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患者のためのがんの薬事典

アービタックス(一般名:セツキシマブ)
進行・再発大腸がんの1次治療薬として使えるようになった分子標的薬

取材・文:星野美穂
発行:2011年2月
更新:2014年1月

  
写真:アービタックス(一般名セツキシマブ)

アービタックスは、EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の大腸がんに使用される抗がん剤です。これまでは、他の標準的治療薬で効果がなかった場合に使う2番手、3番手の薬でしたが、2010年3月に1次治療から使える薬として承認されました。

2つのメカニズムでがん細胞を攻撃

大腸がんは、進行して手術ができない場合、抗がん剤による治療が行われます。アービタックスはこのような進行した大腸がんに使用される薬剤です。

アービタックスは分子標的薬と呼ばれる薬剤の1つです。従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞も攻撃してしまうため、骨髄抑制をはじめとする副作用を引き起こすことが少なくありませんでした。一方、分子標的薬はがん細胞を選択的に攻撃するため、正常細胞には害を及ぼすことが少ない薬剤です。

アービタックスは2つのメカニズムでがんを攻撃します。

細胞表面には、EGFR(上皮増殖因子受容体)という特殊なたんぱく質があります。EGFRは、細胞が増えるために行う細胞分裂のスイッチのような役割を果たしており、細胞の増殖を命令する体内物質がEGFRに結合すると、細胞分裂が始まります。がん細胞の多くはEGFRが過剰に発現している(EGFR陽性)ので、歯止めなく増殖していきます。アービタックスはEGFRと結合し、細胞分裂のスイッチが入るのを防ぎます。そのため、がん細胞は増えることができず、死んでいくのです。

一方、アービタックスがEGFRと結合すると、免疫の中心的な役割を果たすNK細胞(ナチュラルキラー細胞。白血球の1種)が活性化して、アービタックスが結合したがん細胞を標的として攻撃し、がん細胞は細胞死に至ります。

KRAS遺伝子検査で投与前に効果を予測

さらに、アービタックスは、KRAS遺伝子に変異がない人に効果を発揮することもわかっています。

KRAS遺伝子とは、EGFRのシグナル伝達に重要な役割を担う遺伝子。変異がある人は約4割といわれています。KRAS遺伝子が変異していると、アービタックスがEGFRと結合しても細胞増殖のスイッチは入りっぱなしの状態でシグナルが伝達され、がん細胞の増殖は止まりません。ですから、治療前には、手術や検査のときに採取したがん組織を使って検査が行われ(検査は保険適応)、KRAS遺伝子が変異している場合は別の治療法を検討します。事前に効果がないことがわかれば、無駄な治療を行わずにすみ、副作用や医療費を減らすことにつながります。

アービタックスは2008年の国内承認以来、2番目、もしくは3番目に投与する薬として、使用されてきました。海外では1番目の化学療法に使用されていましたが、日本でも2010年3月から、進行・再発の大腸がんの1次治療にも使用できるようになりました。

アービタックスの効果は複数の臨床試験で証明されています。転移性大腸がん約1200例を対象とした海外第3相臨床試験(CRYSTAL試験)の結果、KRAS遺伝子変異のない患者さんの1番目の化学療法で投与した場合、全生存期間はFOLFIRI()単独投与群が20.0カ月だったのに対し、アービタックス+FOLFIRI併用投与群が23.5カ月となり、FOLFIRIだけの場合に比べて死亡リスクを20パーセント軽減しました。さらに、奏効率(がんが小さくなった割合)、無増悪生存期間(がんが悪化しなかった期間)でも、アービタックス併用群がFOLFIRI単独群を有意に上回りました。

肝臓にだけ転移があり、切除手術ができない患者さんを対象とした試験(CELIM試験)では、標準化学療法にアービタックスを併用すると、KRAS遺伝子変異がない患者さんの7割でがんが小さくなり、3分の1の患者さんで切除手術が可能となり、治癒の可能性が高まったという結果も出ています。アービタックスは、頭頸部がんや非小細胞肺がんへの効果についても臨床試験が進められています。

FOLFIRI=5-FU(一般名フルオロウラシル)、アイソボリン(一般名レボホリナートカルシウム)、イリノテカン(一般名)の併用療法

[セツキシマブによる全生存期間の延長(CRYSTAL試験)]
図:セツキシマブによる全生存期間の延長(CRYSTAL試験)

Van Cutsem E, et al. ECCO/ESMO Congress 2009; Abstract No: 6077

[セツキシマブによる3つの効果(CRYSTAL試験)]

  KRAS 野生型(遺伝子変異がないもの)
FOLFIRI セツキシマブ
+FOLFIRI
KRAS 分析(%) 1063(89%)
奏効率(%) 39.7 57.3
P値 <0.0001
無増悪生存期間(月) 8.4 9.9
ハザード比 0.7
P値 0.0012
全生存期間(月) 20 23.5
ハザード比 0.796
P値 0.0094
Van Cutsem E, et al. ECCO/ESMO Congress 2009; Abstract No: 6077

皮膚炎やアレルギーの副作用に注意

アービタックスは成人の場合、体表面積1平方メートル当たり250ミリグラム(初回400ミリグラム)を週1回点滴投与します。薬価は100ミリグラム当たり約3万5900円。

EGFRはがん細胞だけでなく、皮膚にも多く存在しています。そのため、アービタックスを使うと、皮膚のEGFRとも結合し、皮膚の細胞増殖を抑えてしまうことから、にきびのような皮膚炎(ざ瘡様皮疹)を起こすことが少なくありません。重症化させないためには皮膚を清潔に保ち、保湿を十分に行うことや、直射日光を避けることが役立ちます。ステロイド剤などの外用剤でも症状が軽減されます。症状が重い場合は、休薬や減量を行うこともあります。

もう1つ、頻度は少ないですが、注意すべき副作用としてインフュージョンリアクションと呼ばれるアレルギー反応があります。これは投与後数時間以内に見られることが多く、軽いものでは悪寒や発熱、めまい、重いものでは呼吸困難や低血圧、意識消失、まれに心筋梗塞や心停止などを起こすこともあります。予防のために、アービタックス投与前に抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモン剤を点滴で投与します。


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