患者のためのがんの薬事典
ジェムザール(一般名:ゲムシタビン)
手術ができない乳がん、再発乳がんの薬物治療に新たな選択肢
手術ができない乳がん、再発乳がんの薬物治療に新たな選択肢が加わりました。
昨年、ジェムザールは非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がんに次いで、「手術不能又は再発乳癌」の効能を取得。臨床試験の結果、手術ができない乳がん、再発乳がんの生存期間を延長するという有効性が示されています。
再発乳がん治療に新たな選択肢
がんが進行していて手術が不可能な乳がんや、再発した乳がんについては、薬物療法が治療の中心となります。
治療方法はホルモン感受性があるタイプ(女性ホルモン受容体を持っているタイプ)と感受性がないタイプ、HER2というタンパク質ががん細胞の表面上に過剰に発現しているHER2陽性のタイプと陰性タイプ――というタイプ別にガイドラインで示されています。
1. ホルモン感受性があるタイプはまずホルモン療法を行い、ホルモン療法が効かなくなったら化学療法を行います。
2. ホルモン感受性がない人は、抗がん剤による治療が行われます。
3. HER2陽性のタイプは、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)という分子標的薬を使用します。
――などです。
現在、抗がん剤治療については、アドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)などのアンスラサイクリン系や、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)などのタキサン系の薬剤などが使われています。「手術ができない乳がん」「再発乳がん」に使用できる抗がん剤として2010年2月、ジェムザールが新たに加わりました。このことにより、手術ができない乳がんや再発乳がんに対する治療選択肢がさらに広がったといえます。
タキソールとの併用で生存期間を延長
ジェムザールは、がん細胞のDNAに入り込み、DNAの合成を阻害して、がん細胞の分裂や増殖を抑えます。これまで乳がんの治療に使われていたアンスラサイクリン系やタキサン系の薬剤とは薬が作用するしくみが異なり、副作用が比較的少なく、他の薬剤と併用しても副作用が増強することは少ないと期待されています。
日本では非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がんに対してすでに使用されており、乳がんについては世界100カ国以上で承認を取得しています。
ジェムザールの効果については、海外で行われた第3相臨床試験で、手術切除ができない局所再発、または転移性乳がんの患者さん529例を対象に、ジェムザール+タキソール併用投与群とタキソール単剤投与群とを比較しました。
ジェムザール+タキソール併用投与群は、タキソール単剤投与群に対して奏効率が26.2パーセントから41.4パーセントに15.2ポイント高まり、生存期間も15.8カ月から18.6カ月に2.8カ月延長したという結果が得られました。
[ゲムシタビンの効果2(奏効率 海外第3相臨床試験)]
トリプルネガティブへの効果も期待
現在、この臨床試験の結果から、生存期間の延長という効果を得るためには、ジェムザールはタキソールとの併用が有効と考えられています。
また、乳がんが内臓に転移した患者さんの奏効率については、タキソール単剤投与群の21.9パーセントに対して、ジェムザール+タキソール併用投与群は35.6パーセントと高く、臓器転移例の効果についても結果が得られています。
また、有効な臨床試験データは少ないものの、ホルモン感受性がなく、HER2陰性のトリプルネガティブといわれる、治療に苦労することが多い乳がんについても効果が期待されています。
注意すべき副作用は好中球減少
ジェムザールは、点滴で投与します。通常、週1回の投与を2週間行い、3週目は休薬します。これを1コースとして、何コースか繰り返します。投与1回当たりの薬剤費は約5万円。3割負担ならば、自己負担分は約1万5千円となります。
ジェムザールは入院して投与を受ける場合と、外来で治療を受ける場合があります。
外来で治療を受ける場合、治療後、しばらくしてから副作用が出てくることがあるため、とくに注意が必要です。
ジェムザールの副作用としては、好中球の減少があります。好中球は白血球の1種で、身体の組織に侵入した細菌を排除する役割を担っており、これが減少すると感染症を起こしやすくなります。投与してから1~2週間後に減少することが多いので、この時期は細菌などに感染しないよう、注意する必要があります。
このほか、出血を止める役割を持つ血液中の血小板が減って出血しやすくなったり、脱毛や疲労感、発熱、下痢などが起こったりすることがあります。治療開始前に医師や薬剤師から、どんな副作用が現れる可能性があるのか、その場合の対処法、医師に連絡すべき症状は何か、などについて説明を受けておきましょう。
現在、ジェムザールは国内の卵巣がん患者さんたちの強い要望から、卵巣がんへの適応拡大が検討されています。
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