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切除不能再発・進行大腸がんの治療を変える~新しい研究結果から

アービタックス(一般名:セツキシマブ)/ベクティビックス(一般名:パニツムマブ)大腸がんの抗EGFR抗体薬

監修●水沼信之 がん研有明病院消化器センター消化器化療担当部長
取材・文●星野美穂
発行:2015年3月
更新:2015年8月

  

一般名:セツキシマブ
承認:2008年7月
効能・効果:EGFR陽性
の治癒切除不能な進行・
再発の結腸・直腸がん、
頭頸部がん

一般名:パニツムマブ
承認:2010年4月
効能・効果:KRAS遺伝子
野生型の治癒切除不能な
進行・再発の結腸・直腸
がん

現在、分子標的薬は大腸がん治療の1次治療から使用され、治療上重要な位置を占めています。分子標的薬の1つである、抗EGFR抗体薬について、2014年新しい研究結果の発表が相次ぎました。これにより、使うべき患者さんがより確実に選択され、どの治療法を第1選択(ファーストライン)とすべきかも明らかになってきました。

どんな薬?――大腸がんの抗EGFR抗体薬

◎抗EGFR抗体薬の作用

抗EGFR抗体薬とは、がんの細胞膜上にある上皮細胞成長因子受容体(EGFR)に結合して、上皮成長因子(EGF)の働きを阻害する分子標的薬です。

タンパク質の一種であるEGFがEGFRに結合すると、「細胞を増殖しろ」というシグナルを出します。がん細胞ではこの仕組みが暴走し、がん細胞の増殖が止まらなくなることがあります(図1)。

図1 抗EGFR抗体薬の働き

抗EGFR抗体薬がEGFRに結合すると、がん細胞の増殖を促進するシグナルが出なくなり、がん細胞の増殖を止めることができます。このような働きをする抗EGFR抗体薬の大腸がん治療薬には、アービタックスとベクティビックスの2つがあります。単剤でも効果がありますが、他剤と併用することも多い薬剤です。

◎KRAS野生型に効果を発揮

一方、増殖のシグナルを細胞内で伝達するタンパク質「KRAS」を司るKRAS遺伝子が変異している場合(KRAS変異型)、抗EGFR抗体薬を使ってもシグナルがブロックされず、がん細胞は増殖を続けてしまいます。そのため、抗EGFR抗体薬を使用する前にはKRAS遺伝子の検査を行って変異の有無を確かめます。

日本では、2010年にKRAS遺伝子変異検査が保険適用となり、対象となる患者さんのほとんどにこの検査が行われています。

◎新しい研究結果❶ KRAS遺伝子以外の変異

2014年、抗EGFR抗体薬についての新たな研究結果が相次いで発表されました。

1つは、KRAS遺伝子だけでなく、NRASと呼ばれる遺伝子に変異があっても抗EGFR抗体薬が効かないということが明らかになった、という研究結果です。

KRAS遺伝子とは、細胞に増殖を促す命令を伝えるKRASタンパク質をコントロールする遺伝子のことです。KRAS遺伝子は、RASファミリーと呼ばれる遺伝子型の1つであり、NRAS、HRASがあります。切除不能な大腸がんの患者さんを調べると、その約60%はKRAS野生型、つまり変異がないタイプです。残りの4割には変異があり、抗EGFR抗体薬は効果がないと判断されます。

ところが、KRAS野生型と診断された人でも 抗EGFR抗体薬が効いていない人がいました。それらの人のRAS遺伝子を詳しく解析してみると、KRAS遺伝子の別の部位の変異や、NRAS遺伝子に変異が認められたのです(図2)。

図2 RAS変異の追加解析による分布

この結果が発表されたことにより、欧米では、従来抗EGFR抗体薬の治療対象を「KRAS野生型」としていたものを、「KRAS/NRAS野生型」としました。そして、変異を認める症例には、ガイドラインや添付文書で抗EGFR抗体薬の投与を「推奨しない」と明記されています。

つまり、すべてのRAS遺伝子(ALL RAS)を検査することで、確実に効果がある患者さんを選択して薬が投与できるようになったのです。

◎新しい研究結果❷ ALL RAS野生型への効果

図3 FOLFIRI+アービタックスの効果(全生存期間)

(Heinemann V,etal.2013ECC#17)

もう1つ注目されているのは、大腸がんの1次治療として何が1番効果的かを検討した「FIRE3」試験の結果です。

これはKRAS野生型(KRAS遺伝子変異がない)で切除不能進行・再発大腸がんの1次治療として、FOLFIRI+アービタックスで治療した患者さんと、FOLFIRI+アバスチンを使った患者さんとで奏効率や全生存期間(OS)を比較したもの。

結果は、無増悪生存期間(PFS)の中央値は、アービタックス群が10.0カ月、アバスチン群は10.3カ月で、有意差は認められませんでした。しかし全生存期間の中央値でアービタックス群が28.7カ月だったのに対し、アバスチン群が25.0カ月となり、アービタックス群が3.7カ月、有意に生存期間を延長させました。

さらに、KRAS遺伝子以外のほかの全RAS野生型(すべてのRAS遺伝子に変異がない) の患者さんにおいては、FOLFIRI+アービタックスで全生存期間が7.5カ月延長したという結果が得られました(図3)。

つまり、RASが全て野生型の患者さんにFOLFIRI+アービタックスを使用すると、臨床的に意義のある生存期間の延長が得られたという結果だったのです。

◎これからの大腸がん治療

こうした研究結果から、今後の切除不能・再発大腸がんの治療では、ALL RAS遺伝子検査を行い、ALL RAS野生型ならFOLFIRI+アービタックスが第1選択薬になってくると考えられます。

一方、RASに遺伝子変異がある場合は、FOLFOXもしくはXELOXにアバスチンを併用するのが第1選択です。

また、ベクティビックスによる治療は、アービタックスと同様の効果が期待できますが、FIRE3やCALGBのような直接比較の研究がないのが現状です。

アービタックス=一般名セツキシマブ ベクティビックス=一般名パニツムマブ FOLFIRI=ロイコボリン(一般名レボホリナート)+5-FU(一般名フルオロウラシル)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン) アバスチン=一般名ベバシズマブ FOLFOX=ロイコボリン(一般名レボホリナート)+5-FU(一般名フルオロウラシル)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) XELOX=ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラット(一般名オキサリプラチン)

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