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患者のためのがんの薬事典

ファルモルビシン(一般名:エピルビシン)
乳がんの多剤併用化学療法に貢献。アントラサイクリン系抗がん性抗生物質

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
発行:2006年10月
更新:2019年7月

  
写真:ファルモルビシン(一般名 エピルビシン)

アントラサイクリン系の抗がん性抗生物質であるファルモルビシンは、現在のがん治療において、とくに乳がんの化学療法で、その効果を発揮しています。
アドリアシンに似た作用を持ち、その他のがんに対しても広く使われていますが、アントラサイクリン系の薬剤の特徴として心毒性の強さが問題で、投与にあたりいくつかの制約があります。

抗腫瘍効果のある抗生物質

ファルモルビシンは、1975年にイタリアで開発された、アントラサイクリン系の抗がん性抗生物質です。ペニシリンなどの一般的な抗生物質と同じく、元々は、土の中に存在する微生物によってつくられた細胞の発育を阻害する物質を利用して合成された薬剤です。

77年にミラノ国立がん研究所で臨床試験が開始され、血液がんや各種の固形がんに対する効果が確立。日本では80年代に入ってから試験が始まり、89年に輸入承認がされました。

現在までに有効性が認められ、保険適用の対象となっているがんは、急性白血病、悪性リンパ腫、乳がん、卵巣がん、胃がん、肝臓がん、尿路上皮がん(膀胱がん、腎盂・尿管がん)です。

アントラサイクリン系の抗がん剤は、細胞内の遺伝物質であるDNA、RNAなどの合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮していると考えられています。

トポイソメラーゼⅡという、遺伝子の結合や増殖を助ける酵素の働きを抑える効果があることから、トポイソメラーゼⅡ阻害剤という種類にも分類されます。

同系統の薬として有名なものに、古くからさまざまながんに使われているアドリアシン(一般名ドキソルビシン)や、白血病の治療薬であるダウノマイシン(一般名ダウノルビシン)などがあります。

心毒性の強いアントラサイクリン系抗がん剤

ファルモルビシンの投与により、一般的に起こりやすい副作用は、悪心・嘔吐、白血球減少、食欲不振、脱毛、血管漏出時の血管炎、皮膚壊死などです。膀胱腔内への注入の場合は、頻尿、排尿痛などが起こることがあります。

それ以外に重篤な副作用の可能性がありますが、その中で特筆すべきなのは、強い心毒性です。これは、アントラサイクリン系の抗がん剤の特徴とも言えるもので、他の系統の抗がん剤と比べても、さまざまな心障害(うっ血性心不全、虚血、不整脈、伝導障害、心膜炎など)を引き起こす率が高いことが報告されています。

そのため、これら心毒性を有するアントラサイクリン系の抗がん剤には、投与量の限界が定められています。ファルモルビシンの場合は、体表面積(㎡)当たり900ミリグラムが限界量となっています。アドリアシンはこれが500ミリグラムであり、後発のファルモルビシンなどは、アドリアシンに比べて心毒性が抑えられてはいますが、総投与量が限界量を超えないようにするなど、充分注意することが必要です。また、前治療でアントラサイクリン系の抗がん剤を限界量まで使用していた場合に、新しく別のアントラサイクリン系の抗がん剤を使うこともできません。

心毒性の他に、注意すべき副作用としては、骨髄抑制、ショック、膀胱腔内注入による萎縮膀胱などがあげられます。

高齢者、妊婦・授乳婦への投与には当然注意が必要ですが、小児に対する安全性も確立しておらず、副作用が多く報告されているため、この点も慎重な扱いが必要になります。

乳がんに対する併用化学療法で重要な役割

併用、単独など投与法もさまざまで、広い適用を持っていますが、その中でもとくに乳がんの治療において重要な役割を果たしています。

現在、乳がんに対する化学療法としては、CAF療法、CEF療法といった組み合わせが標準治療として行われています。

CAF療法は、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン、5-FU(一般名フルオロウラシル)の3剤併用療法で、CEF療法は、このうちアドリアシンをファルモルビシンに置き換えたものです。

CEF療法は、以前より乳がんの有効な治療法として国際的に広く用いられてきた治療でしたが、2005年に、EC療法(ファルモルビシンとエンドキサンの2剤併用療法)と合わせて、乳がんに対する併用療法としての適応も新たに認められました。

ファルモルビシンは、アドリアシンと似た性質を持つため、アドリアシンに替えて用いられることが多くあります。たとえば、M-VAC療法(メソトレキセート、エクザール、アドリアシン、シスプラチンの4剤併用療法)は、膀胱がん(尿路上皮がん)の代表的な化学療法ですが、ファルモルビシンを用いたM-VAC療法も同程度の成績が期待できるとされています。

そのほか、肝臓がんでは、肝動脈塞栓療法に組み合わせて、動脈内注射によりファルモルビシンなどの抗がん剤を注入する方法が一般的に行われています。肝動脈塞栓療法は、血管からの栄養の補給路を断って、がんを兵糧攻めにする治療法ですが、この効果増強、補助的な役割を期待して、抗がん剤が併用されています。

また、標準的な治療としては用いられていませんが、卵巣がん、胃がん、肺がんなどで、状況により選択されることがあります。卵巣がんに対しては、第1選択となるTJ療法にファルモルビシンを加える治療法が検討されていましたが、TJ療法を超える成績は報告されていません。

[がん種別臨床試験成績]
がん種 奏効率(CR+PR) 奏効数/症例数
急性白血病 23.50% 8/34
悪性リンパ腫 64.30% 27/42
乳がん 38.60% 27/70
卵巣がん 20.00% 7/35
胃がん 15.30% 11/72
肝がん(動注) 15.10% 8/53
尿路上皮がん 18.80% 6/32
表在性膀胱がん(膀注) 58.40% 52/89


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