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患者のためのがんの薬事典

ビダーザ(一般名:アザシチジン)
治療の難しかった骨髄異形成症候群で初めて生存期間を延長

取材・文:星野美穂
発行:2012年3月
更新:2014年1月

  
写真:ビダーザ(一般名 アザシチジン)

骨髄異形成症候群(MDS)は、一部の患者さんで白血病へ移行する難治性の疾患です。日本では難病に指定され、約9,000人の患者さんがいます。完全治癒を目指すには骨髄移植が唯一の方法であり、移植ができない場合は症状緩和を目的に、輸血や抗がん剤などの治療が行われます。新しく登場したビダーザは、骨髄異形成症候群の生存期間を延ばした初めての抗がん剤として注目されています。

正常な血液細胞が減少する骨髄異形成症候群

骨髄異形成症候群(MDS)とは、骨髄の中の造血幹細胞に異常が起き、正常な血液が作られなくなる病気です。正常な血液細胞が減少することで、貧血や出血を起こしやすくなったり、感染症にかかりやすくなるなどの症状が現れます。

一部の患者さんでは、骨髄異形成症候群が進行し、「芽球」と呼ばれる未熟で異常な細胞が増えると、「白血病」に移行することもあります。

減少している血液の系統数、骨髄中のがん細胞数、染色体の異常のタイプによって、軽度のものを「低リスク」、病状が進行したものを「高リスク」と分類します。

骨髄異形成症候群の治癒が期待される治療は、血液を作る組織である造血幹細胞の移植です。ただし、移植を行うためには、年齢や全身の状態、骨髄を提供するドナーの有無などの条件を満たす必要があります。

骨髄異形成症候群は高齢者に多く発症する疾患であり、持病や全身状態の影響により移植が難しい患者さんも少なくありません。移植が難しい場合は、不足した血液細胞を輸血などで補う支持療法や、抗がん剤を使用する化学療法などが行われます。ただし、どちらも根本的な治癒には至らず、治療を中止すると再発するという問題があります。

2つの作用で生存期間を延長

[アザシチジンの効果(通常治療との比較〔高リスク群〕)]
アザシチジンの効果(通常治療との比較〔高リスク群〕)

(海外臨床第3相試験より)

ビダーザは骨髄異形成症候群の治療に際し、これまでの抗がん剤にはなかった新しい作用を発揮します。その1つが、がん細胞のもととなるタンパク質の合成を妨げ、がん細胞の増殖を抑制するという作用です。

さらに、人の身体にはがん細胞の増殖を抑える役割をもつ遺伝子があります。骨髄異形成症候群の患者さんはその遺伝子が十分に働けない状態にあるとされています。ビダーザはその働きを回復させることで、がん細胞の増殖を抑えるという作用ももっています。

高リスクの患者さんを対象とした海外の臨床試験では、輸血などの支持療法や抗がん剤を使用した「通常治療」を行った患者さんと、ビダーザを使った患者さんとで、生存期間、生存率を比較しています。その結果、「通常治療」の患者さんの生存期間中央値が15.0カ月だったのに比べ、ビダーザを使った患者さんでは24.5カ月に伸びたことが確認されました。また、2年後の生存率もビダーザ群は50.8%であり、通常治療群よりも約2倍高いという結果でした。

これまで骨髄異形成症候群の患者さんの生存期間を延ばした抗がん剤は、ありませんでした。ビダーザが生存期間を延ばす効果が確認できたため、米国に続いて、欧州と日本での承認につながりました。

治療の新たな選択肢となるビダーザ

すでに8 年の使用経験のある米国では、NCCN()による使用のガイドラインができています。これによると、高リスクの患者さんの場合、移植できない患者さんではビダーザが第1 選択薬として推奨されています。また移植を待つ期間、病状の進展を抑えるためにビダーザの使用が推奨されています。移植後再発した症例に対しては、治療選択肢の1 つとなっています。

低リスクの患者さんについては、病態により使用される薬剤が異なります。貧血のほかにも血小板減少や好中球減少がある場合は、ビダーザが第1 選択薬となります。貧血のみが主症状である場合は、レブラミド()やエポジン()、免疫抑制剤の使用が勧められていますが、それらが無効な場合はビダーザを考慮することが記載されています。

ビダーザの登場により、移植ができない高リスク患者さんの生存期間の延長が期待できるだけでなく、低リスクの患者さんにも治療の選択肢が増え、負担の多かった輸血から解放される可能性も期待できます。

NCCN=世界の21の主要がんセンターのNPO団体、National Comprehensive Cancer Network
レブラミド=一般名レナリドミド
エポジン=エリスロポエチン製剤

注意すべき副作用は骨髄抑制

[アザシチジンの治療スケジュール]
アザシチジンの治療スケジュール

残念なことに、ビダーザの使用も根本的な治療には至りません。投薬を中止すると再発する危険性があります。そのため、改善に至っても投薬を続けることが理想的です。ただし、医療費の自己負担額が1カ月20万円を超えることもあり、高額療養費制度を使用しても経済的負担が決して軽いものではありません。改善したところで一旦休薬し、月1回定期的に検査を行いつつ様子をみて、検査値が悪化してくるなどの変化があれば投薬を再開する場合もあります。

投与は28日間を1サイクルとして、最初の1週間は1日1回、皮下注射または点滴静注で投与します。その後3週間は休薬。29日目から2サイクル目がはじまり、1週間投薬、3週間休薬を繰り返します。効果が現れるまでには、4~6サイクル(約半年程度)かかります。

注意すべき副作用としては、骨髄抑制があります。白血球や血小板、赤血球などの血液細胞が減少し、身体を細菌やウイルスから守る防御機能が低下するため、感染症にかかりやすくなり、発熱などを起こします。出血もしやすくなります。あらかじめ医師や薬剤師から説明を聞き、疑わしい症状が出た場合は、速やかに医師の診察を受けることが大切です。


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