患者のためのがんの薬事典
アリムタ(一般名:ペメトレキセドナトリウム水和物)
非小細胞肺がんの「非扁平上皮がん」にはアリムタ
アリムタ(一般名ペメトレキセドナトリウム水和物)は、アスベストの曝露が原因とされる悪性胸膜中皮腫患者に有用性が確認された世界で初めての薬剤です。そして、2009年5月、アリムタは「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」にも適応症を拡大しました。
今回の適応症の拡大は、これまで有効性に大きな違いがなかった肺がん治療に、薬剤選択の明確な基準を設けるものとなりました。
非扁平上皮がんの生存期間を延長
肺がんは、がん細胞の形態により、「小細胞がん」と「非小細胞がん」に分類されます。非小細胞がんは、さらに「扁平上皮がん」と、腺がんや大細胞がんなどの「非扁平上皮がん」に分けられます。
アリムタは、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の患者さんを対象にした抗がん剤です。
「切除不能な進行・再発」とは、がんの広がりの程度を示すTNM分類で3b期もしくは4期にあたります。原発の肺がんが胸膜や胸壁にまでおよび、胸水がたまっていたり、さらには肺以外の脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に遠隔転移しているような状態のことです。
ただし、こうした「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」がすべてアリムタの対象となるわけではありません。アリムタは、「非小細胞がん」の中でも「非扁平上皮がん」の患者さんが対象になると考えられています。
「アリムタ+シスプラチン(一般名)併用群」と標準的治療の1つである「ジェムザール(一般名ゲムシタビン)+シスプラチン併用群」とを比較した海外の臨床試験結果で、「非小細胞がん」全体をみた場合、生存期間中央値(ある治療を行ったときに、その治療を受けた患者さんが亡くなるまでの期間の中央の値)は両群に差がありませんでした。
しかし、「非扁平上皮がん」での成績をみてみると「アリムタ+シスプラチン」のほうが明らかに生存期間を延ばすという結果が得られました。
これまで、進行した非小細胞がんの治療は、使用する薬剤の有効性には大きな違いがなく、副作用の出やすさなどによって使い分けをしていました。
今回、アリムタの非小細胞肺がんの適応症承認により、「非扁平上皮がん」ならばアリムタ、「非扁平上皮がん」以外のがんなら別の薬剤を使用、という明確な基準が設けられたことになります。
複数の葉酸代謝経路を阻害するため、強い抗腫瘍効果に
アリムタは「葉酸代謝拮抗薬」と呼ばれる抗がん剤です。
細胞は、遺伝子であるDNAを合成し、2つの細胞に分裂しながら増えていきます。アリムタはがん細胞がDNAを合成するのに必要な葉酸の代謝過程を阻害することでがん細胞の増殖を抑え、細胞死を誘発するといわれています。
また、メソトレキセート(一般名メトトレキサート)や5-FU(一般名フルオロウラシル)など従来の葉酸代謝拮抗薬が1つの代謝経路だけを阻害するのに対し、アリムタは複数の代謝経路を阻害します。そのため、より強い抗腫瘍効果が期待できる薬剤です。
アリムタは、「非扁平上皮がん」に対して単剤でも効果を発揮しますが、実際の使用は臨床試験でも効果を示したシスプラチンなどの抗がん剤との併用が中心になることが多いでしょう。
アリムタの投与は、約3週間ごとに1回の投与を1コースとして、何コースか繰り返します。通常10分間かけて腕の静脈内へ点滴投与します。初めて治療を行う場合は、効果や副作用をチェックするために入院して投与しますが、副作用の心配が少ない場合、外来で治療を行うことも可能です。
副作用軽減のための葉酸、VB12の投与を忘れずに
アリムタを使用する際、忘れてはならないのが葉酸(ビタミンB群の仲間)とビタミンB12の投与です。
アリムタは、がんの複製に必要な葉酸の取り込みを遮る薬剤です。
しかし、正常な細胞にも葉酸は必要です。それを補うことで、白血球や血小板減少、嘔吐、下痢などの副作用を軽減することができるのです。
葉酸は、アリムタが最初に投与される7日以上前から毎日1回服用します。また、ビタミンB12はアリムタが最初に投与される少なくとも7日前までに筋肉注射で投与を受ける必要があります。その後は、9週ごとに1回ずつ受けます。
アリムタの投与を受けている患者さんは、ご自身でも葉酸やビタミンB12の服薬を忘れないようにすることが大切でしょう。
このほか、吐き気や皮疹などの副作用についても、あらかじめ制吐剤やステロイドを使用することで副作用を軽くすることができます。
薬剤の治療中に身体の異常を感じた場合、早期に副作用に対処するため、治療を担当している医師に必ず相談してください。
米国で維持療法に使用可能な初めての薬剤として承認取得
今年7月、米国食品医薬品局(FDA)は、進行または転移を有する肺がんの維持療法に使用可能な初めての薬剤としてアリムタを承認しました。
がん患者さんは化学療法によって腫瘍縮小または、病勢安定後、疾患の進行を防ぐために維持療法を受けることがあります。
通常、抗がん剤は長期間使用していくと耐性ができ、効果が薄くなるといわれます。また毒性も蓄積されるため、副作用が出やすくなります。
米国で維持療法での使用が認められたということは、アリムタは長期間使用での毒性が少なく、長期に渡って使用しても安全だと認められたという結果です。使い方が限定される米国と異なり、日本では「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」であればアリムタは初回治療でも再発時でも、また維持療法としてでも、医師の裁量で使用することができます。
アリムタは初回治療だけでなく維持療法としての使用にも、期待が寄せられています。
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