※ただし、化学療法未治療例への安全性有効性は未確立

前立腺がんの治療では、ホルモン療法が行われることがあります。それが効かなくなったのが、「去勢抵抗性前立腺がん」です。かつて、治療薬はタキソテールだけでしたが、2014年に、イクスタンジ、ザイティガ、ジェブタナが承認され、これらも治療に使用できるようになりました。選択肢が増えたことで、治療の可能性が広がったと言えます。ただし、これらの薬をどの順番で使うのがよいのかについては、現在のところ明確なエビデンス（科学的根拠）はありません。

去勢抵抗性前立腺がんの治療

前立腺がんの増殖には男性ホルモンがかかわっているため、男性ホルモンの分泌を抑えたり、男性ホルモンががん細胞に作用するのを妨げたりするホルモン療法が行われています。男性ホルモンの分泌を抑えるのに使われる薬は、LH-RHアゴニスト（作動薬）、あるいはLH-RHアンタゴニスト（拮抗薬）です。がん細胞に作用するのを妨げるのには抗アンドロゲン（男性ホルモン）薬が使われます。男性ホルモンが低下した状態、つまり去勢状態にすることで、前立腺がんに治療効果を発揮するのです。

ところが、ホルモン療法が効かなくなることがあります。この状態の前立腺がんを去勢抵抗性前立腺がんといいます。

去勢抵抗性前立腺がんの治療には、かつて＊タキソテールが使われていました。ホルモン療法が効かない状態なので、抗がん薬が治療に使われたのです。

そのような中、2014年に去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、＊イクスタンジ、＊ザイティガ、＊ジェブタナという3種類の薬が承認されました。従来からあるタキソテールと合せて、4種類の薬剤が使えるようになったのです（図1）。

図1 去勢抵抗性前立腺がんの治療薬の位置づけ

＊タキソテール=一般名ドセタキセル　＊イクスタンジ=一般名エンザルタミド　＊ザイティガ=一般名アビラテロン　＊ジェブタナ=一般名カバジタキセル

どんな薬？――タキソテール

タキサン系の抗がん薬です。細胞分裂を阻害することで、治療効果を発揮します。前立腺がんに限らず、乳がんや肺がんなど、多くのがんの治療に使われています。

副作用としてあげられるのは、白血球減少や好中球減少、脱毛、末梢神経障害によるしびれなどです。また、投与時にアレルギー反応が起こることがあります。

こうした副作用を心配して、抗がん薬による治療に強い抵抗を持つ人が多いのが現状です。しかし、実際には、副作用は比較的軽度で、患者さんが心配するほどではありません。

3週間～4週間に1回、点滴で投与します。ステロイド系抗炎症薬の＊プレドニゾロンを併用する場合があります。

＊リュープリン=一般名リュープロレリン　＊ゾラデックス=一般名ゴセレリン　＊ゴナックス=一般名デガレリクス　＊カソデックス=ビカルタミド　＊オダイン=一般名フルタミド　＊ミトキサントロン=商品名ノバントロン　＊プレドニゾロン=商品名プレドニゾロン／プレドニン

どんな薬？――イクスタンジ

イクスタンジは、新規の抗アンドロゲン薬です。抗アンドロゲン薬は、自らががん細胞の男性ホルモンの受容体に結合することで、男性ホルモンが作用するのを阻害する働きがあります。イクスタンジは、男性ホルモンの受容体への結合を阻害することにより、受容体が細胞の核内に移行するのを阻害し、DNA合成を阻害するという複合的な作用を持ちます。そのため、従来の抗アンドロゲン薬（カソデックス、オダインなど）に比べ、より強力な治療効果を発揮するのです。

化学療法後の去勢抵抗性前立腺がんの患者さんを対象とし、イクスタンジとプラセボ（偽薬）を比較した臨床試験が行われています。その結果、全生存期間（OS）中央値は、プラセボ群の13.6カ月に対し、イクスタンジ群が18.4カ月でした（表2）。この結果により、去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として認可されることになったのです。

副作用としては、疲労感ややる気の減退が現れることがあります（表3）。神経にも男性ホルモン受容体があり、この働きも阻害されてしまうために起こる現象と思われます。

経口剤で、毎日服用します。

表2 新規薬剤の効果（タキソテール既治療去勢抵抗性前立腺がんに対する第Ⅲ相臨床試験結果）

表3 4薬剤の投与法と副作用