患者のためのがんの薬事典
ニドラン(一般名:塩酸ニムスチン)
抗がん剤の効きにくい脳腫瘍の治療に有効な選択肢
脳腫瘍は、一般的に抗がん剤の効きにくいがんとされています。
ニドラン(略号ACNU)は、化学療法の選択肢の少ない脳腫瘍の治療で、第1選択として長年用いられてきた注射剤です。
最近、テモダールが承認され、幅が広がってきた脳腫瘍の化学療法の中で、今後も重要な役割を担っていくと考えられています。
日本で開発されたニトロソウレア系アルキル化剤
ニドランは、1970年代に日本で開発、発売されたニトロソウレア系のアルキル化剤に分類される抗がん剤です。脳腫瘍、消化器がん(胃がん、肝臓がん、結腸・直腸がん)、肺がん、悪性リンパ腫、慢性白血病への効果が認められており、現在、これらに対して保険承認がされています。
アルキル化剤とは、がん細胞のDNAをアルキル基という構造を持つ分子に変化(アルキル化)させることで、DNAの合成を阻害し、がん細胞の成長を止めるはたらきを持つ薬剤です。
大きく分けて、エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)やイホマイド(イフォスファミド)などのナイトロジェンマスタード系とニトロソウレア系などがあります。
ニトロソウレア系の薬剤は、分子量が比較的小さく、高い脂質溶解性(脂への溶けやすさ)を持つため、脳内に有害物が入るのを防ぐ血液脳関門(BBB=ブラッドブレインバリア)を通過しやすいという特徴を持っており、それゆえ脳腫瘍に対して多く使われます。
ニドラン(ACNU)のほか、サイメリン(MCNU、一般名ラニムスチン)、ロムスチン(CCNU)、カルムスチン(BCNU)などがこのグループに属します。ロムスチン、カルムスチンの2剤は、海外では古くから脳腫瘍を始めとしたがん治療に用いられてきましたが、日本では未承認であり、ニドランがこれらの代替的な役割を果たしているケースもあります。
造血器障害を始めとした主な副作用について
アルキル化剤の抗がん剤は、増殖が盛んな細胞に強く作用するため、骨髄や消化管粘膜、毛根などに障害を与えやすいという特徴があります。
承認時の臨床試験では、総症例1970例中1208例(61.32パーセント)に副作用が報告されています。その主なものは、白血球減少(31.52パーセント)、血小板減少(30パーセント)などの造血器の障害、嘔吐(13.4パーセント)、食欲不振(12.49パーセント)、悪心(8.93パーセント)、嘔気(7.92パーセント)などの消化器症状です。その他、脱毛や肝障害、発熱や全身倦怠などが起こることもあります。
特徴的な事項として、造血器の障害は、投与回数が増えるほど回復が遅くなる傾向があり、現在のところ、他の抗がん剤との併用の場合など、これを軽減する方法が確立されていない点が問題となっています。
重大な副作用としては、骨髄抑制( 1.12パーセント)、汎血球減少(0.56パーセント)、間質性肺炎(頻度不明)、肺線維症(頻度不明)が報告されています。
選択肢の少ない脳腫瘍の抗がん剤治療で中心的な役割
ニドランは、さまざまながんに広く適応がありますが、現在では、脳腫瘍の治療薬としての役割がもっとも代表的であり、有効な選択肢となっています。
脳には、前述の通り血液脳関門が存在するため、他の部位のがんと比べ、脳腫瘍では抗がん剤の効果が表れにくいことがあります。そのため、現在、日本において脳腫瘍に対して使用可能な抗がん剤は数少なく、血液脳関門の透過性のあるニドランがその中心的な薬剤として使われてきました。ニドランの他には、同じくニトロソウレア系のサイメリンやインターフェロンベータなどが用いられます。
今年の7月には、悪性神経膠腫に対してテモダール(一般名テモゾロミド)が承認され、脳腫瘍治療薬としては、実に19年ぶりに保険適用内での新しい選択肢が加わっています。
投与法は、単独で用いることもありますが、他の抗がん剤と組み合わせて使うケースが一般的です。日本ではニドランにインターフェロンベータ、オンコビン(一般名ビンクリスチン)やブリプラチン(もしくはランダ、一般名シスプラチン)などを併用することが多くなっています。ただ、現時点でニドラン単独投与がいいのか、多剤併用がいいのか、その効果についてまだ十分な検証は行われておらず、まとまったデータは出揃っていません。
脳腫瘍以外のがんでは、悪性黒色腫に対して、ニドランを含んだDAV-フェロン療法が標準的に行われています。これは、ダカルバジン、オンコビン、ニドランの3剤併用療法にインターフェロンベータの皮内注射を組み合わせたもので、主に2期、3期の術後補助療法として有効な成績をあげています。
その他には、現在、主に他の抗がん剤との併用で、肺がん、消化器がんなどに用いられています。肺がんでは、比較的抗がん剤が効きやすい種類のがんである小細胞がんに対して、とくに有効とされています。いずれも標準的に使われてはおらず、第2、第3の選択肢のうちの1つという位置づけです。
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