卵巣がんの初回化学療法の第一選択となる標準治療
タキソール(一般名:パクリタキセル)/パラプラチン(一般名:カルボプラチン)卵巣がんのTC療法
承認:1997年10月
適応:卵巣がん、
非小細胞肺がん、乳がん、
胃がん、子宮体がん、
再発または遠隔転移を
有する頭頸部がん、ほか
承認:2006年12月
適応:頭頸部がん、
肺小細胞がん、睾丸腫瘍、
卵巣がん、子宮頸がん、
悪性リンパ腫、非小細胞
肺がん、ほか
卵巣がんの標準治療は、90年代前半のエンドキサンとシスプラチンの併用療法(CP療法)に代わり、90年代後半にタキソールとシスプラチンの併用療法(TP療法)の登場により高い効果が得られるようになりました。さらに、タキソールとカルボプラチンの併用療法(TC療法)はTP療法と比べて効果は同じでも副作用が少ないという臨床試験結果が示されました。その結果、現在ではTC療法が標準的治療として世界中で推奨されています。
どんな薬をつかう治療?――TC療法
卵巣がんの初回化学療法における第一選択の標準治療がTC療法です。TC療法の「T」は*タキソール(一般名パクリタキセル)、「C」は*カルボプラチン(商品名パラプラチン/カルボプラチン)を表します。
タキソールは、イチイという植物の樹皮から合成された薬です。「タキサン系」と呼ばれる薬で、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管に作用し、がん細胞の増殖を阻止します。
カルボプラチンは、「白金(プラチナ)製剤」と呼ばれる薬です。がん細胞のDNAの複製を阻害し、がん細胞の増殖を起こりにくくする薬です。
*タキソール=商品名パクリタキセル *カルボプラチン=商品名パラプラチン/カルボプラチン
投与方法
3週間に1回、点滴で薬剤を投与します(図1)。必ずタキソールをカルボプラチンよりも先に投与します。カルボプラチンを投与したあとにタキソールを投与すると、腎臓からのタキソールの排出が遅れて体内での濃度が高まることにより、高度な骨髄抑制が引き起こされる危険性があるためです。また、過敏症を引き起す恐れがあるため、予防する薬を治療前に投与します。
◎知っておきたい!副作用と対策
◆過敏症
頻脈(脈が早くなる)や紅潮(顔やからだが赤くなる)、血管浮腫、発汗、発疹などの症状が、多くは投与10分以内に発現します。とくにカルボプラチンは、治療回数が増えると過敏症が現れる率が高くなることが知られています。
過敏症の症状が現れたら、すぐに医療者に知らせます。
◆末梢神経症状
手首からの先や足首から下の部分に、ピリピリとしたしびれや刺激感、灼熱感が現れることがあります。治療の回数を重ねるにつれて、発現の頻度が高まることが知られています。
末梢神経症状の有効な治療法は確立されていませんが、手足を温めたり、マッサージすることで症状が緩和するとして勧められています。症状が強く、日常生活に支障を来す場合は休薬することもあります。
期待される新治療――ddTC療法
◎投与間隔を短くし 効果を高める
TC療法は、タキソールとカルボプラチンを3週間ごとに投与しますが、2剤のうちタキソールだけを1週間ごとに投与する治療法が、ddTC療法です。
ddとは、dose-dense(ドーズ:投与量、デンス:濃密な)の略語で、より短い間隔で抗がん薬を投与することにより、体に留まる抗がん薬の濃度を高めてがんを効果的に叩くという考え方のもとに開発された治療法です(図2)。
TC療法とddTC療法を比較した臨床試験において、3年全生存期間(OS) は ddTC療法群72.1%、TC療法群65.1%と、ddTC療法群で有意な延長効果が認められました。また無増悪生存期間(PFS)中央値でも、TC療法が17カ月であったのに対し、ddTC療法では28カ月と有意な延長が認められました。
このddTC療法では、タキソールの量を従来のTC療法よりも多く投与できることがメリットです。TC療法では3週間あたりに投与できるタキソールの量は180mg/dlですが、ddTCでは1回につき80mg/dl、3週あたりでは240ml/dlを投与できます(図3)。
その効果の高さから、今後、標準治療となるべき治療法と考えられています。
◎副作用や通院頻度がデメリット
一方、デメリットもあります。貧血などの副作用も強く出ることが多いため、治療を続けられない患者さんも少なくありません。毎週投与のほうが効果は高いにしても、決められたサイクル数を完遂できないよりは、3週に1回の治療を続けたほうが効果は上がると考えられます。
また、TC療法なら3週に1回の通院ですみますが、ddTC療法は、毎週通院しなくてはなりません。仕事をもっていたり、病院が遠い場合には患者さんの負担が大きくなります。
TC療法とddTC療法のどちらを選ぶかは、それぞれのメリットとデメリット、そして治療を受ける患者さん自身の状況を考慮して、医師とコミュニケーションを取りながら考えていく必要があるでしょう。
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