患者のためのがんの薬事典
リフレックス(一般名:ミルタザピン)
効果が早く現れる新しいタイプの抗うつ剤
うつ病に苦しんでいる、がん患者さんは多い。
09年9月に発売された抗うつ剤リフレックスは、これまで広く使われていた抗うつ剤とは、作用メカニズムがまったく異なる新しい抗うつ剤です。
最大の特徴は、眠れない、イライラ、不安、憂うつ感などの自覚症状が、服用後の早い時期から解消されることです。他の薬との相互作用が起こりにくいことも特徴です。
作用の仕組みが新しい新タイプの抗うつ薬
がんと診断されたとき、あるいはがんの再発を知らされたとき、患者さんの心は大きなダメージを受けます。時間の経過とともに心の落ち込みが回復してくればいいのですが、そのままうつ病に進んでしまう人も少なくありません。がんの患者さんの中には、うつ病で苦しんでいる人がたくさんいるのです。
うつ病の治療に使われるのが抗うつ剤ですが、現在、広く使われているのが、SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)とSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)というタイプの抗うつ剤です。
これらの抗うつ剤は、それ以前に使われていた抗うつ剤に比べ、比較的副作用が軽いこともあり、多くの患者さんに使われてきました。その中で、新たな抗うつ剤が登場してきたのです。
09年7月に承認され、9月に発売となったリフレックス(一般名ミルタザピン)は、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤)というタイプの抗うつ剤です。
従来の抗うつ剤との違いを、作用の面から、簡単に説明しましょう。
脳の神経細胞はシナプスという突起を持っていて、細胞間で情報を伝達しています。そして、うつ病の患者さんでは、シナプスとシナプスの間で、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が減っていることがわかっています。
SSRIは、シナプスから放出されたセロトニンが、再取り込みされるのを阻止することで、セロトニンを増やす働きをします。SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの両方が、再取り込みされるのを阻止する働きをしています。
シナプスには、セロトニンやノルアドレナリンの濃度を感知するセンサーがあり、放出量を調節しています。リフレックスはこのセンサーをふさぐ働きをします。すると、セロトニンやノルアドレナリンの不足と判断され、放出量が高まるのです。
セロトニンやノルアドレナリンを増やす点はSSRI、SNRIと共通です。しかし、その方法がまったく異なる抗うつ剤なのです。
自覚できる効果が早い時点で現れる
この薬の特徴は、心を落ち着かせる方向に働くことです。まず睡眠障害、イライラや不安などが解消されます。その後、気分が落ち込む、やる気が出ない、楽しくないなど、うつ病の中核をなす症状が改善されていきます。
こうした効果は、臨床試験でも確認されています。プラセボ(偽薬)群とリフレックス服用群の治療成績の比較試験も行われ、はっきりと有効性が証明されているのです(グラフ参照)。
縦軸にとってあるHAM-D合計スコアは、うつ病の病状を判定する評価尺度です。ここでは、それがどれだけ変化したかによって、薬の効果を判定できるようにしています。
このようにプラセボと比較する試験をプラセボ対照二重盲検比較試験といいますが、これまで日本では、抗うつ剤の臨床試験でこの方法で試験を行うことはありませんでした。今回、この試験を行ったことで、リフレックスの抗うつ効果が明確になっています。
また、このグラフでも明らかなように、効果が現れるのが早いのも、この薬の大きな特徴です。服用開始から1週間後には、プラセボ群と比較しても、はっきりした差が現れています。
これまでの抗うつ剤は、服用開始から効果が現れるまでにかなりの期間が必要でした。たとえばSSRIの場合、その期間は2~4週間といわれます。効果が現れる前に、副作用が先に出てくるため、服用をやめてしまう患者さんも少なくありませんでした。
リフレックスでは、前述したように睡眠障害、イライラ、不安などがまず解消します。1週間目から、自覚できる効果が現れるため、患者さんは薬が効いている実感を持つことができます。
副作用に吐き気がないことがポイント
主な副作用は眠気、倦怠感、口が渇くなどで重篤なものはありません。
とくに服用を開始してから数日間は、強い眠気が起こり、1日中寝てしまうこともあるといいます。しかし、眠れなくて困っている患者さんにとっては、好都合な副作用といえます。
SSRIは副作用として吐き気が起こることがありますが、リフレックスの副作用に吐き気はほとんど認められません。抗がん剤治療を受けている場合、副作用の吐き気で困っている人が多いと思いますが、リフレックスで、吐き気が強まる心配はありません。
他の薬との相互作用が起こりにくいのも、この薬の特徴です。がんの患者さんは、抗がん剤をはじめとして、何らかの薬を服用していることが多いので、相互作用が少ないことも、大きな長所となります。
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