患者のためのがんの薬事典
ランマーク(一般名:デノスマブ)
がんの骨転移による骨病変を管理する新薬
乳がん、前立腺がん、肺がんなどのがんでは、骨への転移が起こり易く、その管理が重要です。
骨転移があると、骨に激しい痛みが発生したり、骨折が起きたりすることで、患者さんのQOL(生活の質)は著しく低下します。こうした事態を防ぐため、新たな治療薬「ランマーク」が登場しました。骨病変の薬としては初めての分子標的薬で、その優れた効果が注目を集めています。
がんによる骨の病変で多くの人が苦しんでいる
がんによって骨に病変が起こることがあります。
どのような種類の固形がんでも骨に転移することがありますが、とくに転移しやすいのは、乳がん、前立腺がん、肺がんなどです。これらはいずれも患者数の多いがんなので、骨転移を起こす人も多くなります。また、多発性骨髄腫においても同様に、骨病変の管理は重要です。
骨転移や多発性骨髄腫があると、骨の激しい痛みにおそわれたり、骨折することが多くなります。このことによって、患者さんのQOLは著しく低下してしまうことが知られています。
そこで、こうした骨病変が起きるのを抑えるため、新しい薬が開発されました。それがランマークです。臨床試験では、従来から使われてきた薬を上回る効果が証明されています。
骨病変に対する初めての分子標的薬
ランマークは、どのようにして骨折などが起きるのを防ぐのでしょうか。それを説明するためには、まずがんが骨を弱くするメカニズムを理解する必要があります。
通常、骨では、新しい骨を作る骨芽細胞と、古い骨を溶かす破骨細胞が、バランスを取りながら働いています。ところが、骨で増殖するがんは、骨芽細胞を刺激してRANKL(ランクル)という物質の分泌を盛んにします。このRANKLは古い骨を溶かす破骨細胞を作ったり、活性化させたりします。そのため、RANKLが増え過ぎると、骨をどんどん溶かしてしまいます。
また、この破骨細胞が活性化すると、がんの増殖に必要な物質が増え、がんの増殖も進みます。このことによって、さらに破骨細胞が活性化するという悪循環に陥ってしまうのです。
ランマークは、古い骨を溶かす破骨細胞の増殖に必要なRANKLとだけ結合する抗体で、RANKLと破骨細胞が結合するのを妨げ、この悪循環を断ち切ります。このようにして破骨細胞の働きを抑え、骨が弱くなるのを抑制するのです。
大規模な臨床試験で従来薬を上回った
ランマークの効果を調べる臨床試験は、対象とする患者さんのがん種により、3つに分けて行われました。1つは乳がんの患者さん、もう1つは前立腺がんの患者さん、そしてもう1つは、乳がん、前立腺がん以外の固形がんと多発性骨髄腫の患者さんです。合計患者数が5700人余りという大規模な国際共同試験でした。
従来から使われてきた薬と比較するため、ランマーク群には「ランマーク+プラセボ(偽薬)」を投与し、従来薬群には「従来薬+プラセボ」が投与されました。
そして、最初の骨関連事象が起きるまでの期間を比較しました。骨関連事象には、「骨に対する外科的処置」「病的骨折」「脊髄圧迫」「骨への放射線治療」が含まれますが、最初に起こるこれらの骨関連事象を抑えることは、その後のQOL維持に非常に重要なことが知られています。こうした事態が起きるのを、どれだけ防ぐことができるかを調べたのです。
その結果、最初の骨関連事象が起きるまでの期間の中央値は、ランマーク群が27.6カ月であり、従来薬群の19.4カ月と比べて、8.2カ月延びました。ランマークの効果が従来薬に比べて劣らないことが証明され、むしろ優れていることが明らかになりました。
また、ランマークは皮下注射であることで利便性も向上しています。
口内を清潔に保ち血中カルシウムに注意
ランマークにはとくに注意したい2つの副作用があります。あごの骨が壊死する顎骨壊死と、低カルシウム血症で、これらは従来薬でも見られた副作用です。
顎骨壊死は、あごの骨が炎症を起こし、やがて骨の破壊が進んでいく副作用です。これを防ぐためには、抜歯などの歯科治療を避けることや、歯みがきを励行し、定期的な歯科検診を受けるなど、口腔内を清潔に保つことが必要になります。虫歯や歯周病がある場合には、ランマークの治療を始める前に、きちんと治療しておくことが勧められます。
低カルシウム血症は、破骨細胞の働きが抑えられることによって、骨からカルシウムが血中に溶け出しにくくなることで、起こりやすくなります。ランマークによる治療中は、定期的に血中のカルシウムを調べることが大切で、値が下がっていれば、カルシウム剤やビタミンDで対処します。
現在、ランマークを用いたいくつかの臨床試験が進行中です。将来、ランマークは、骨転移に苦しむ患者さんを減らすのに、さらに役立っているかもしれません。
同じカテゴリーの最新記事
- 皮膚T細胞リンパ腫の新治療薬 タルグレチン(一般名ベキサロテン)
- EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療薬 イレッサ(一般名ゲフィチニブ)/タルセバ(一般名エルロチニブ)/ジオトリフ(一般名アファチニブ)/タグリッソ(一般名オシメルチニブ)
- 前立腺がん骨転移の治療薬 ゾーフィゴ(一般名ラジウム-223)/ランマーク(一般名デノスマブ)/ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)/メタストロン(一般名ストロンチウム-89)
- GIST(消化管間質腫瘍)の治療薬 グリベック(一般名イマチニブ)/スーテント(一般名スニチニブ)/スチバーガ(一般名レゴラフェニブ)
- 慢性リンパ性白血病の治療薬 FCR療法(フルダラ+エンドキサン+リツキサン)/アーゼラ(一般名オファツムマブ)/マブキャンパス(一般名アレムツズマブ)
- 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療薬 アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+イホマイド(一般名イホスファミド)/ヴォトリエント(一般名パゾパニブ)/ヨンデリス(一般名トラベクテジン)
- 悪性神経膠腫の治療薬 テモダール(一般名テモゾロミド)/アバスチン(一般名ベバシズマブ)/ギリアデル(一般名カルムスチン)
- 切除不能膵がんの治療薬 FOLFIRINOX療法/アブラキサン+ジェムザール併用療法
- 閉経前ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬 抗エストロゲン薬(ノルバデックス)/LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)
- B細胞性リンパ腫の治療薬 R-CHOP療法(リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+オンコビン+プレドニン)/VR-CAP療法(ベルケイド+リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+プレドニン)