患者のためのがんの薬事典
アバスチン(一般名:ベバシズマブ)
転移・再発乳がんに大きなインパクト
大腸がんや肺がんに使用されていたアバスチンが、転移・再発乳がんでも適応を取得しました。海外の臨床試験では、がんの進行を抑えた期間(無増悪生存期間)がこれまで使用されていたタキソールに加えると約2倍に延びたという結果が得られています。さらに、これまで決め手がなかったトリプルネガティブやホルモン剤無効後のホルモン陽性乳がんへの効果を示す結果も出ています。
転移・再発乳がんに適応を拡大
アバスチン(*)は、がん細胞が成長に必要な特定の分子を標的として、がんの成長を抑える新しいタイプの分子標的薬です。がんは近くの血管から、がん専用の細い血管を引き込み、栄養や酸素を補給して成長します。アバスチンはがんが出す特定の物質を標的にして、がん専用の血管の生成を妨げてがんの成長を阻害する薬です。
アバスチンはこれまで、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんや扁平上皮がんを除く非小細胞肺がんの治療に使用されてきましたが、2011年9月に手術不能、または再発した乳がんにも適応が承認され、使用できるようになりました。
乳がんは、手術してがんを切除することが治療の第1選択です。しかし、乳がんの細胞が血液やリンパ液を通じて身体の別の場所に運ばれ再発した場合、手術で取りきることはできません。そのため、身体全体に治療が行き渡るように薬による治療が基本となります。
アバスチンは、このような転移・再発した乳がんへの効果が期待されています。
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
がんが進行しない期間を2倍に延ばす効果
化学療法を受けていない転移・再発乳がんの患者さん722人に対し、これまでの標準治療薬であるタキソール(*)を単剤で投与した患者さんと、アバスチンとタキソールを併用して投与した患者さんを比較した海外の臨床試験があります。
この試験では、がんの進行が抑えられていた期間(無増悪生存期間)が、アバスチンとタキソールを併用した患者さんはタキソール単剤投与の患者さんに比べて、約2倍に伸びたという結果が得られています。また、がんを小さくする作用(奏効率(*)) も併用した患者さんで、約2倍の増強が認められました。
国内においても、アバスチンとタキソールを120人の患者さんに併用投与し、無増悪生存期間と奏効率をみた臨床試験が行われ、無増悪生存期間は海外の臨床試験と同等の12.9カ月という結果であり、奏効率は、海外よりも良好な73.5パーセントという結果でした。
がんを小さくしたり、がんが悪化するまでの期間を延ばすことで、患者さんの生活の質(QOL)の向上をもたらす効果が期待できます。
*タキソール=一般名パクリタキセル
*奏効率=がんを縮小させる効果を示す率。がんの大きさが半分以下になり、その状態が1カ月以上続いた患者の比率
さまざまなタイプの乳がんの治療の決め手に
アバスチンを使用した治療において、とくにその有用性が期待されるのが、「トリプルネガティブ」と呼ばれるタイプの乳がんです。
乳がんを引き起こし、増殖に関係する主要な因子として、女性ホルモンのエストロゲン受容体、ホルモンの一種のプロゲステロン受容体、がん遺伝子のHER2の3つがあります。トリプルネガティブとは、この3つの因子と関係なくがんが増殖している乳がんのタイプです。
エストロゲン受容体陽性であればホルモン療法が、HER2陽性ならハーセプチン(*)を使用する抗HER2療法が、効果があることがわかっています。しかしすべての因子が陰性のトリプルネガティブの場合、決め手となる治療法がなく、標準的な治療が確立されていない状況でした。
海外の臨床試験を分析したところ、アバスチンとタキソールを併用した場合、トリプルネガティブの患者さんでも無増悪生存期間を延ばしたという結果が得られています。また、選択できるホルモン療法がなくなったホルモン受容体陽性の患者さんにも、アバスチンとタキソールを併用するとさらに効果があったという結果も出ており、各種のホルモン剤を使用してしまい打つ手がなくなった場合でも、アバスチンが次の一手となることが期待されています。
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
高血圧、鼻出血などの副作用に注意
アバスチンとタキソールを使用した乳がんの治療は、4週を1コースとします。タキソールは週に1回の点滴を3週くり返し4週目はお休み、アバスチンは1週目と3週目に点滴を行います。これをくり返します。
また、タキソールが副作用により投与を続けることができなくなった場合でも、アバスチンの投与は続けることができます。アバスチンの副作用として頻度が高いものは、高血圧とタンパク尿、そして出血です。
高血圧が起きた場合には降こうあつ圧剤ざいを使用しての対処が可能です。できれば、自宅で定期的に血圧を測ると良いでしょう。タンパク尿は、尿検査で確認します。検査値が悪い場合は、休薬することがあります。
出血で多いのは鼻出血です。鼻出血は圧迫することで自然に止まることがほとんどですが、10~15分たっても止まらない場合は病院に連絡しましょう。
このほか、頻度は低いですが、心不全や脳梗塞、胃や腸に穴があく消化管穿孔、傷口が治り難くなるなどの副作用が起こることがあります。投与前に医師や薬剤師から、病院に連絡すべき副作用の症状について説明を受けておくとよいでしょう。
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