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患者のためのがんの薬事典

アロマシン(一般名:エキセメスタン錠)
タモキシフェンの良きパートナー。乳がんの術後補助療法で大きな期待

監修:畠 清彦 癌研有明病院化学療法科部長
文:水田吉彦 日本メディカルライター協会(JMCA)
発行:2007年7月
更新:2014年2月

  
写真:アロマシン(一般名 エキセメスタン錠)

閉経後乳がんの術後補助療法として、長年信頼されてきたタモキシフェン。それと同等以上の効果が期待されるアロマターゼ阻害薬に、世界中の関心が寄せられている。第3世代アロマターゼ阻害薬のひとつであるアロマシンが、今回のテーマです。

最近の新薬開発動向

近年、新たな抗がん剤が次々と開発されるなか、いわゆる画期的な新薬が、なかなか生まれてこない実情にあります。なぜなら、やはり「がんは手強い」という以外に、今ある抗がん剤が相当高いレベルであるために、それをなかなか超えられない事情があるからです。「今ある抗がん剤を超えられない」、新薬開発を進めている研究者はそう嘆きますが、治療に関わる医師は落胆していません。現在の標準的治療薬と効果が同等ならば、十分に優れている薬剤でしょうし、作用のメカニズムが異なれば、抗がん剤を使う“順番”などをいろいろと工夫できて都合がよいからです。

つまり、効果が劣っておらず、他に何かしらの特徴を備えていれば、その新薬の存在意義は大いにある訳です。ましてや効果に優れていれば、言うことなしですね。最近の新しい抗がん剤に対する期待は、概ねこうしたものだと思ってください。重要なのは、新薬によって治療戦略が豊富になることです。処方の組み立てや、抗がん剤を用いる順番に工夫ができるなど、選択肢の広がりは医師にとって(もちろん患者さんにも)朗報です。これを念頭に、以降の文章をお読み下さい。

術後補助療法の復習

[乳がんに対するホルモンの作用と、各薬剤の作用点]
図:乳がんに対するホルモンの作用と、各薬剤の作用点

閉経後は、卵巣の機能が低下しエストロゲンが生成されにくくなり、副腎皮質からアンドロゲンという男性ホルモンが分泌され、脂肪組織にあるアロマターゼという酵素によってエストロゲンにつくりかえられます

さて、アロマシン(一般名エキセメスタン)ですが、これは最近なにかと話題のアロマターゼ阻害薬の1つであり、“閉経後乳がん治療剤”として開発されました。同効類似薬にはアリミデックス(一般名アナストロゾール)や、フェマーラ(一般名レトロゾール)があり、タモキシフェン(商品名ノルバデックスDなど)と同じく術後補助療法での効果が期待されています。錠剤になっており、通常は1日1回1錠を食後に経口投与します。アロマシンの化学構造式はステロイドと似ているために、ステロイド系アロマターゼ阻害薬などと呼ばれることもあり、これがアリミデックスやフェマーラと異なる点です。しかし、その構造特性が臨床的な利点になっているとの証拠は、今までに得られておりません。

アロマシンの使い方をご説明する前に、少しだけ術後補助療法の復習をいたしましょう。閉経後乳がんの約3分の2は、女性ホルモンである“エストロゲン”によってがん細胞の増殖が活発になります。このタイプの乳がんを、医学的にはER(エストロゲン受容体)陽性乳がんと言います。エストロゲンは、主に卵巣でつくられますが、卵巣機能が衰えた閉経後女性では、脂肪細胞などでもつくられて女らしさを保ちます。乳がんの手術後、このエストロゲンが体内に存在すると、再発リスクが高まることから、エストロゲンを作り出す酵素(すなわちアロマターゼ)を働かないようにする方法が考案されました。それがアロマターゼ阻害薬(アリミデックスやフェマーラ、およびアロマシン)なのです。

これらが開発される以前には、タモキシフェンが、エストロゲンに対処する唯一の手段でした。タモキシフェンは、がん細胞のエストロゲン受容体に結合して、エストロゲンが持っている増殖刺激を遮断します。この働きによって、ER陽性乳がんの術後再発率は大幅に低下しました。ですから、欧米では術後5年間のタモキシフェン服用が推奨されており、これを術後補助療法と呼んでいました。

術後補助療法に進歩あり

アロマターゼ阻害薬が登場したことで、術後補助療法に色々なバリエーションができました。従来、タモキシフェン一辺倒だったものが、タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬を“順番”に投与することで、再発率を今までよりも低く抑えることが可能になったのです。具体例としては、タモキシフェンを2~3年間服用した後に、薬剤を切り替えて、アロマシンを2~3年間服用します(スイッチ療法)。タモキシフェンだけで5年間の術後補助療法を続けるよりも、途中でアロマターゼ阻害薬に変更した方が、再発を若干なりとも減らせます。

術後補助療法では、ちょうど2~3年目辺りで耐性を獲得しやすいと考えられています。つまり、がん細胞がタモキシフェンに慣れてきて、再発の可能性が増してくるのです。そこで作用機序の異なるアロマターゼ阻害薬に切り替えて、がん細胞がまだ慣れていない状況をつくり直し、術後補助療法を継続するというのがスイッチ療法の作戦です。アロマターゼ阻害薬3剤のなかで、最初にこの治療戦略を提案したのがアロマシンでした。IESトライアルという大規模な臨床試験が実施され、タモキシフェン5年間群とスイッチ療法群とが比較された結果、軍配はスイッチ療法群にあがりました。タモキシフェンだけで術後補助療法を行っても、十分な効果を得られるのですが、途中でアロマシンに切り替えたほうが、より良い成果を期待できると結論されています。

2006年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2006)で、IESトライアルの最新データが発表されました。それによれば、タモキシフェン5年間群に比べて、スイッチ療法群では「反対側の乳房に再発するリスクが44パーセント減少」、「リンパ節に転移するリスクが17パーセント減少」、「死亡のリスクが15パーセント減少」などとされ、スイッチ療法の意義が明確になりました。

この結果を受けて、米国ではスイッチ療法が主流になりつつあるようです。今後の日本でも、再発リスクの高い患者さんに対して、スイッチ療法を取り入れる医師が徐々に増えるのではないかと予測されます。ただ、再発リスクの低い患者さんでは、タモキシフェンでの術後補助療法も有意義です。従って、スイッチ療法を行うか否かは、患者さん個々の病態によって判断されるものと考えられます。


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