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患者のためのがんの薬事典

フェソロデックス(一般名:フルべストラント)
閉経後の進行・再発乳がん治療の新しいホルモン剤

取材・文:増山育子
発行:2012年7月
更新:2014年1月

  
写真:フェソロデックス(一般名フルべストラント)

昨年、閉経後の進行・再発乳がんのホルモン療法に新薬が登場しました。
この薬は、既存のホルモン剤と異なる作用も備えているため、腫瘍の増殖や転移を防ぐ効果が期待されています。同時に、薬剤耐性を生じにくい可能性をもつ薬剤として、すでに別のホルモン剤による治療を受けた患者さんの2 次治療として、有力な選択肢となっています。

閉経後ホルモン療法の2 次治療に新たな選択肢

大部分の乳がんはがん細胞内にエストロゲン(女性ホルモンの一種)の受容体があり、エストロゲンがこの受容体と結合することでがん細胞の増殖が促されます。ホルモン療法は、薬の効果によって、エストロゲンとエストロゲン受容体との結合を妨げます。

ホルモン療法に用いられる薬は、閉経前か閉経後かで使いわけます。閉経後は大きく3つのタイプに分けられる薬が多く用いられますが、閉経後の進行・再発乳がん患者さんは、1 次治療としてアロマターゼ阻害剤(アロマシン()、フェマーラ()、アリミデックス())による治療からスタートするのが一般的です。

アロマターゼとは、閉経後、副腎や脂肪細胞から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンをエストロゲンに変換させる酵素です。アロマターゼ阻害剤はこの酵素の働きをブロックして、エストロゲンの合成を抑えます。

しかし、アロマターゼ阻害剤は使い続けると、耐性が出てきて薬の効き目が落ちます。そうなると、薬を変えて2次、3次治療とできるだけ長くホルモン療法を続けていくのですが、既存の3種類のアロマターゼ阻害剤は作用メカニズムが同じであるため、1つの薬が効かなくなれば他の薬も効きにくくなるという問題がありました。

そのため新しい作用をもつホルモン剤が求められていたところに、昨年、新しいホルモン剤として、フェソロデックスが承認されたのです。

アロマシン=一般名エキセメスタン
フェマーラ=一般名レトロゾール
アリミデックス=一般名アナストロゾール

受容体そのものを分解する新しい作用

[図1 進行 ・再発乳がんの治療の流れ]
図1 進行 ・再発乳がんの治療の流れ

フェソロデックスは、閉経後の進行・再発乳がんで何らかのホルモン療法を経験した患者さんに用いられます。

まず、エストロゲン受容体に結合しその働きを阻害するのは、タモキシフェンと呼ばれる古くから使用されている薬と同じです。それに加えて、エストロゲンと結合できなかった受容体そのものを分解する作用をもつことが、フェソロデックスの特徴 です。

このような作用をもつ薬が、乳がん治療薬に登場したのは初めてのことです。

耐性がつきにくいので治療期間を延ばせる

[図2 フルべストラントの作用]

図2 フルべストラントの作用

フルべストラントは、①エストロゲンに先回りしてエストロゲン受容体に結合するのみならず、②エストロゲン受容体そのものを分解し減少させることで、乳がん細胞の増殖を妨げる

前述のとおり、ホルモン剤には、耐性が生じるという問題点がありました。原因としては、前述のエストロゲン受容体自体が変化して、アロマターゼ阻害剤使用時のような、ほんのわずかなエストロゲン量であっても反応してしまう場合や、あるいはエストロゲン以外のホルモンにも反応してしまう場合などが指摘されています。

こうなるとがんは再び増殖を始め、今まで使っていた薬が最終的にはほとんど効かなくなってしまうのです。

このようなアロマターゼ阻害剤の耐性例においても、フェソロデックスの作用機序であれば効果を発揮すると期待されています。つまり、ホルモン療法の1 次治療で薬が効かなくなった後にも、十分に効く可能性があるとして、2 次治療薬に位置づけられるわけです。

進行・再発乳がんでは、可能な限り長い間QOL(生活の質)を維持しつつ、がんの進行を抑えることが治療の目的となります。この新しい薬剤の登場によって、病勢がコントロールできる期間が、さらに延長できるようになるとして、期待されています。

筋肉注射による投与で副作用も軽い

フェソロデックスは開発から10年以上たっている薬剤です。海外では、これまでの250㎎の投与量を、500㎎に増量した効果を比較する臨床試験が行われました。

対象となったのは、ホルモン療法の途中で進行・再発した患者さんです。その結果、500㎎投与群では無増悪生存期間(がんの増悪が始まるまでの期間)が6.5カ月と、250㎎投与群の5.5カ月より、1カ月長くなりました(数値はいずれも、中央値)。

今回の新薬の承認は、これらの試験結果にもとづくもので、承認用量は500㎎です。

投与方法は、1本250㎎の注射薬を左右のおしりの筋肉内に1本ずつ、1回につき500㎎を投与します。投与は、初回とその2週間後、さらにその2週間後に3回目を注射した後は、4週間ごとに1回というスケジュールです。

筋肉注射で投与するため、注射したところに痛みやしこり、かゆみが生じる場合があります。ほかのホルモン剤同様ホットフラッシュ(ほてりやのぼせ、発汗)なども見られますが、日常生活に支障が出るほど重篤な副作用ではありません。

そのほか注意を要する副作用として、肝機能障害や静脈の中で血液が小さな塊をつくる血栓塞栓症があります。これらは非常に稀ですが、体調に問題が起きたら速やかに主治医に相談しましょう。


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