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患者のためのがんの薬事典

タキソテール(一般名:ドセタキセル)
前立腺がんの患者さんの生存期間を延ばし、QOLを改善した抗がん剤

取材・文:柄川昭彦
発行:2009年10月
更新:2019年7月

  
タキソテール(一般名ドセタキセル)

これまで、ホルモン療法の効かなくなった進行期の前立腺がんの患者さんに対しては、効果的な治療法はなく、緩和的治療が行われてきました。
2008年8月に抗がん剤タキソテール(一般名ドセタキセル)が前立腺がんへの適応追加の承認を取得し、前立腺がんの治療に大きな変化をもたらしました。
タキソテールはステロイド剤と併用することで、前立腺がん患者さんのQOL(生活の質)を改善し、生存期間を延長させる効果もあることが証明されました。

8種類のがんに適応を持つ抗がん剤

タキソテールが抗がん剤として日本で承認されたのは、1996年のことです。その翌年に発売され、以後、多くのがん患者さんに使われてきました。適応範囲は、日本では乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、頭頸部がん、卵巣がん、食道がん、子宮体がん、前立腺がんの8種類のがんの治療に用いられています。

タキソテールは細胞分裂をある段階でストップさせ、次の段階に進めないことで、がん細胞を死に至らしめる薬です。がん細胞は活発に細胞分裂を繰り返しているため、この作用の影響を強く受け、細胞の死を迎えることになるのです。

このように、がん細胞の基本的なメカニズムに働きかけるため、広い適応を持ち、多くのがん種のキードラッグとして使用されてきたのです。

ホルモン療法の効かなくなった患者さんへの新たな選択肢

前立腺がんの治療法はホルモン療法、手術療法、放射線療法、待機療法など、多岐にわたっています。ただ、進行期のがんや再発したがんに対しては、全身的な治療が必要となるため、ホルモン療法が中心となります。

ホルモン療法は非常に効果的ですが、これが効かなくなった場合、かつてはもう積極的治療は行えず、緩和治療に移行するしか方法がなかったのです。

もちろん、いろいろな抗がん剤による治療も試みられてきました。しかし、生存期間を延長するような抗がん剤は現れず、「前立腺がんは抗がん剤に反応しない」とみなされてきたのです。

ところが、タキソテールは海外で行われたTAX327という大規模臨床試験で、有意に生存期間を延ばすことが確認されたのです。

こうして、タキソテールは、ホルモン療法の効かなくなった進行または再発の前立腺がんに対しての適応も承認されることになりました。

3週間毎の投与が最も効果的だった

前立腺がんの治療を変えることになったTAX327という臨床試験は、1000人の患者さんを3つの群に分けて行われた比較試験です。欧米では、抗がん剤のミトキサントロン(一般名。日本では前立腺がんの治療薬としては承認されていない)とステロイド剤の併用が標準治療として行われていたため、「ミトキサントロン群」と「タキソテール3週毎投与群」、「ミトキサントロン群」と「タキソテール毎週投与群」を比較しました。

過去の臨床試験により、ミトキサントロンとステロイド剤の併用は、生存期間を延長する効果はないものの、疼痛の緩和など、QOLの改善には役立つことは実証されていました。そのため、アメリカのFDA(食品医薬品局)は前立腺がんの治療薬として承認していたのです。

3群ともステロイド剤のプレドニゾン(一般名プレドニゾロン)を併用し、どの投与方法が、患者さんの生存期間とQOLの向上を示すかについて調べました。

その結果を示したのが、上のグラフです。タキソテール3週毎投与群がミトキサントロン群よりも、統計的有意差をもって生存期間の延長が認められたのです。

生存期間中央値で比較すると、ミトキサントロン群が16.5ヵ月、タキソテール毎週投与群が17.4ヵ月、タキソテール3週毎投与群が18.9ヵ月でした。その後、2007年の追加データによる解析では、タキソテール3週毎投与群とミトキサントロン群の中央値の差が2.9ヵ月とさらに開き、死亡率もタキソテール3週毎投与群が1番低いという結果が出ています。

また、3年生存率の比較において、タキソテール3週毎投与群が17.9%で、ミトキサントロン群の13.7%よりも4%高いという結果になりました。

タキソテール3週毎投与群は、QOLの改善においても、ミトキサントロン群を上回っていました。前立腺がんでは骨転移が起きやすく、その痛みに苦しめられる患者さんが多いのですが、痛みが改善する割合も、タキソテール3週毎投与群のほうが高かったのです。

[タキソテールの効果(前立腺がんの生存期間)]
図:タキソテールの効果(前立腺がんの生存期間)

出典:Tannock IF,et al N Engl J Med 351(15):1502-12,2004

特に注意すべき副作用は骨髄抑制と間質性肺炎

前立腺がんのホルモン療法を続けてきた患者さんの多くは、抗がん剤治療は苦しく、辛いというイメージを抱いているようです。抗がん剤治療で生存期間が延びるにしても、その間、副作用で苦しめられているのでは意味がありません。しかし、タキソテールとステロイド剤(日本で使用できるのはプレドニゾロン)を併用する治療は、QOL改善効果も確認されています。治療することで、より質の高い生活を送ることができるのです。

タキソテールは世界100ヵ国以上で使用されている抗がん剤で、日本で承認されてから10年以上経過している薬なので、副作用の種類や発現時期はおおよそ分かってきています。

特に注意が必要なのは、骨髄抑制と間質性肺炎です。骨髄抑制は、投与後1~2週間が最も強く現れ、この期間は感染が起こりやすくなりますので、感染に注意しなければなりません。間質性肺炎は化学療法全般において注意が必要な副作用です。発症すると重症化するおそれがありますので、投与前には肺に関連する合併症の有無や過去の既往歴について主治医と確認しておくことが重要です。投与中は、空咳が出る、息切れがする、息苦しいなどの症状に注意し、現れた場合にはすぐに主治医へ相談するようにしましょう。

副作用については、上記のような症状が出ても我慢してしまう患者さんが高齢の方に多くみられるそうです。副作用の症状がみられる場合は我慢せずに、治療中の体のコンディションなど、主治医や看護師に必ず報告し、相談してください。相談が早いほど、より早い対症療法を行うことによって、副作用の重症化を軽減することができ、治療を長く続けることができるようになるからです。

今回の適応追加により、以前なら治療を諦めなければならなかったホルモン治療が効かなくなった患者さんが、化学療法という治療法で、さらに命を延ばすことを目的に、治療に取り組めるようになりました。


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