患者のためのがんの薬事典
エルプラット(一般名:オキサリプラチン)
結腸がんの術後補助化学療法にもFOLFOX療法
エルプラットは、進行・再発大腸がんに対し、FOLFOX療法という他の薬剤との併用療法で、画期的な成果をあげてきました。
2009年8月、結腸がんの術後補助化学療法にも適応が拡大。
いずれ国内でも術後補助化学療法の標準治療になるだろうと、大きな期待が寄せられています。
大腸がんの治療に変革をもたらしたエルプラット
多剤併用療法の「FOLFOX」療法は、大腸がんの化学療法に変革をもたらした治療法で、現在でも進行・再発大腸がんの標準治療の1つとなっています。
併用するのは、エルプラット(一般名オキサリプラチン)、5-FU(一般名フルオロウラシル)、ロイコボリン(一般名ホリナート)の3種類の薬剤です。これらの薬剤を併用したFOLFOX療法は、従来の治療法に比べて、生存期間を大きく延ばす画期的な効果を発揮しました。
その後、FOLFOX療法に分子標的薬を併用することで、進行・再発大腸がんの生存期間は更に延びていますが、その基礎となるFOLFOX療法が重要な治療法であることには変わりありません。
FOLFOX療法で無病生存率が向上
進行・再発大腸がんに対するFOLFOX療法が海外で実用化される頃、ヨーロッパを中心とした各国では、術後補助化学療法の臨床試験が早くも始められていました。2246人を対象とした大規模な第3相臨床試験で、MOSAIC試験と呼ばれるものです。
対象となったのは、ステージ(病期)2または3の結腸がんで、治癒的切除手術を受けた患者さんです。この人たちを2群に分け、一方は従来の5-FU+ロイコボリン併用療法、もう一方はそれにエルプラットを加えたFOLFOX療法を行いました。いずれも2週を1サイクルとして、12サイクル行っています。その結果、3年無病生存率で、明らかな差が現れました。3年無病生存率とは、手術を受けた患者さんのうち、3年後に再発せずに生存している人の割合を示しています。
5-FU+ロイコボリン併用群は72.9パーセント、FOLFOX群は78.2パーセントでした。グラフでも明らかなように、エルプラットを加えることで、無病生存率が向上することが明らかになったのです。
この試験結果が03年に米国臨床腫瘍学会で報告され、04年にはヨーロッパでもアメリカでも、エルプラットの術後補助化学療法への使用が承認されました。
MOSAIC試験では、その後も対象者を追跡し、5年無病生存率、6年全生存率(手術から6年後に再発の有無にかかわらず生存している人の割合)のデータを報告しています。5年無病生存率は67.4パーセント対73.3パーセント、6年全生存率は76.0パーセント対78.5パーセントで、いずれもFOLFOX群が優れていました。エルプラットを加えることで、再発に関しては20パーセント、死亡に関しては16パーセントも相対的リスクが低下することがわかったのです。
日本では欧米より5年ほど遅れた09年8月、結腸がんの術後補助化学療法に対する効能・効果が承認されました。
海外ではすでにMOSAIC試験の結果をもとに、エルプラットを使用するFOLFOX療法が結腸がんの術後補助化学療法の標準治療となっています。
FOLFOX療法の保険適用が可能になったことを受けて、日本でも、結腸がんの術後補助化学療法の標準治療として期待されている治療法です。
副作用で注意すべきは神経毒性によるしびれ
エルプラットの副作用で最も問題になるのは神経毒性です。神経といっても、脳など中枢神経に対するものではなく、末梢神経に影響が現れます。そして、現れる症状は、急性と慢性の2つに分けられます。
急性の症状は、冷たいものを触ったり、飲んだりしたときに、ピリッとした痛みやしびれを感じます。この症状は、あまり問題にはなりません。
もう1つは、薬の投与を続けていくうちに現れてくる症状で、手足のしびれを感じるようになります。この症状が進行すると、衣類のボタンをとめられなくなる、歩行が困難になるなど、機能障害によって日常生活に支障をきたすこともあります。こうした事態になる前に、エルプラットの減量や、状態によっては休薬を考える必要があります。
その他では、5-FU+ロイコボリンの併用に比べて、エルプラットが加わることで、血液毒性が現れやすくなります。
更なる適応拡大が期待される
エルプラットは、進行・再発大腸がんの治療でも、結腸がんの切除手術後の補助化学療法でも、FOLFOX療法として使用されます。この併用療法にかかる薬剤費は、1回で14万8000円ほどです。6カ月で12コース行うと、約178万円になり、3割負担では約53万円。1カ月あたり約9万円なので、高額療養費制度の対象となります。
現在、エルプラットは、進行・再発大腸がん、結腸がんの術後補助化学療法以外のがんの治療効果について、臨床試験が行われています。1つは胃がんに対するTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)との併用療法で、すでに第3相臨床試験に入っています。もう1つは膵臓がんに対するもので、こちらもTS-1との併用で臨床試験が行われています。試験結果によっては新たな適応拡大となる可能性があり、胃がん、膵臓がん治療においても大きな期待が寄せられています。
同じカテゴリーの最新記事
- 皮膚T細胞リンパ腫の新治療薬 タルグレチン(一般名ベキサロテン)
- EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療薬 イレッサ(一般名ゲフィチニブ)/タルセバ(一般名エルロチニブ)/ジオトリフ(一般名アファチニブ)/タグリッソ(一般名オシメルチニブ)
- 前立腺がん骨転移の治療薬 ゾーフィゴ(一般名ラジウム-223)/ランマーク(一般名デノスマブ)/ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)/メタストロン(一般名ストロンチウム-89)
- GIST(消化管間質腫瘍)の治療薬 グリベック(一般名イマチニブ)/スーテント(一般名スニチニブ)/スチバーガ(一般名レゴラフェニブ)
- 慢性リンパ性白血病の治療薬 FCR療法(フルダラ+エンドキサン+リツキサン)/アーゼラ(一般名オファツムマブ)/マブキャンパス(一般名アレムツズマブ)
- 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療薬 アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+イホマイド(一般名イホスファミド)/ヴォトリエント(一般名パゾパニブ)/ヨンデリス(一般名トラベクテジン)
- 悪性神経膠腫の治療薬 テモダール(一般名テモゾロミド)/アバスチン(一般名ベバシズマブ)/ギリアデル(一般名カルムスチン)
- 切除不能膵がんの治療薬 FOLFIRINOX療法/アブラキサン+ジェムザール併用療法
- 閉経前ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬 抗エストロゲン薬(ノルバデックス)/LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)
- B細胞性リンパ腫の治療薬 R-CHOP療法(リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+オンコビン+プレドニン)/VR-CAP療法(ベルケイド+リツキサン+エンドキサン+アドリアシン+プレドニン)