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患者のためのがんの薬事典

ペグイントロン(一般名:ペグインターフェロンアルファ2b)
C型慢性肝炎を治して肝がんを予防

取材・文:星野美穂
発行:2010年8月
更新:2019年7月

  
写真:ペグイントロン(一般名ペグインターフェロンアルファ2b)

肝がんの8割はC型肝炎ウイルスが原因だと言われています。そのため、肝がんを予防するには、C型慢性肝炎の治療が欠かせません。
C型慢性肝炎を治す決め手はインターフェロンを使う薬物療法。従来のインターフェロンを改良したペグイントロンが登場してから、治療の効果は飛躍的に高まっています。

肝がんの原因の8割がC型肝炎ウイルス

肝がんによる死亡者は、1975年以降急増しており、現在では年間約3万人に達しています。男性のがんによる死因では、肺がん、胃がんに次いで第3位となっています。

ところが、肝がんの原因の約80パーセントがC型肝炎ウイルスだということは、あまり知られていません。C型肝炎ウイルスに感染した人のうち、約70パーセントが慢性肝炎になり、放置すれば10~30年かけてその30~40パーセントが肝硬変、さらには肝がんに移行すると言われています。肝がんの予防には、C型慢性肝炎の治療が最も重要と言えるでしょう。

C型肝炎ウイルスは、過去に輸血や注射針の使いまわしなどを介して広まったと見られています。しかし、C型慢性肝炎はほとんど症状がないため、適切な治療を受けていない人が多いという問題があります。

現在、日本には症状のない持続感染者(キャリア)を含め、150万~200万人のC型慢性肝炎患者さんがいると推測されますが、なんらかの治療を受けている人は約50万人しかいません。C型肝炎ウイルスが陽性の人は、できるだけ早く専門医の診断を受けたほうがいいでしょう。

C型慢性肝炎の治療には、肝機能を改善して肝炎の悪化を防ぐ対症療法と、ウイルスを体内から排除し完全治癒を目指す原因療法があります。

このうち、原因療法で使用される薬がインターフェロンです。インターフェロンとは、もともとウイルスの増殖を抑えるために体内で作り出される物質のこと。大量のインターフェロン製剤を注射で体内に入れることで、肝炎ウイルスを排除するわけです。

[C型慢性肝炎による線維化と発がん]
図:C型慢性肝炎による線維化と発がん

週1回の注射ですみ副作用も少ない

これまでにさまざまなインターフェロン製剤が出されていますが、2004年12月、従来のインターフェロン製剤を改良したペグインターフェロン(製品名ペグイントロン)が登場しました。

ペグイントロンは、従来のインターフェロンに合成高分子のポリエチレングリコール(ペグ)という物質を結合させ、より長く薬剤が体内に留まるように工夫された製剤です。従来のインターフェロン製剤は半減期(薬が体内に留まる時間)が短いため、少なくとも週3回の注射が必要でしたが、ペグインターフェロンは週1回の注射でよく、しかも、血中濃度がほぼ一定であるため、自覚される副作用が少ないと言われています。

また、患者さんの体重に応じて、用量調節が可能な薬剤であり、有効性を最大限にして副作用の発現頻度を最小限にとどめることを目指しています。

ウイルスの陰性化率が60パーセントにアップ

C型肝炎ウイルスには、インターフェロンが効きにくい1型と、効果が出やすい2型という遺伝子型(ジェノタイプ)があります。日本では1型でウイルス量が多い患者さんが最も多く、全体の約70パーセントと言われています。

薬が効きにくいといわれる1型でウイルス量の多い患者さんに、ペグインターフェロン+リバビリン(一般名。抗ウイルス剤)併用療法を48週行った臨床試験では、ウイルス陰性化率が従来のインターフェロン+リバビリン併用療法では20パーセントだったのに対し、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法では約50~60パーセントとなりました。薬の効きやすい2型、または1型でウイルス量が少ない患者さんにペグインターフェロン+リバビリン併用療法を行った場合、約90パーセントが陰性化するという臨床試験の結果も出ています。

ペグイントロンについては、リバビリン+プロテアーゼ複製阻害剤の3剤併用も研究されています。海外で行われた3剤併用の臨床試験では、リバビリンとの2剤併用に比べ、C型慢性肝炎の治療効果が約20パーセント高まったと報告されています。さらに、リバビリンとの2剤併用による肝がんの再発予防効果などについても研究が進められています。

[インターフェロンの治療効果]
図:インターフェロンの治療効果

ところで、可能性が小さいとはいえ、ペグイントロンでも発熱や悪寒、全身倦怠感といったインフルエンザに似た症状のほか、発疹などの皮膚症状、うつ状態などの精神神経症状など注意すべき副作用があります。治療の前に、医師や薬剤師から起こりうる副作用とその対処法について確認しておくことが大切です。

国も、C型慢性肝炎の治療を後押しする政策を進めています。

2008年4月からはインターフェロン治療に対する医療費助成が始まり、2010年4月からは原則月1万円の自己負担で治療を受けられるように、また、一定の条件を満たす患者さんについては、医療費助成制度を使用した2回目の治療も認められるように改定されました。

さらに、厚生労働省が作成したC型慢性肝炎の治療ガイドラインでは、通常48週の治療期間が72週まで引き上げられており、適切な治療を受けられる環境が整ってきています。C型肝炎ウイルスが陽性の人は、できるだけ早くインターフェロン治療を行うことをお勧めします。


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