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患者のためのがんの薬事典

アブラキサン(一般名:パクリタキセル・アルブミン懸濁型)
乳がん患者さんのQOLを高める新しいパクリタキセル製剤「アブラキサン」登場

取材・文:柄川昭彦
発行:2010年11月
更新:2019年7月

  
写真:アブラキサン[一般名パクリタキセル(アルブミン懸濁型)]

抗がん剤のパクリタキセルは、がんの分野で広く使われてきました。そうした中、改良された新剤形・新用量のパクリタキセル製剤としてアブラキサンが新登場しました。3時間かかった点滴時間は30分に短縮され、過敏症によるアナフィラキシーショック症状なども回避できるようになりました。今年7月に承認され、乳がんの治療薬として期待されています。

優れた抗がん剤だが問題点を抱えていた

優れた抗腫瘍効果を持つパクリタキセル(商品名タキソール)が米国で発見されたのは1960年代ですが、抗がん剤としてすぐに使われることはありませんでした。水に溶けないため、製剤化が困難だったのです。この問題点は、溶媒として無水アルコールとクレモホールEL(ポリオキシエチレンヒマシ油)を使うことで解決できましたが、そのまま投与すると、重篤な薬剤過敏症が起こる危険性がありました。そこで、前投薬としてステロイド薬、抗ヒスタミン薬、H2ブロッカーを投与し、それからパクリタキセルを点滴するようにしました。この方法で、ようやく薬として使えるようになったのです。90年代のことでした。

実用化されたタキソールは、優れた治療成績を挙げ、日本でも、卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん、胃がん、子宮体がんの治療薬として認可されています。しかし、この薬には欠点もありました。前投薬を行っても、過敏症を完全に防ぐことはできず、まれに重篤なショック症状が現れてしまうことがあるのです。また、アルコールに過敏な人にも使えず、投薬直後は車の運転などを控える必要がありました。過敏症を防ぐために少しずつ投与するので点滴時間も長く、3週間ごとに投与する場合は3時間、毎週投与でも1時間必要でした。それに前投薬の30分と、投与後アルコールの影響を観察する1時間も必要です。治療に時間がかかるのが、患者さんにとっては大変だったのです。

点滴時間が30分間に短縮された

アブラキサンは、タキソールのこうした問題点をクリアするために改良を加えたパクリタキセル製剤です。その特徴は、パクリタキセルをヒト血清アルブミン(血液に含まれるたんぱく質の1種)に結合させ、それを凍結乾燥することで、直径130ナノメートル(0.00013ミリメートル)という均一な大きさの微粒子にしたことにあります。この微粒子に生理的食塩水を加えると、懸濁液(微粒子がまんべんなく分散した液体)になるので、それを点滴で投与するのです。クレモホールELとアルコールが不要になりました。

タキソールはクレモホールELによる薬剤過敏症を防ぐため、ゆっくり投与しますが、アブラキサンにはその必要がありません。点滴時間はわずか30分、前投薬も不要です。投与は3週間に1回なので、患者さんにとっては大きなメリットといえます。

さらに、アルコールが含まれていないので、アルコールに過敏な人でも使え、投与後に様子を見る時間も要りません。治療時間が短いことは、患者さんのQOL(生活の質)の向上に直結します。治療室から解放された時間を、仕事や家事に当てることが可能になるからです。

タキソールに対する有効性が証明された

アブラキサンの有効性を確かめるために、タキソールと比較する臨床試験が行われています。すでに転移している乳がんの患者さんを対象に、アブラキサン投与群とタキソール投与群に分け、比較試験が行われたのです。

奏効率(腫瘍が縮小した患者さんの割合)は、アブラキサン投与群が33.2パーセント、タキソール投与群が18.7パーセントでした。この結果、アブラキサンのタキソールに対する非劣性(統計的に劣っていないこと)と優越性が確認されています。

生存期間の比較では、アブラキサン投与群が65.0週、タキソール投与群が55.3週で、統計的に意味のある差とは認められませんでしたが、無増悪期間(がんが悪化しなかった期間)中央値を比較したデータでは、アブラキサン投与群は23.0週、タキソール投与群は16.6週で、明らかにアブラキサン投与群の無増悪期間が延長していることがわかりました。

2次治療以降の乳がん患者さんを対象に、アブラキサン投与群とタキソール投与群の生存期間を比較したデータもあります。乳がんの化学療法では、1次治療としてアンスラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシン、エピルビシンなど)が使われることが多いので、それ以降の治療と考えていいでしょう。生存期間中央値は、アブラキサン投与群が56.4週、タキソール投与群が46.7週でした。アブラキサンで生存期間の延びることが明らかになったのです。これらの効果が出た理由はよくわかりませんが、薬効成分が効率よく腫瘍組織内に移行しているためではないかと考えられます。

[アブラキサンの奏効率(海外第3相臨床試験)]
図:アブラキサンの奏効率(海外第3相臨床試験)

Gradishar, W. J. et al.: J Clin Oncol, 23(31), 7794(2005)

[アブラキサンによる2次治療以降の生存期間(海外第3相臨床試験)]
図:アブラキサンによる2次治療以降の生存期間(海外第3相臨床試験)

Gradishar, W. J. et al.: J Clin Oncol, 23(31), 7794(2005)

パクリタキセル自体が持つ副作用は、アブラキサンにも同じように出現します。高頻度で現れるのは、白血球減少などの骨髄抑制、しびれなどの末梢神経障害、疲労、脱毛、関節痛などです。とくに注意が必要なのは、感染症の併発などが心配な骨髄抑制で、異常が現れたときには薬の減量や休薬が必要になります。末梢神経障害もよく起こります。日常生活に支障をきたさない段階で適切に対処する必要があります。

現在もアブラキサンの臨床試験は進められています。その結果により、非小細胞肺がんや胃がんなどに適応が拡大されることが期待されています。


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