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患者のためのがんの薬事典

カイトリル(一般名:グラニセトロン塩酸塩)
放射線治療による悪心・嘔吐にも使える制吐薬

取材・文:柄川昭彦
発行:2012年5月
更新:2014年1月

  
写真:カイトリル(一般名グラニセトロン塩酸塩)

カイトリルは発売からすでに20年の歴史をもつ制吐薬で、これまでは主に抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐を抑える薬として活躍してきました。そこへ、昨年12月、この薬の新たな適応として、放射線照射に伴う悪心・嘔吐が加わったのです。
これまで適当な制吐薬がなかったこの分野に光が当たり、放射線治療を受ける患者さんのQOL向上が期待されています。

放射線治療で使えるようになった

カイトリルは新しい薬ではありません。これまでも、抗がん剤治療などに伴う悪心・嘔吐の治療に、広く使われてきた制吐薬です。

もう少し厳密に説明しておきましょう。カイトリルには、経口剤(飲み薬)と注射剤(注射や点滴用の薬)があり、これまでの効能・効果は、次のようになっていました。

◆経口剤……抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐。
◆注射剤……抗がん剤治療および造血幹細胞移植前の放射線全身照射に伴う悪心・嘔吐。

造血幹細胞移植というのは、白血病など血液がんの患者さんが受ける治療です。全身への放射線照射を行うと強い悪心・嘔吐が起こるので、カイトリルの注射剤は、それを抑えるのにも使うことができたわけです。

昨年12月、カイトリルの効能・効果は、経口剤も注射剤も次のように変わりました。

「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与、および放射線照射に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)」

経口剤も注射剤も、抗がん剤治療による悪心・嘔吐と、放射線照射に伴う悪心・嘔吐に対して使えるようになったのです。

「公知申請」で薬が新たに生まれ変わる

カイトリルに新たな効能・効果が加わったのは、新たな研究データが発表されたからではありません。カイトリルが放射線照射に伴う悪心・嘔吐に効くことは、すでに海外の臨床試験で明らかになっていました。また、欧米を中心とした世界数10カ国で、放射線照射に伴う悪心・嘔吐の治療薬として使われてきたという実績もあります。これが決め手となったのです。

日本で薬の承認が遅れるドラッグ・ラグを解消するため、「公知申請」という制度が導入されました。すでに承認されている薬に適応外の効能があるような場合、科学的な根拠があり、医学的にも薬学的にも公知であると認められれば、臨床試験を省略し、新たな効能・効果が承認されることになったのです。

カイトリルは、昨年6月に開かれた「医療上必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で、放射線照射に伴う悪心・嘔吐に対する効能・効果について、公知申請に該当すると評価されました。それを受けて製薬会社が公知申請を行い、承認されることになったわけです。

神経にある受容体をブロックする薬

[悪心・嘔吐の発現メカニズム(抗がん剤・放射線照射による)]
悪心・嘔吐の発現メカニズム(抗がん剤・放射線照射による)

小腸の粘膜にある腸クロム親和性細胞からセロトニン(5-HT)が放出されると、5-HT3受容体と結びつく。その刺激は、直接または、CTZを介して嘔吐中枢に伝わり、悪心・嘔吐が起こる

カイトリルは「5-HT3受容体拮抗型」と呼ばれるタイプの制吐薬です。制吐薬は、その働きによっていくつかのタイプに分かれますが、世界中で広く使われているタイプの薬です。この薬の作用を理解してもらうには、悪心・嘔吐がどのようにして起きるのかを説明しておく必要があります。

小腸の粘膜に存在する腸クロム親和性細胞()(EC細胞)が、抗がん剤や放射線の影響を受けると、セロトニン(5-HT)という神経伝達物質を放出します。一方、小腸の粘膜に張りめぐらされた神経には、セロトニンを受け止める受容体の一つである5-HT3受容体があります。

抗がん剤や放射線の影響でEC細胞からセロトニンが放出され、それが神経の5-HT3受容体に結合すると、その刺激が神経を通り、脳にある嘔吐中枢に伝えられます。それによって悪心・嘔吐が引き起こされるのです。

5-HT3受容体拮抗型の制吐薬は、放出されたセロトニンが、5-HT3受容体と結合しないように、それをブロックする働きをします。神経が刺激されないようにすることで、悪心・嘔吐が起こるのを防ぐのです。

5-HT3受容体拮抗型の制吐薬はいくつもあるのですが、そのなかで、放射線治療に伴う悪心・嘔吐に使える制吐薬は、カイトリルだけなのです。

腸クロム親和性細胞=主に小腸粘膜に存在する内分泌細胞の一種。体内中のセロトニンの大部分がここに含まれている
CTZ=化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone)。延髄の嘔吐中枢に近接した第4脳室最後野に存在する

副作用を抑えて治療を完遂する

抗がん剤治療における悪心・嘔吐の起こりやすさは、抗がん剤の種類によって異なりますし、複数の薬を併用することでリスクは高まります。放射線治療の場合は、照射する放射線量や照射回数も影響しますが、照射する部位や面積が、悪心・嘔吐の発生に大きく影響することがわかっています。

照射部位別の悪心・嘔吐発現率については、上腹部が71%、胸部が49%、脳が40%、頭頸部が40%、骨盤部が39%、乳腺が28%、皮膚・手足が19%であったという海外のデータがあります()。全身照射は悪心・嘔吐が最も起こりやすく、80~100%の発現率となっています。こうしたデータをもとに、「放射線治療による催吐性リスク分類」が作られています。悪心・嘔吐の発現率は抗がん剤ほどではありませんが、放射線治療でも多くの患者さんが悪心・嘔吐に苦しんでいるのです。

制吐薬は、患者さんのQOL向上に役立つのはもちろんですが、それだけではありません。抗がん剤治療でも放射線治療でも、悪心・嘔吐のために治療を続けられなくなってしまうケースが少なくありません。

悪心・嘔吐に苦しむ患者さんにとって、優れた制吐薬は、治療を継続し、最後までやり遂げるための強力なサポーターでもあるのです。

出典:E.Maranzano, U. O. et. al: I. J. Radiation Oncology Biol. Phys., 44(3),619-625, 1999


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