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患者のためのがんの薬事典

ザーコリ(一般名:クリゾチニブ)
ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに期待の新薬

取材・文:平出 浩
発行:2012年9月
更新:2019年7月

  
写真:ザーコリ(一般名クリゾチニブ)

進行・再発非小細胞肺がんの治療薬にザーコリという新しい薬が登場しました。
この薬には、ALK融合遺伝子をもつがんに効果的な薬剤として世界で注目が集まっています。
日本では今年3月に、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対して適応が認められ、期待どおりの効果を上げています。

肺がん治療に新たな薬剤

[クリゾチニブの作用]
クリゾチニブの作用

肺がんに対して高い効果を期待できる分子標的薬のザーコリが、今年の3月に承認され、使われるようになりました。ザーコリが適応になる肺がんは、ALK融合遺伝子陽性で、切除することができない進行・再発の非小細胞肺がんに限られます。非小細胞肺がんは、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分けられますが、それらすべてが対象です。

ALK融合遺伝子とは、ALKと呼ばれる遺伝子と、ほかの遺伝子が融合してできた異常な遺伝子のこと。このALK 融合遺伝子が陽性の肺がんの患者さんは、非小細胞肺がんの患者さんの3~5%ほどいます。

ALK融合遺伝子があると、細胞の増殖にかかわるタンパク質が活性化され、がん細胞などの細胞が無秩序に増え続けてしまいます。ザーコリはそのタンパク質の活性化を抑え、がん細胞が増殖するのを抑制し、がん細胞を死滅させる効果が期待できます。

60%を超える高い奏効率

[クリゾチニブの効果](国内臨床試験結果より)
クリゾチニブの効果(国内臨床試験結果より)

ザーコリが適応になるかどうかについては、ALK融合遺伝子が陽性か陰性かを検査によって明らかにする必要があります。検査には、がん細胞が必要なため、針や気管支鏡でがん細胞を採取します。また、再発前に手術をしている場合は、その手術の際に採取していたがん細胞を使用することや、喀痰に含まれるがん細胞を用いることもあります。

ザーコリの効果は顕著で、およそ90%の人にがん細胞の縮小が見られたという研究報告があります。また、これまでの抗がん剤治療では10%程度だった奏効率(がん細胞が完全に消失するか、大きさが半分以下に縮小する割合) は61.2%と、非常に高い効果を示すデータが出ています。

このうち、がん細胞が完全に消滅する完全奏効は1.7%あります。1.7%という数字自体は決して高く見えないかもしれません。ですが、進行した肺がん患者さんの場合でいうと、がん細胞が消失することはまれです。しかも、1種類の薬剤でがん細胞が消失するのは極めて珍しいことです。そのような現状にあっては、画期的な効果であるとして注目されています。

また、治療の最初に使う薬剤としてだけでなく、先に別の抗がん剤治療などを行い、その後の2番目、3番目、4番目にザーコリを使った場合でも、高い奏効率が認められています。延命効果については、ザーコリと従来の抗がん剤とで、現在、比較試験が行われています。

視覚障害などの副作用がある

ザーコリはカプセル剤で、原則として250㎎のカプセル1個を1日2回、服用します。副作用が強い場合などは、200㎎のカプセル1個を1日2回、それでも強い副作用が出る場合などは、250㎎ のカプセル1個を1日1回、服用します。

ザーコリに特徴的な副作用として、視覚障害が挙げられます。具体的には、光視症()、飛蚊症()、複視()・霧視()などがあります。

視覚障害は一時的な症状で、目そのものに何らかの障害が起こるわけではありません。とくに処置をしなくても、症状は次第に治まります。ただし、服用後は車の運転を控えるなどの対策が必要です。

とくに注意が必要な副作用としては、間質性肺炎()と肝機能障害が挙げられます。最悪の場合、これらの副作用がもとで亡くなることもあります。咳、発熱、呼吸困難、ひどい倦怠感など、心当たりのある症状が出た場合は、主治医に速やかに相談することが必要です。

ほかには、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が、30~50%弱程度の割合で見られます。

今回得られた効能・効果「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」で、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの患者さんであれば、前治療の数にかかわらず、ザーコリを使用することが可能です。

光視症=暗いところで光が見える症状。視野の中心や端に光が飛んで見えたりする
飛蚊症=目の前に蚊などの小さな虫が飛んでいるように見えたり、糸くずのようなものが浮いているように見えたりする症状
複視=物が二重に見えたりする症状
霧視=霧(きり)や霞(かすみ)がかかっているように見える症状
間質性肺炎=肺の間質と呼ばれる部位に炎症が起こる病気。進行すると、肺が線維化して、呼吸機能が著しく低下する

がんの種類を超えて適応になる可能性も

また、ALK融合遺伝子は、肺がん以外のがんでもみられるため、それらを対象とした臨床試験も実施されています。今後は胃がんや大腸がんなど、ほかのがん種にも適応が広がる可能性があります。

これまで、がん治療薬の開発はがん種ごとに臨床試験が行われ、適応が承認されてきました。しかし、ザーコリのように、さまざまながん種に共通する遺伝子の異常に注目して開発された薬剤は、がん種を超えた治療に幅広く使われる可能性があります。それは、がんのタイプに合わせて最適な治療を行う個別化治療の道を開くことにつながるでしょう。


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