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患者のためのがんの薬事典

リリカ(一般名:プレガバリン)
抗がん剤による手足のしびれ、痛みに効果を持つ薬が登場

取材・文:星野美穂
発行:2011年11月
更新:2014年1月

  
写真:リリカ(一般名プレガバリン)

これまで、抗がん剤の副作用による手足のしびれや痛みに対しては、決定的な治療法がありませんでした。リリカは、このような、末梢神経障害による痛みに対して効果が認められた、世界初の薬剤です。リリカの登場により、痛みの治療の選択肢が広がりました。痛みを早期に発見、早期に対処すれば、痛みを気にすることなく、本来のがんの治療に立ち向かうことができるのです。

末梢神経障害による痛みに有効な、世界初の薬剤

痛みには2 つの種類があります。1 つは刺激や炎症による痛み、もう1 つは神経の痛みです。

刺激や炎症による痛みは、痛覚神経の末端が刺激されて起こるもので、がんの痛みの大多数を占めます。これには、鎮痛薬がよく効きます。

一方、神経の痛みは、ケガや病気が原因となってダメージを受けた神経が過剰に興奮し、痛みの物質が過剰に放出されることによって起こります。原因が治っても痛みが長期間続くことがあり、「灼けるような」、「しびれるような」、「走るような」、「放散するような」などと表現される痛みです。「末梢性神経障害性疼痛(以下、末梢神経障害による痛み)」と呼ばれています。

末梢神経障害による痛みの原因となる疾患として、帯状疱疹が治った後に痛みが残る「帯状疱疹後神経痛」や、糖尿病が原因で手足の先が痛むなどの知覚症状が現れる「糖尿病性神経障害」などが知られています。

一方、抗がん剤の副作用として、手足のしびれや痛みなどが現れることがあります。この副作用は、抗がん剤により末梢神経の細胞がダメージを受けることによって起こります。また、肺がんの手術でがんを摘出する際に肋間神経を傷つけてしまった場合、手術の傷が治った後も痛みが残る場合があります。

これらの痛みも帯状疱疹後神経痛などと同じ、末梢神経障害による痛みです。リリカ()は、この末梢神経障害による痛みに対して日本で初めて承認された、世界で初めての薬剤です。

リリカ=一般名プレガバリン

早期の対処が大切な抗がん剤による手足の痛み

抗がん剤による末梢神経障害を起こしやすい薬剤として、タキソール()やタキソテール()、シスプラチン()などが知られています。初期には、指先に違和感を覚える、指先がピリピリする、手袋をはめているような感じがするなどの症状が現れます。放っておくと、ピリピリとした痛みがひどくなり、やがては神経組織が破壊され、指先の感覚がなくなってしまうこともあります。そのため、抗がん剤による末梢神経障害は、早期に発見し、早期に対処することが重要です。早期に対処すれば、症状が軽いうちに副作用を食い止められるからです。

ただし、がん患者さんに現れる痛みには、がんが直接の原因となっている痛みや、手術をした後の痛み、抗がん剤治療後の口内炎などによる口内の痛みなど、さまざまな痛みがあります。

痛みの治療を考える場合、その痛みが刺激や炎症によるものなのか、末梢神経障害によるものなのかを見極める必要があります。刺激や炎症による痛みには通常よく使われる非ステロイド性抗炎症薬が効果を発揮しますが、末梢神経障害による痛みにはこの薬が効かないからです。

しかし、がん患者さんの痛みはこの2 つの痛みが混合していることも少なくなく、見極めは難しいのが現状です。

まずは、非ステロイド性抗炎症薬から使っていき、痛みの様子を見ながら薬を変更していくことになります。そのなかでリリカを使うことになるでしょう。

痛みの原因は複雑に絡み合っているため、必ずしもすべての患者さんに効果があるわけではありません。しかし、リリカの登場により、これまでは打つ手のなかった末梢神経障害による痛みの治療の選択肢が広がったといえるでしょう。

[末梢神経障害を起こしやすい主な抗がん剤]
末梢神経障害を起こしやすい主な抗がん剤
[末梢神経障害による症状]

・ 指先に違和感を覚える
・ 指先がピリピリする
・ 指をすり合わせると、おかしな感じがする
・ 手袋をはめているような感じする
・ 手の皮が厚くなった感じがする
・ 感覚が鈍い
・ ペットボトルのふたを開けにくい
・ お菓子の袋を開けにくい
・ 服のボタンをかけにくい
・ 文字を書きにくい
・ パソコンのキーボードが打ちにくい
・ 靴を履きにくい
・ 物がつかめない
・ 持ったものを落としやすい
・ 手がしびれて包丁が持てない
・ 熱い・冷たいがわからない
・ 歩くとつまずく
・ 手足に力が入らず、じれったい
[痛みの強さを測るスケール]
痛みの強さを測るスケール

米国のWong-Baker FACES Pain Rating Scaleより


タキソール=一般名パクリタキセル
タキソテール=一般名ドセタキセル
シスプラチン=商品名ブリプラチンまたはランダ
硫酸ビンクリスチン=商品名オンコビン
オキサリプラチン=商品名エルプラット
カルボプラチン=商品名パラプラチン
ボルテゾミブ=商品名ベルケイド

痛みは我慢せずに訴えることが重要

リリカは通常、成人には150ミリグラムを1日2回に分けて、経口投与します。その後、1週間以上かけて1日300ミリグラムまで増やします。年齢、症状により、適宜増減しますが、1日600ミリグラムを超えることはなく、いずれも1日2回に分けて服薬します。腎機能が低下している場合は、投与量を減らす必要があります。また、腎機能が低下していない場合でも、高齢者や低体重の方は低用量での服薬を考慮します。

一方、リリカは、めまいや眠気といった副作用が現れることがあります。服用後は、車の運転や危険を伴う機械の操作は避けたほうがよいでしょう。とくに、高齢者は転倒の危険性がありますので、注意が必要です。

また、人により体重が増えることがあります。肥満の徴候が現れた場合は、医師と相談した上で、痛みが我慢できるようなら中止することもできます。

痛みは、本人にしかわからない感覚です。患者さん本人が「痛い」と訴えないと、医療者といえども、患者さんの様子から推し量ることしかできません。

痛みは我慢せずに医療者に伝えましょう。顔の表情によって痛みの強さを医療者に伝えるスケールなどを上手に活用してください。医師をはじめとする医療者と、患者さんが率直にコミュニケーションをとることで、痛みに対する適切な治療を行うことができます。そして、リリカもその一端を担う薬剤として期待されています。


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