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患者のためのがんの薬事典

メタストロン(一般名:ストロンチウム-89)
骨転移の苦しい痛みを緩和する放射性医薬品

取材・文:柄川昭彦
発行:2009年4月
更新:2014年1月

  
メタストロン(一般名ストロンチウム-89)

多発性の骨転移の疼痛緩和に効果がある放射性医薬品メタストロン(一般名ストロンチウム-89)が2008年秋に発売された。

海外ではすでに20~30年前から使用されているのに対し、日本では遅れていた。発売後も普及がなかなか進まないのは、この薬の安全管理や設備投資に対する診療報酬がなく、医療機関の負担となっていることが大きな原因だ。今後の診療報酬が変わることに期待したい。

骨転移の痛みを止める放射線治療の薬

メタストロンは、がんの患者さんに使われる薬ですが、いわゆる抗がん剤ではありません。実は放射線治療を行うための薬なのです。治療対象となるのはがんの骨転移で、痛みを抑える効果を発揮します。この薬がどのような働きをするのかを、簡単に説明しておきましょう。

メタストロンは、ストロンチウム-89という放射性物質を含んでいます。この薬を静脈に注射すると、ストロンチウム-89は血液に乗って全身をめぐりながら、がんの骨転移部に集まっていきます。

なぜ、骨転移部に集まるのでしょうか。骨では、カルシウムを取り込む造骨代謝と、カルシウムが溶け出す溶骨代謝が行われています。転移したがんが増殖するときには、骨を溶かしてがん細胞が入り込んだ後、その部分で造骨が盛んになります。つまり、がんの転移した部分は、カルシウムの取り込みがとくに活発になるのです。その働きを利用して、カルシウムの同族体であるストロンチウム-89は、カルシウムと一緒に骨転移部に取り込まれていきます。

こうして、骨転移が起きている部分に入り込んだストロンチウム-89は、そこに定着して放射線を出します。それによってがんが照射され、治療効果が現れるのです。

照射されるのはβ線という放射線で、透過性が低いため、組織の中では平均2.4ミリメートルしか届きません。そのため、ごく近くの組織に影響を及ぼすだけで、通常の放射線治療のように、周囲の正常組織に影響を及ぼすことが少ないのです。

外部照射が困難な多発性転移の治療に最適

がんの骨転移には、造骨代謝が活発になるタイプと、溶骨代謝が活発になって骨が減っていくタイプとがあります。メタストロンが効果を発揮するのは、固形がんの骨転移で、とくに造骨代謝が活発になるタイプです。このような骨転移は、骨シンチグラフィ(*1)で陽性を示すので、検査を行えばすぐにわかります。

がんの種類では、前立腺がんの骨転移に対して最もよく使われています。その他、患者数の多い乳がんや肺がんの骨転移にも、よく使われています。

入院する必要もなく、外来で治療を行うことができます。

ただ、造骨代謝が活発になるタイプの骨転移でも、起きているのが1カ所だけなら、一般的な放射線治療である外照射のほうが効果的です。メタストロンの治療が効果的なのは、多発性の骨転移が起きている場合。数が多くなると、外照射で1つひとつ照射するのは大変だし、リスクを伴います。その点、メタストロンは、血液に乗って全身をめぐるので、骨転移が何カ所に起きていてもいっぺんに治療することができるのです。

*1 骨シンチグラフィ=骨転移などを調べる検査。放射性医薬品を注射し、撮影する

[骨転移部に集まるメタストロンと痛みを緩和する作用]
図:骨転移部に集まるメタストロンと痛みを緩和する作用〕

出典:J Nucl Med 41:183-188,2000 Eur J Cancer 37:2464-469,2001

約6割に痛みが軽減し鎮痛薬が減った人も

メタストロンの効果を調べた臨床試験では、VAS(Visual Analogue Scale=視覚アナログ尺度)などを用いて、痛みがどのように変化したかをとらえています。VASは痛みのない状態を0ミリメートル、最高の痛みを100ミリメートルとして痛みがどの程度かを示す方法です。

それによると、治療開始時のVAS平均値は、48ミリメートル(かなり痛いレベル)でした。ところが、メタストロンによる治療を行うと、投与後徐々に痛みが軽減していき、投与7週間後には28.4ミリメートル(少し痛いレベル)になり、投与12週間後には24.1ミリメートル(痛みがコントロールされた状態)になっていました。

この臨床試験では、VASの減少が見られた患者さんが約6割(58.9パーセント)になっています。また、約4割(39.1パーセント)の患者さんで、痛みの増強なしに鎮痛薬の使用量を減らすことができています。さらに、VASか鎮痛薬使用量のいずれかの減少が見られた患者さんは、全体の約7割(72.5パーセント)を占めていました。

副作用で注意しなければならないのは骨髄抑制(*2)で、10パーセント程度の人に起こることがわかっています。そのため、もともと骨髄抑制がある患者さんへの投与は、骨髄の機能回復を待って慎重に行う必要があります。

ちょっと変わった副作用としては、投与後3日以内に、一時的に痛みが強くなることがあります。ペインフレアと呼ばれる現象で、5~15パーセントの人に起こります。通常は2~5日でこの痛みは消失します。

*2 骨髄抑制=血液は骨髄の中でつくられるが、抗がん剤などの影響で、血液をつくる働きが低下すること

診療報酬の改変が期待されている

メタストロンは2007年11月に発売されましたが、2009年2月12日の時点で、この薬による治療を行っているのは、全国で184施設に過ぎません。治療を行う施設のない県が、まだ5県もある状態なのです。

広く普及していない最大の理由は、診療報酬(*3)にあります。メタストロンを使うためには、放射線を取り扱うため安全管理の知識と管理体制が必要ですし、β線測定用機器などの設備投資も必要になります。ところが、現在の診療報酬では、医薬品としてのコストしか認められていません。そのため、この治療に伴うさまざまな費用は各医療機関の負担となっているのが現状なのです。これでは、メタストロンを使う施設が増えていかないのも無理はありません。

現在、がんの治療が進歩したことで、進行がんの患者さんの生存期間はどんどん延びています。それに伴い、骨転移による痛みの治療を望む人は間違いなく増えていくでしょう。そうした人たちのためにも、多くの医療機関でこの薬を使える環境が整ってほしいものです。

*3 診療報酬=保険診療のもと、国が定めている診療や検査の料金、薬の値段などのこと


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