患者のためのがんの薬事典
ハラヴェン(一般名:エリブリン)
生存期間を2.7カ月延長 進行・再発乳がん治療の「次の一手」
手術不能・再発乳がんの患者さんに対しては、現在、標準治療とされているアンスラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤を使用し、効果が得られなかった、もしくは再発してしまった場合、これまでは「確実な次の一手」がない状況でした。2011年7月に発売されたハラヴェンは、この「次の一手」となる乳がんの新しい抗がん剤として大いに期待されています。
生存期間を延長し、副作用は従来と変わらず
海外での第3相試験でハラヴェン(*)は、従来の治療に対して生存期間を2.7カ月延長したという結果が出ています。
この試験は、進行または再発乳がんの患者さんを対象に、ハラヴェン単剤治療群と従来の治療群との全生存期間(*)を比較検討することを目的に行われました。ハラヴェンを投与する群と、主治医がその患者さんに最適であると判断した治療(主治医選択治療)を受ける群に患者さんを分け、経過を観察しました。主治医選択治療としては、ナベルビン(*)やジェムザール(*)、ゼローダ(*)再投与のタキサン、アンスラサイクリンなどの単剤化学療法やホルモン療法が96パーセントの患者さんに使用されました。
その結果、全生存期間の中央値(*)は、主治医選択治療群では10.5カ月だったのに対して、ハラヴェン群では13.2カ月と、ハラヴェンを使用した群は生存期間が2.7カ月延長したのです。すでに多くの化学療法を受けた乳がんの患者さんに対し、単剤で生存期間を延長させたのは、ハラヴェンが初めてです。
一方、副作用は主治医選択治療群で頻度が高かったものと、発生頻度に大きな差はありませんでした。
ハラヴェンのもう1つの特徴は、投与時間の短さです。ハラヴェンの投与は、静脈への注射または点滴で行います。投与に必要な時間は2~5 分と非常に短いこと、抗アレルギー剤などの前投与が不安であることが特徴です。
また、投与サイクルは3週間を1サイクルとして週1回の投与を2週間続け、3週目は休む(休薬)するという方法です。
投与時間が短くて済むため、家事や仕事などへの影響が少なく、外来でも治療を続けやすい薬剤といえるでしょう。
*ハラヴェン=一般名エリブリン
*全生存期間=がんと共存しながらも患者さんが生きていた期間
*ナベルビン=一般名ビノレルビン
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
*ゼローダ=一般名カペシタビン
*中央値=治療を受けた患者さんの半数が生存していた期間
将来的にはより早い段階からの使用も
現在、ハラヴェンによる治療を受けられるのは、がんが遠くの臓器やリンパ節へ転移していることが明らかで、治癒を目指した手術を行えない「手術不能」の患者さん、または初期治療として手術、放射線、補助化学療法が無事に終了し、1度は回復したが、その後に乳房やほかの部位に再発が見つかった「再発乳がん」の患者さんです。
そこにさらに、「アンスラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤による前治療を受けたことがある人」という条件が付け加えられています。アンスラサイクリン系抗がん剤とはアドリアシン(*)、ファルモルビシン(*)など、タキサン系抗がん剤とはタキソール(*)、タキソテール(*)などを指します。いずれも現在の乳がん治療の標準的な治療薬です。
つまり、ハラヴェンは「手術不能」と判断された場合、アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を使用後、それらによる効果が認められなかった場合、初めて使用することができます。術前や術後にアンスラサイクリン系とタキサン系の抗がん剤をきちんと使用されていれば、再発後の治療はハラヴェンから始めることも可能です。
「生存期間延長」の可能性があるハラヴェンの登場により、以上のような標準治療の前治療歴がある患者さんに対し、いずれかのタイミングでこのハラヴェンを使用することで、患者さんのQOL(生活の質)を維持しながらの延命に新たな希望が出てきたのです。
さらに、今後の臨床試験で、現在の標準治療と比較し、ハラヴェンが劣っていないことや、より優れていることが証明されれば、アンスラサイクリン系やタキサン系抗がん剤を未使用の再発乳がんや、術前、術後療法での使用など、より早い段階からの使用が可能になります。
*アドリアシン=一般名ドキソルビシン
*ファルモルビシン=一般名エピルビシン
*タキソール=一般名パクリタキセル
*タキソテール=一般名ドセタキセル
感染症などに注意 使用前に副作用の確認を
エリブリンの副作用として、好中球減少、味覚異常、脱毛、おう吐・悪心などはこのように現れる。とくに気をつけたいのは、ほかの乳がんの抗がん剤と同程度に現れる好中球減少の副作用。感染症などを引き起こしやすくなるので、うがい・手洗いなどを励行する
国内の試験では、ハラヴェンの副作用として、好中球減少症が98.8パーセント、脱毛が58パーセント、疲労が44.4パーセント、悪心(吐き気)42パーセント、味覚異常33.3パーセントなどが報告されています。
一般的に、抗がん剤は骨髄の働きを抑え、細菌から身体を守る役割を担う白血球や好中球などを減少させてしまうことが知られています。ハラヴェンによる治療でもこうしたことが起こり、身体の抵抗力が低下して風邪などの感染症にかかりやすくなることがあります。そうしたことを防ぐため、手洗い・うがいの励行や、人ごみを避け、外出するときはマスクを使用するなどの対策をとることが大切です。
また、ハラヴェンでは、使用した患者さんの約25パーセントに手足のしびれや指先の痛み、冷たい・熱いという感覚が鈍くなる、手足に力が入らないなどの「末梢神経障害」が起こることがあります。さらに頻度は少ないですが、黄疸、むくみといった肝機能障害や、間質性肺炎によるせきや発熱、息切れなどの症状が出ることがあります。
ハラヴェンの使用を開始する前に、医師や薬剤師から、どのような副作用が起きる可能性があるのか、そしてその対処法や医師に伝えるべき症状などを確認しておきましょう。
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