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患者のためのがんの薬事典

ランマーク(一般名:デノスマブ)
がんの骨転移による骨病変を管理する新薬

取材・文:柄川昭彦
発行:2012年8月
更新:2014年1月

  
写真:ランマーク(一般名デノスマブ)

乳がん、前立腺がん、肺がんなどのがんでは、骨への転移が起こり易く、その管理が重要です。
骨転移があると、骨に激しい痛みが発生したり、骨折が起きたりすることで、患者さんのQOL(生活の質)は著しく低下します。こうした事態を防ぐため、新たな治療薬「ランマーク」が登場しました。骨病変の薬としては初めての分子標的薬で、その優れた効果が注目を集めています。

がんによる骨の病変で多くの人が苦しんでいる

がんによって骨に病変が起こることがあります。

どのような種類の固形がんでも骨に転移することがありますが、とくに転移しやすいのは、乳がん、前立腺がん、肺がんなどです。これらはいずれも患者数の多いがんなので、骨転移を起こす人も多くなります。また、多発性骨髄腫においても同様に、骨病変の管理は重要です。

骨転移や多発性骨髄腫があると、骨の激しい痛みにおそわれたり、骨折することが多くなります。このことによって、患者さんのQOLは著しく低下してしまうことが知られています。

そこで、こうした骨病変が起きるのを抑えるため、新しい薬が開発されました。それがランマークです。臨床試験では、従来から使われてきた薬を上回る効果が証明されています。

骨病変に対する初めての分子標的薬

[デノスマブの作用]
デノスマブの作用

デノスマブは、RANKLを阻害することで腫瘍が引き起こす骨破壊の悪循環を断ち切ると考えられている

ランマークは、どのようにして骨折などが起きるのを防ぐのでしょうか。それを説明するためには、まずがんが骨を弱くするメカニズムを理解する必要があります。

通常、骨では、新しい骨を作る骨芽細胞と、古い骨を溶かす破骨細胞が、バランスを取りながら働いています。ところが、骨で増殖するがんは、骨芽細胞を刺激してRANKL(ランクル)という物質の分泌を盛んにします。このRANKLは古い骨を溶かす破骨細胞を作ったり、活性化させたりします。そのため、RANKLが増え過ぎると、骨をどんどん溶かしてしまいます。

また、この破骨細胞が活性化すると、がんの増殖に必要な物質が増え、がんの増殖も進みます。このことによって、さらに破骨細胞が活性化するという悪循環に陥ってしまうのです。

ランマークは、古い骨を溶かす破骨細胞の増殖に必要なRANKLとだけ結合する抗体で、RANKLと破骨細胞が結合するのを妨げ、この悪循環を断ち切ります。このようにして破骨細胞の働きを抑え、骨が弱くなるのを抑制するのです。

大規模な臨床試験で従来薬を上回った

[デノスマブによる治療]
デノスマブによる治療

ランマークの効果を調べる臨床試験は、対象とする患者さんのがん種により、3つに分けて行われました。1つは乳がんの患者さん、もう1つは前立腺がんの患者さん、そしてもう1つは、乳がん、前立腺がん以外の固形がんと多発性骨髄腫の患者さんです。合計患者数が5700人余りという大規模な国際共同試験でした。

従来から使われてきた薬と比較するため、ランマーク群には「ランマーク+プラセボ(偽薬)」を投与し、従来薬群には「従来薬+プラセボ」が投与されました。

そして、最初の骨関連事象が起きるまでの期間を比較しました。骨関連事象には、「骨に対する外科的処置」「病的骨折」「脊髄圧迫」「骨への放射線治療」が含まれますが、最初に起こるこれらの骨関連事象を抑えることは、その後のQOL維持に非常に重要なことが知られています。こうした事態が起きるのを、どれだけ防ぐことができるかを調べたのです。

その結果、最初の骨関連事象が起きるまでの期間の中央値は、ランマーク群が27.6カ月であり、従来薬群の19.4カ月と比べて、8.2カ月延びました。ランマークの効果が従来薬に比べて劣らないことが証明され、むしろ優れていることが明らかになりました。

また、ランマークは皮下注射であることで利便性も向上しています。

口内を清潔に保ち血中カルシウムに注意

ランマークにはとくに注意したい2つの副作用があります。あごの骨が壊死する顎骨壊死と、低カルシウム血症で、これらは従来薬でも見られた副作用です。

顎骨壊死は、あごの骨が炎症を起こし、やがて骨の破壊が進んでいく副作用です。これを防ぐためには、抜歯などの歯科治療を避けることや、歯みがきを励行し、定期的な歯科検診を受けるなど、口腔内を清潔に保つことが必要になります。虫歯や歯周病がある場合には、ランマークの治療を始める前に、きちんと治療しておくことが勧められます。

低カルシウム血症は、破骨細胞の働きが抑えられることによって、骨からカルシウムが血中に溶け出しにくくなることで、起こりやすくなります。ランマークによる治療中は、定期的に血中のカルシウムを調べることが大切で、値が下がっていれば、カルシウム剤やビタミンDで対処します。

現在、ランマークを用いたいくつかの臨床試験が進行中です。将来、ランマークは、骨転移に苦しむ患者さんを減らすのに、さらに役立っているかもしれません。


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