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患者のためのがんの薬事典

アバスチン(一般名:ベバシズマブ)
肺がん患者にも使えるようになった血管新生阻害剤

取材・文:町口充
発行:2010年2月
更新:2019年7月

  
写真:アバスチン(一般名ベバシズマブ)

アバスチンは分子標的薬の1つで、がんに栄養や酸素を補給する血管が作られないようにしてがんの成長を妨げる薬です。日本では、「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」に対してのみ使用が認められていましたが、米国、欧州に続いて、日本でも09年11月に「扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」への適応追加の承認が得られ、肺がん治療に新たな治療選択肢が加わることになりました。

がん細胞の血管新生を阻害する

がん細胞が持つ特定の分子を標的に、それを動かなくすることでがんの増殖や転移を抑える働きをするのが分子標的薬です。

さまざまなタイプがありますが、アバスチンが標的とするのは血管内皮増殖因子(VEGF)と呼ばれるタンパク質です。

がんの増殖には、栄養と酸素が必要となります。がんは血液を通じてこの栄養や酸素を取り込むことから、がん自らが血管を新しく作っていきます(血管新生)。この血管新生を促すために、がん細胞が分泌するのがVEGFです。

アバスチンは、VEGFの働きを阻害することによって血管新生を抑える働きがあります。これによってがんに栄養が行き渡らなくなれば、増殖のスピードは低下し、がんの縮小がもたらされることになります。

もう1つ、アバスチンにはがん細胞の残存血管を正常化する働きがあることもわかっています。がんが作り出した血管網は異常な形をしていて、正常な血管と比べて漏れやすく、抗がん剤を投与しても肝心のがんがあるところまでは届きにくくなっています。

アバスチンの血管正常化作用により、抗がん剤ががんに届きやすくなります。このため、アバスチンは抗がん剤と一緒に使うことで効果を発揮すると考えられています。

日本人の有用性も臨床試験で確認

肺がんに対するアバスチンの効果は、国内外の臨床試験で確かめられています。

米国では、進行・再発の非小細胞肺がん(扁平上皮がんを除く)の患者さんを対象に、標準的な化学療法であるパクリタキセル(商品名タキソール等)+カルボプラチン(商品名パラプラチン等)の2剤併用化学療法と、これにアバスチンを加えた療法との第3相比較試験が行われました。結果は、化学療法のみの群に比べ、全生存期間が25パーセント改善され、生存期間の中央値は化学療法のみの群が10.3カ月だったのに対して、12.3カ月と初めて1年以上延長しました。

欧州では、シスプラチン(商品名ブリプラチンまたはランダ等)+ゲムシタビン(商品名ジェムザール)の併用群と、それにアバスチンを加えた群との第3相比較試験が行われ、アバスチン群のほうが無増悪生存期間(病気が進行せずに生存する期間)が20~30パーセント延長しました。

日本で行われた第2相比較試験では、標準的な化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチンの併用療法にアバスチンを併用することで、増悪もしくは死亡のリスクを39パーセント減少させるなど、海外の臨床試験と同様の結果が得られ、日本人にもアバスチンが有用であることが確かめられました。

いずれの試験でも扁平上皮がんが除かれています。どうしてかというと、重篤な副作用が懸念されるためです。米国での第2相試験では、扁平上皮がんの患者さんも対象にしたところ、肺出血(喀血)のリスクが高いことがわかりました。それ以降、扁平上皮がんを除いた試験が行われ、適応対象となる患者さんも、扁平上皮がん以外となっているのです。

アバスチンは単独ではなく、抗がん剤と一緒に投与します。日本ではカルボプラチン+パクリタキセルなどの2剤併用の化学療法が一般的で、これとアバスチンを組み合わせた治療法ということになります。

アバスチンは、1回につき体重1キロあたり15ミリグラムを点滴で静脈に投与します。投与間隔は3週間以上となっていて、1回治療を受けたあとは少なくとも20日間投与を休み、これを繰り返します。ただし、進行・再発の非小細胞肺がんに対する2剤併用化学療法は、最大でも6サイクルまでとなっています。それを過ぎて治療を続けても、毒性だけが増えて患者さんの利益にはつながらないとの試験結果が出ているからです。一方、アバスチンは、化学療法と共に6サイクル投与した後も、増悪が認められるまでアバスチンを単独で継続投与します。

[アバスチンの効果1(E4599試験:全生存期間)]
図:アバスチンの効果1(E4599試験:全生存期間)

出典:Sandler, et al. NEJM 2006

[アバスチンの効果2(JO19907試験:全奏効率、病勢コントロール率)]
図:アバスチンの効果2(JO19907試験:全奏効率、病勢コントロール率)

出典:Ichinose Y, et al, ECCO-ESMO 2009

十分に注意したい副作用の肺出血

アバスチンによる治療でみられる主な副作用としては、高血圧、タンパク尿、鼻出血などがあります。しかし、多くの場合、重篤になるケースは稀です。

副作用として十分に注意したいのは、肺出血(喀血)です。以前、肺結核になって血を吐いたなどではなく、治療開始前に非小細胞肺がんにより2.5ミリリットル(小さじ2分の1)以上の喀血(吐いたものの全てが鮮血)があった患者さんでは重篤な喀血が発現する可能性が高いと報告されており、このような患者さんはアバスチンの投与が受けられません。したがって、もしも喀血があったら、必ず主治医に伝えてください。

なお、アバスチンは大腸がん、肺がん以外にも、適応症の拡大が予定されています。

09年に承認申請した乳がんのあとも、胃がん、結腸がん・乳がんの術後補助療法について適応症追加の申請が行われる予定です。


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