• rate
  • rate
  • rate

患者のためのがんの薬事典

タシグナ(一般名:ニロチニブ)
グリベックの服用継続が難しい患者さんに大きな福音

取材・文:星野美穂
発行:2010年1月
更新:2014年1月

  
写真:タシグナ(一般名ニロチニブ)

タシグナは、慢性骨髄性白血病の患者さんのうち、グリベック(一般名イマチニブ)が効果不十分、もしくは副作用などにより中止せざるを得ない人を対象としています。
慢性骨髄性白血病治療を一変させる治療効果を持ったグリベックでも、十分な効果を得られなかった患者さんにとって、大きな福音となる薬剤です。

慢性骨髄性白血病の治療を一変させたグリベック

慢性骨髄性白血病は、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞を作る造血幹細胞ががんになる病気です。原因は何らかの理由で作られたフィラデルフィア染色体に誕生したBCR-ABL遺伝子で、その遺伝子からBcr-Abl蛋白がつくられます。この蛋白はエネルギーのもとと結合すると“白血病細胞を増やせ!”という指令を出します。グリベックはBcr-Abl蛋白と結合し、その指令を阻止することで白血病細胞の増加を抑え、白血病細胞の数を減らしていくのです。

長い間、慢性骨髄性白血病の治療は骨髄移植やインターフェロンなど限られたものしかなく、それらの効果も決して高いといえるものではありませんでした。

そうした状況を一変させたのが、2001年に登場したBcr-Ablをターゲットとした分子標的薬グリベック(一般名イマチニブ)です。グリベックによる治療は、7年全生存率86パーセントと、良好な長期予後をもたらしました。

グリベックよりも発症、進行の原因を強く抑える

しかし、グリベックによる治療で十分な効果が得られない患者さんや、強い副作用が出るなどしてグリベックを中止せざるを得ない患者さんも約20パーセント存在しています。

そうした患者さんを対象に開発されたのが、2009年3月に発売された分子標的薬タシグナ(一般名ニロチニブ)です。

タシグナは、慢性骨髄性白血病の発症、進行の原因であるBCR-ABL遺伝子から作られるBcr-Abl蛋白にグリベックよりさらに強く、かつ選択的に結合することができるように開発された薬剤です。海外臨床試験の結果を見てみると、グリベックの効果が不十分または副作用などにより、使用が続けられなかった患者さん321例にタシグナを投与した結果、95パーセントの患者さんで白血球の数が正常化し、症状が消失する血液学的完全寛解(CHR)を得たという結果が出ています。

また、フィラデルフィア染色体が認められなくなる細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)も、44パーセントの患者さんに得られています。投与開始から、24カ月後の全生存率も87パーセントと良好な結果が得られました。

[ニロチニブの治療効果達成率]
図:ニロチニブの治療効果達成率

グリベックの服用を続けられない患者が対象

タシグナは、グリベックで効果不十分、もしくは副作用などにより服用が続けられない慢性期または移行期の慢性骨髄性白血病の患者さんを対象とする薬剤です。

慢性骨髄性白血病の治療指針には、欧州の白血病研究組織European LeukumiaNet(ELN)のELNコンセンサスという全世界でスタンダードとなっている基準があります。

この基準では、グリベックで治療を開始してから何カ月でどのような効果を得ればよいか、の基準が示されています。

例えばグリベックを3カ月服用しても、血液中の白血球の数が変わらず、病期が進行している状態である血液学的効果(HR)なしなら他の治療法への変更が推奨されています。

また、IRIS試験という海外の臨床試験によれば、グリベック投与後18カ月の時点で、原因遺伝子であるBCR-ABL遺伝子が検出されない分子遺伝学的寛解(MMR)が得られていれば、ほぼ100パーセント、その後の病期の進行が抑えられるという結果が出ています。この結果から、ELNでは18カ月の時点でMMRが達成できていない場合は、グリベックの増量や新薬への切り替えを考えたほうがよいとされています。

現在、慢性骨髄性白血病の2次治療薬としてスプリセル(一般名ダサチニブ)という薬剤も発売されていますが、グリベックの次にどちらを使ったらよいかということについては、まだ明確な基準はありません。

グリベックからの切り替え時期を含め、どちらの薬剤を選択するのかについては、医師と十分に相談してください。

副作用を回避するため服用方法に注意する

タシグナは、1日2回、12時間ごとに経口で服用しますが、薬剤の副作用を回避するため、服用方法に注意点があります。

食後にタシグナを服用すると吸収が促進されて血中濃度が上昇し、副作用が現れやすくなる恐れがあります。そのため、食前1時間、食後2時間は服用を控える必要があります。また、12時間ごとを目安に服用してください。患者さんご自身の生活パターンに合わせて服用時間を決めておくと、服用の間違いは起こりにくいでしょう。

もう1つの注意点はタシグナと一緒に服用すると効果を増強したり、弱めてしまう薬剤や食品、健康食品などがあることです。食品ではグレープフルーツジュース、健康食品ではハーブの一種であるセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)などで、あらかじめ医師や薬剤師から注意すべき薬剤や食品、健康食品などについて説明を聞いておきましょう。

臨床試験の結果次第では第1選択薬となる可能性も

グリベック使用後の2次治療薬として承認されたタシグナですが、その効果の高さから、現在、初発の慢性骨髄性白血病患者さんを対象とした全世界規模での臨床試験が進行中です。

初発慢性期の慢性骨髄性白血病患者さんを対象にグリベックとの効果を比較した臨床試験の結果、治療開始12カ月の時点で、タシグナのほうがグリベックよりも、より早く、かつ優れた効果が認められたそうです。

この臨床試験で最終的によい結果が得られれば、慢性骨髄性白血病の患者さんに対する第1選択薬として申請する予定だそうです。

また、適応拡大として、消化管間質腫瘍(GIST)の患者さんを対象にした臨床試験も進行中です。


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!