患者のためのがんの薬事典
エクジェイド(一般名:デフェラシロクス)
輸血による慢性鉄過剰症を経口で治療する画期的新薬
血液がんの一種「骨髄異形成症候群」では、代表的な症状として難治性の貧血が起こることがあります。その治療に輸血が繰り返されると、体内に鉄が蓄積して慢性鉄過剰症が発症します。余分な鉄を排泄する必要がありますが、従来使われてきた注射剤は毎日打つ必要があり、治療を継続するのがきわめて困難でした。エクジェイドは、1日1回の服用で、すぐれた鉄の排泄作用を発揮します。
輸血で体内に入った鉄は排泄されずに蓄積する
鉄不足が貧血を招くことはよく知られています。これは鉄が赤血球の構成成分の1つだからです。ということは、輸血を受けた患者さんの体には、赤血球に含まれるたくさんの鉄が入ってくることになります。
たとえば、骨髄異形成症候群という血液のがんでは、代表的な症状として貧血が現れ、その治療に繰り返し輸血が行われることがあります。そして、この輸血によって鉄過剰症が引き起こされます。再生不良性貧血の治療でも、同様に繰り返し輸血が行われることがあり、これも鉄過剰症の原因になります。
鉄が過剰になるのは、体には鉄を積極的に排泄するシステムが備わっていないからです。鉄は体にとって大切な物質なので、簡単に逃げていかないようになっているのです。
普通の生活をしていると、食事などから体内に取り入れる鉄は、1日に1~2ミリグラム程度。そして、1日に1~2ミリグラム程度の鉄が、便中などに排泄されています。これが鉄を排泄する能力の限界なのです。
ところが、輸血を行うと、1単位(200ミリリットル)の血液に100ミリグラムの鉄が含まれています。つまり、1回2単位の輸血を受けることで、ほぼ100日分の鉄が、いっぺんに体内に入ってきてしまうのです。排泄能力は1日に1~2ミリグラム程度なので、輸血が繰り返し行われることで、慢性的な鉄過剰症が発症します。
体内の鉄が過剰になると臓器に沈着し障害を与える
体内の鉄が過剰になると、鉄を蓄えるフェリチンというタンパク質が作られ、主に肝臓に貯蔵されます。収容量をオーバーすると、余分な鉄が肝臓、心臓、膵臓などに沈着し、それらの臓器に障害を起こします。肝臓に障害が出ると肝硬変になったり、心臓に障害が出ると心不全や心筋症が起きたり、膵臓に障害が出ると糖尿病を発症したりと、命にかかわる病気になる危険性があるのです。
体内の鉄の量を調べるには、血液検査で血清フェリチン値を測定します。肝臓に蓄えられているフェリチンの一部が、血液中に溶け出しているのです。
正常値は、男性が10~220ナノグラム(1ミリリットル中・以下同)、女性が10~85ナノグラム。500ナノグラムを超えると鉄過剰症と診断されます。また、輸血後鉄過剰症の診療ガイドでは、輸血の累積量が20単位を超えた場合も鉄過剰症と診断していいことになっています。
ただし、治療は、血清フェリチン値が1000ナノグラムを超えること、輸血の累積量が40単位を超えることなどを総合的に判断して開始されます。
毎日続ける注射はなかなか継続できない
体内にたまった鉄を除去する治療を鉄キレート療法といい、その治療薬を鉄キレート薬といいます。従来、鉄キレート薬として使われてきたのはデスフェラール(*)という注射剤でした。
この薬は効果の持続時間が短いため、鉄過剰症の治療では、毎日注射を受ける必要があります。そのためには毎日通院しなければならず、患者さんにとっては大きな負担となっていました。毎日治療を続けられたのは、わずか10 パーセント未満だったという調査結果があります。
エクジェイド(*)は経口剤の鉄キレート薬です。1日1回の服用で、体内の鉄を持続的に排出していきます。毎日注射を受け続けるデスフェラールに比べて、飲み薬でも、鉄を排出する効果は劣らないことが証明されています。エクジェイドの服用方法はちょっと変わっていて、錠剤を100ミリリットル以上の水に入れ、よくかき混ぜてから飲みます。
副作用は、消化器症状(吐き気・下痢)、発疹、腎機能障害が3大症状といわれています。そのなかでもとくに問題となりやすいのは吐き気。これは飲み始めの時期に、とくに強く現れるという特徴があり、その時期を乗り越えてしまえば、楽になることが多いのです。症状が強い場合には、吐き気止めの薬が使われることもあります。
*デスフェラール=一般名メシル酸デフェロキサミン
*エクジェイド=一般名デフェラシロクス
鉄キレート療法で生存期間が大幅に延長
鉄キレート剤投与有無別全生存率]
鉄キレート療法は鉄過剰症の治療であって、元となる疾患の治療ではありません。そのため、本当にこの治療が必要なのだろうか、と考えてしまう患者さんもいるようです。
そこで、骨髄異形成症候群の患者さんを対象に、鉄キレート薬(エクジェイドやデスフェラールなどを含む)を使用した場合と、使用しなかった場合で、生存期間を比較する研究が行われています。その結果、鉄キレート療法を行わない場合の生存期間中央値は54カ月。これに対し、鉄キレート療法を行うと、124カ月になることがわかりました。鉄過剰症をしっかり治療することが、生存期間の延長をもたらすのです。
エクジェイドの課題は、価格が高いことでしょう。1日の薬剤費は9000円~1万円(健康保険が3割負担なら、その3割)。もちろん、高額療養費制度の対象になります。
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