い頻度です。しかし、10年前と比べると増加傾向にあると言われています。これは、高齢化や紫外線の影響に加え、メラノーマという病気が知られてきたことで、早期受診が増えたことによると考えられます。
メラノーマの治療の基本は、手術でがんを切除することです。再発リスクがある場合や、手術の対象とならない場合は、薬による治療を行います。
これまで、メラノーマの治療に使える薬は、*インターフェロンβと*ダカルバジンしかありませんでした。
インターフェロンβは、リンパ節転移が起きている場合、術後の補助療法としてメラノーマがあった部位やリンパ節転移がある部位に注射します。ただし、内臓への転移には使えず、皮膚転移だけに使用されます。
内臓への転移に対しては、抗がん薬のダカルバジンが使用されます。ダカルバジン単剤での奏効率は5~20%ですが、ほとんどが部分奏効(PR)であり、完全奏効(CR)となるのは稀です。生存期間の延長効果はほとんど認められず、無増悪生存期間(PFS)も1.5~1.6カ月です。
ダカルバジンを含めた3種類の抗がん薬と*ノルバデックスを併用した、*DAC-Tam療法も奏効率は20.8%と、大きな効果は望めません。
しかし、これまで日本で保険適用されたメラノーマの薬物治療はこの2つの組み合わせのみでした。
*インターフェロンβ=商品名フエロン *ダカルバジン=一般名ダカルバジン *ノルバデックス=一般名タモキシフェン *DAC-Tam療法=ダカルバジン(一般名ダカルバジン)+ニムスチン(一般名ニドラン)+シスプラチン(商品名ブリプラチン/ランダ)+ノルバデックス(一般名タモキシフェン)
どんな薬?――オプジーボの特徴
こうした状況の中、2014年9月、世界に先駆けて日本でオプジーボが発売されました。オプジーボは、抗PD-1抗体薬と呼ばれる免疫療法薬です。
◎オプジーボが効くしくみ
私たちの身体に外敵や異物が侵入してくると、T細胞という免疫細胞が主体となってこれらの外敵を攻撃します(図1)。T細胞はがん細胞も「自分ではないもの」と判定し、攻撃します。
一方、がん細胞は自分を守るために、表面にPD-L1という物質を提示します。これがT細胞にあるPD-1受容体に結合すると、がん細胞への攻撃をストップする信号が出され、T細胞の働きを抑制してしまいます。
オプジーボは、T細胞のPD-1受容体に結合して、がん細胞のPD-L1との結合を阻止します。そのため免疫機能にブレーキがかからず、T細胞ががんを攻撃する力を高めます。
つまり、オプジーボは、がん細胞の分裂増殖を抑制するといった従来の抗がん薬の働きと異なり、自分自身の力を使いながら、それを最大限に発揮できるようにする薬なのです。
◎オプジーボの効果
国内第Ⅱ相試験のオプジーボの全生存期間(OS)の中央値は473.0日、奏効率は22.9%でした(図2)。この試験は、ダカルバジンによる化学療法を行っても効果が現れなかった患者さんに行われたものです。ダカルバジンを使った上での、この数字は評価できるものと言えるでしょう。
実際に使用した感触でも、「効く人には非常に効果がある」と実感を得られています。これまでの治療は、それほど効果がみられないものだっただけに、効果の実感は大きいようです。
一方、この薬でも効果が得られない人もいます。新しい薬とはいえ、過度な期待は禁物です。効果が得られる人と得られない人との違いについては、現在研究が進められているところです。
◎オプジーボの投与方法
オプジーボの投与は、3週間に1回(図3)。体重あたり、2㎎/㎏です。つまり体重100㎏の人なら200㎎を3週間ごとに投与します。
投与時間は1時間半程度のため、入院の必要はなく、通院で治療を行うことができます。
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