患者のためのがんの薬事典
アラノンジー(一般名:ネララビン)
再発・難治性の白血病および悪性リンパ腫治療の新たな選択肢
アラノンジーは2007年12月14日に日本で保険承認されました。
これまで標準的な治療法が確立されていなかった「再発または難治性のT細胞急性リンパ性白血病(T-ALL:Acute Lymphocytic Leukemia)およびT細胞リンパ芽球性リンパ腫(T-LBL:Lympho Blastic Lymphoma)」に対して、初めて単剤での有効性が認められた抗がん剤です。
待望されていた国内発売
アラノンジーがイギリスのウエルカム社(現グラクソ・スミスクライン社)において発見されたのは、1981年のこと。難治性のT-ALLへの薬剤として期待されたにもかかわらず、神経毒性の問題などから、長らく日の目を見ることがありませんでした。
しかし、アメリカでは94年に臨床試験を開始、2004年に希少疾病用医薬品に指定され、05年に承認を取得しました。ヨーロッパでは、05年6月に希少疾病用医薬品に指定され07年8月に承認されています。
日本では06年1月未、承認薬使用問題検討会議において、「対象疾患患者数はけっして多くはないものの、本剤の必要は高い」と判断され、早急に開発すべき薬剤であることが認められました。同年6月に希少疾病用医薬品の指定を受け、海外臨床試験の成績に基づいて承認申請が行われています。T-ALLやT-LBに対する治療として新たな選択肢となるとともに、根治を目指した造血幹細胞移植のような治療を受けられるまで回復できるチャンスを広げる薬剤として、国内での発売が待たれていました。
T細胞に選択的に作用
白血病は「血液のがん」と呼ばれますが、そのなかでも急性リンパ性白血病(ALL)は悪性化した未熟なままのリンパ球である白血病細胞が著しく増加する病気です。15歳以下の小児のがんでは最も多く、約40パーセントを占めます。T-ALLはALLの中でも少数ですが、特に再発後の予後が非常に悪いとされます。
リンパ芽球性リンパ腫(LBL)は一般的なリンパ腫と比べ、より未熟な分化段階のリンパ球ががん化したものです。がん細胞の本質は、急性リンパ性白血病と同じであると考えられます。T-ALLは、LBLの一部に見られるものです。
T-ALLやT-LBLは、他の悪性腫瘍と比べ患者数は極めて少なく、国内で毎年新たに約600人が診断され、そのうち再発・難治性となる患者は300人未満と推測されています。血液のなかで免疫を受け持つT細胞に関係したがんであり、同じ免疫細胞であるB細胞に関係するがんや他の血液がんに比べても抗がん剤が効きにくく、従来の治療では成績が悪く、再発率も非常に高いものでした。
アラノンジーは、静脈内投与した際に体内で酵素によってある物質(ara-G)に変換されます。詳細な作用についてはここでは省きますが(図をご参照ください)、この物質がT細胞に選択的に働き、その結果、T-ALL、T-LBLなどのがん細胞内では細胞死が起こり効果を発揮するのです。
再発T-ALLに光明
2002年に海外で16歳以上の再発T-ALL患者39名を対象として行われたアラノンジーの第2相臨床試験の結果が報告されました。1回目の再発患者で完全寛解18パーセントを含む寛解率は27パーセント、2回目の再発患者では完全寛解18パーセント、寛解率21パーセントです。トータルすると、寛解率は23パーセントというデータが示されました。
また、2001年に21歳以下の患者70人を対象として行われた第2相臨床試験の報告があります。第1再発患者については、完全寛解42パーセントで寛解率は48パーセント、第2再発患者では、完全寛解13パーセントで寛解率は23パーセントでした。
小児T-ALLで第2再発期に対して、既存の治療法では治療開始から26週で生存率0パーセントになるというデータがあります。ところが、アラノンジー治療を行うことにより、第1再発のあとは治療から78週後の生存率34パーセント、第2再発を来たしたあとで78週後の生存率12パーセントとのデータが示されました。これまでほとんど有望な薬剤がなかった再発後のT-ALLに対して、アラノンジーは確かな光明をもたらしました。
脳-血管関門をもクリア
アラノンジーの有害事象としては、やはり神経障害が問題となります。成人において最も多いのはいつのまにか眠り込んでしまう傾眠、浮動性めまい、感覚減退、頭痛、錯感覚など。小児においては頭痛が最も多く見られます。
日本でも再発の患者さんを対象にした第1相臨床試験が進められています。安全性に関しては日本人特有となる事象は、現時点では報告されていません。
T-ALLなどの白血病は進行すると中枢神経に浸潤することがやっかいな問題として起こりがちです。これに対してアラノンジーは、従来多くの薬剤にとって障害となっていた脳-血管関門を通り抜けて中枢神経に到達するという特徴があることがわかっています。したがって、QOL(生活の質)向上という意味でも、適応範囲の拡大など将来的にも大きな可能性を秘めた薬剤です。
用法・用量
通常、成人には、ネララビンとして1500mg/m2 (体表面積)を1日1回2時間以上かけて点滴静注します。これを1、3、5日目に投与し、その後16日間休薬し、21日間を1クールとして繰り返します。通常、小児に対しては、ネララビンとして650mg/m2(体表面積)を1日1回1時間以上かけて点滴静注します。これを5日間連日投与し、その後16日間休薬します。21日間を1クールとして、繰り返します
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