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患者のためのがんの薬事典

ゾリンザ(一般名:ボリノスタット)
治療法が非常に少ない皮膚T細胞性リンパ腫に対する経口の新薬

取材・文:柄川昭彦
発行:2011年12月
更新:2014年1月

  
写真:ゾリンザ(一般名ボリノスタット)

悪性リンパ腫の1種である「皮膚T細胞性リンパ腫」は、患者数が少ないこともあり、わが国では新しく開発される薬がほとんどありませんでした。希少疾病医薬品に指定されたゾリンザは、他の抗がん剤にはない特有の作用をもち、この難治性の病気に効果を発揮します。治療法がなかった患者さんにとって朗報です。

悪性リンパ腫の1種で患者数は非常に少ない

今年の7月にゾリンザ()という新しい抗がん剤が承認され、9月に発売になりました。適応症は、皮膚T細胞性リンパ腫。症状が皮膚に限局して現れる悪性リンパ腫の1種です。

見覚えのない病名だと感じた人が多いと思いますが、無理もありません。皮膚T細胞性リンパ腫は患者数が非常に少なく、悪性リンパ腫のなかで数パーセントと言われています。

こうした患者数の少ない病気では、治療薬の開発がなかなか進まず、患者さんが困ることがあります。そこで厚生労働省は、患者数が5万人未満で、治療するうえでとくに必要性の高い薬を選び、希少疾病医薬品として指定しています。ゾリンザはこの指定を受けた医薬品です。

皮膚T細胞性リンパ腫は皮膚に限局して症状が現れます。まず紅斑()が現れ、その後に腫瘤と呼ばれるかたまりを形成する段階に移行します。最終的には、全身に赤みを帯びた状態になり、腫瘤がいろいろな所にできてQOL(生活の質)を損ねたりします。

皮膚T細胞性リンパ腫にはいくつかのタイプがあり、菌状息肉にくしょう症とセザリー症候群と呼ばれる2つのタイプが代表的な病型です。これらの病型は、皮膚T細胞性リンパ腫の約半分を占めています。

[表1 皮膚T細胞性リンパ腫に対する治療法]

局所療法 全身療法
・ステロイド外用療法
・紫外線療法
・局所放射線療法
・全身皮膚電子線(Total Skin
  Electron Beam:TSEB)療法
・ゾリンザ
・化学療法
(エトポシド単剤、CHOPなど)
・免疫賦活療法(BRM療法)

治療には局所療法と全身療法があります。局所療法には、ステロイド薬の外用、紫外線療法、放射線療法、電子線療法と呼ばれる治療法などがあります。そして、局所療法だけで症状が抑えられない場合に、抗がん剤やインターフェロンによる全身療法が行われます(表1)。

予後は病型によってさまざまで、同じ菌状息肉症でも、ステージ(病期)によって大きく異なります。ステージ1~ステージ2Aは比較的予後が良好で、5年生存率は9割程度、10年生存率は8割程度です。これに対し、ステージ2B以降は予後が悪く、全身療法も必要になる可能性があります。

ところが、これまで日本には、全身療法として使える薬(適応薬)はありませんでした。悪性リンパ腫の適応をもつ抗がん剤は使われますが、長期にわたって十分な効果は得られにくい現状があります。そのため、全身療法を必要とする患者さんたちにとっては、皮膚T 細胞性リンパ腫に効く新しい薬の登場が待ち望まれていました。

ゾリンザ=一般名ボリノスタット
紅斑=皮膚表面に発赤を伴った状態のこと

海外の臨床試験で奏効率は約3割

[図1 ゾリンザの作用メカニズム]
図1 ゾリンザの作用メカニズム

ゾリンザは他の抗悪性腫瘍薬と異なる作用をもつ薬で、作用面からは、「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤」と呼ばれています。つまり、「ヒストン脱アセチル化酵素」という酵素の働きを阻害する薬ということです(図1)。

この作用によって、がん抑制遺伝子を含む、遺伝子の発現が増加します。すると、がん抑制遺伝子が働くことによって、がん細胞のアポトーシス()が起こったり、細胞周期が停止したりします。

ゾリンザは、このようにして治療効果を発揮するのだろうと考えられています。あいまいな表現ですが、作用機序の詳細については、まだはっきりと解明されていないのです。

どのくらい効くのかについては、海外で行われた臨床試験のデータがあります。対象となったのは、再発または難治性の皮膚T細胞性リンパ腫で、2種類以上の全身療法を受けたか、あるいは継続中の74人です。この人たちに、1日1回、400ミリグラムのゾリンザを投与しました。

その結果、奏効率は29.7パーセント。ステージ2B以上の患者さんに限っても、29.5パーセントの奏効率でした。

すでに他の全身療法を受けている患者さんであることを考えると、これは非常に高い治療成績だと言えます。

アポトーシス=あらかじめ統制された、細胞の自滅死

現れやすい副作用は血小板減少症や貧血、脱水症状

ゾリンザは経口剤です。1日に1回、400ミリグラム(4カプセル)を連日服用します。皮膚T細胞性リンパ腫の患者さんは、多くの場合、通院治療を受けています。したがって、利便性の面からも、経口剤だということは大きな利点になります。

ゾリンザを投与してはいけないと定められているのは、①この薬に対して過敏症がある人、②重度の肝障害がある人、という2つです。重度の肝障害があると、薬の血中濃度が上がり、副作用が強く現れる危険性があります。

慎重に投与するように定められているのは、①静脈血栓塞栓症しょうがあるか、過去に経験している人、②軽度および中等度の肝障害がある人、③糖尿病かその疑いがある人、という3つです。①の場合は肺塞栓症など血栓が詰まる病気が、②の場合は薬の血中濃度の上がりすぎが、③の場合は血糖値の上昇が心配されます。

副作用としては、血小板減少症や貧血など、血液毒性による症状がよく見られます。また、脱水症状にも注意が必要です。

ゾリンザは、現在のところ、日本でも海外でも、皮膚T細胞性リンパ腫の治療薬として認可されています。現在、その適応の拡大を目指し、臨床試験が進められています。何年か後、皮膚T細胞性リンパ腫以外の病気の治療にも、ゾリンザが使われるようになっているかもしれません。


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