患者のためのがんの薬事典
カソデックス(一般名:ビカルタミド)
前立腺がんの治療に広く使われる抗アンドロゲン薬
カソデックスは前立腺がんのホルモン療法に用いる抗アンドロゲン薬というタイプの抗ホルモン薬です。この薬は、イギリスでは1995年より前立腺がんの治療薬として使われています。日本では1991年より開発が開始され、1999年5月から使用できるようになりました。
よく使われている抗アンドロゲン薬
前立腺がんには、男性ホルモンのテストステロンに刺激されて病気が進むという特徴があります。抗ホルモン薬はテストステロンの働きを抑えることによってがん細胞の成長や増殖を抑える作用を持った薬です。
抗ホルモン薬には大きく分けて2つのタイプがあり、その1つはLH-RHアナログという薬剤です。LH-RHとは性腺刺激ホルモン放出ホルモンのことです。
テストステロンの約95パーセントは精巣で作られますが、この薬はその分泌を抑えます。
もう1つが抗アンドロゲン薬です。前立腺がん細胞にある男性ホルモン受容体をブロックしてテストステロンを受け入れられなくする作用を持っています。テストステロンは精巣だけでなく5パーセントくらいは副腎で作られています。抗アンドロゲン薬は、精巣から作られるテストステロンだけでなく副腎で作られるテストステロンも抑えることができます。
抗アンドロゲン薬には、ステロイド型とカソデックスなどの非ステロイド型があり、海外のガイドラインにおいては、カソデックスは忍容性の高い薬剤として紹介されています。こうしたことから、カソデックスは抗アンドロゲン剤の中でも前立腺がん治療において広く使われています。
性機能維持を可能にするカソデックス単独療法
前立腺がんのホルモン療法は単独で行われる場合や、手術や放射線治療と併用して行われる場合などがあります。手術や放射線治療の前に行われる治療をネオアジュバント療法、手術や放射線治療の後に行われる治療をアジュバント療法といいます。また、2つのタイプのホルモン剤は、それぞれ単独で用いる場合もあれば、組み合わせて用いる場合もあります。組み合わせて用いる場合をMAB療法(マキシマム・アンドロゲン・ブロケイド)といいます。
前立腺がんのホルモン療法では、抗アンドロゲン薬だけで治療されることもありますが、ほとんどの場合、併用療法であるMAB療法が行われています。
ただし、MAB療法を行った場合は、前立腺がん治療のために、テストステロンの働きを抑制してしまいますので性機能の低下が起こります。一方、非ステロイド型の抗アンドロゲン薬だけで治療した場合にはテストステロンの低下は起こりませんので、性機能が維持される可能性が高まります。そこで性機能の維持を希望する患者さんや、テストステロンが少なくなって筋力が低下するのを避けたいという患者さんなどにはカソデックスの単独療法が選択される場合もあります。
MAB療法は生命予後も延長
進行した前立腺がんを持つ多くの患者さんには、抗ホルモン薬による治療が行われます。MAB療法はLH-RHアナログ単独療法に比べて患者さんの病勢進行までの期間を延長することが報告されています。しかし、予後の延長に関しては、多くの報告でこの2つの治療法に大きな差がみられていなかったことから、どちらの治療法が良いのかについては意見が分かれていました。
ところが、2007年にカソデックスを用いたMAB療法がLH-RHアナログ単独療法に対する優位性を示す2つの大きなトピックスがありました。
1つはASCO(米国臨床腫瘍学会)で前立腺がん治療のガイドラインが変更され、「ホルモン療法ではMAB療法を考慮すべき」と紹介されたことです。この記載の元となったデータは、筑波大学教授の赤座英之さんらが日本国内で行ったカソデックスの第3相臨床試験の結果でした。この試験は、進行前立腺がんの患者さんを対象に比較・検討したもので、MAB単独療法は病勢の進行が、明らかに遅くなるという結果でした。
もう1つのトピックスは、同年11月にヨーロッパの医学会でカソデックスを用いたMAB療法はLH-RHアナログ単独治療と比べて生命予後を延長すると報告されたことでした。
コンプライアンスの良さも魅力
カソデックスの用法は1日1回80ミリグラム錠を服用するというものです。服用時間もとくに制限がありません。1日1回、決めた時間に服用することで効果を発揮します。カソデックスは指示を守りやすい(コンプライアンスが良い)という点でも優れています。
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