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患者のためのがんの薬事典

メソトレキセート(一般名:メトトレキサート)
古くから白血病に用いられ、適応を拡大してきた抗がん剤。ロイコボリン併用で副作用に対応

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
発行:2006年8月
更新:2019年7月

  
写真:メソトレキセート(一般名メトトレキサート)

「葉酸代謝拮抗剤」に分類されるメソトレキセートは、約60年前に開発された大変に古い抗がん剤です。
現在は、白血病と絨毛性疾患に加えて、他剤との併用で、乳がん、胃がん、膀胱がん、肉腫、悪性リンパ腫の治療に用いられている他、がん以外ではリウマチの治療薬としても効果をあげています。
副作用の軽減のためにロイコボリンという薬と併用することが多いのが特徴です。

白血病の治療薬として登場した葉酸代謝拮抗剤

メソトレキセートが白血病の治療薬として開発されたのは、1940年代。抗がん剤開発の創成期とも言える時期に登場した、非常に古い歴史を持つ抗がん剤です。日本では、1963年に経口薬、68年に注射薬が承認され、その後、白血病以外のがんにも使われるようになりました。

「MTX」という略号で表記されることも多いので、ご自分でお調べになるときなどのために、覚えておかれるとよいかと思います。

メソトレキセートは、代謝拮抗剤のうちの、「葉酸代謝拮抗剤」に分類されます。この種類の抗がん剤には、がん細胞が分裂、増殖するのに必要な葉酸という代謝物質のはたらきを阻害し、死滅させるという作用があります。

単剤での使用は、白血病や絨毛性疾患に対してのみの適応となっています。絨毛性疾患とは、胎盤の外側にある絨毛という組織に発生する病気で、妊娠の後に子宮内部におこります。絨毛がんと良性の胞状奇胎に分けられますが、いずれもまれな病気です。白血病では、骨髄移植後の合併症であるGVHD(移植片対宿主病)の予防を目的として使われることも多くあります。

他の抗がん剤との併用の場合は、乳がん、胃がん、膀胱がん、肉腫、悪性リンパ腫の治療にも適応が広がります。

メソトレキセートは、元々抗がん剤として開発され、使用されていたものですが、後にその免疫抑制作用が注目され、リウマチの治療にも使用されるようになりました。

海外では、関節リウマチ治療に非常に高い効果をあげ、1980年代より、最も中心的な薬剤として用いられてきましたが、日本国内でリウマチに対する保険適応が認められたのは、1999年になってからです(日本での商品名はリウマトレックス、経口薬)。

白血病、絨毛性疾患以外への投与法

前述した通り、乳がん、胃がん、膀胱がん、肉腫、悪性リンパ腫に対しては、単剤で使用することは認められておらず、決められた組み合わせでの併用療法においてのみ、使用することが可能です。現在、適応が認められている主な組み合わせは次の通りです。

●CMF療法

エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)+メソトレキセート+5-FU(一般名フルオロウラシル)の3剤併用療法。乳がんに対する標準的な化学療法でしたが、最近では、CAF、CEF療法に置き換えられることが多くなってきています。

●M-VAC療法

エクザール(一般名ビンブラスチン)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ブリプラチン(またはランダ、一般名シスプラチン)と組み合わせた4剤併用療法。現在、膀胱がん(尿路上皮がん)に対する標準的な化学療法です。

●メソトレキセート・ロイコボリン救援療法

メソトレキセートを投与後、3~6時間後にロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)を投与する方法。肉腫、急性白血病、悪性リンパ腫の治療に使われます。

●メソトレキセート・5-FU交代療法

胃の未分化型腺がんに対して行われます。メソトレキセートを静脈内注射した後、1~3時間後に5-FU(一般名フルオロウラシル)を静脈内注射する方法です。その後、ロイコボリンの投与を行います。

CAF療法=エンドキサン+アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+5-FU
CEF療法=エンドキサン+ファルモルビシン(一般名エピルビシン)+5-FU

ロイコボリンの併用により副作用を抑える

メソトレキセートは、比較的副作用の出やすい薬と言えます。一般的な副作用は、悪心、嘔吐、白血球数減少、肝障害、口内炎、無尿症、めまい、頭痛などです。重篤な副作用としては、骨髄抑制や間質性肺炎などが報告されており、リウマチ治療にも用いられている現状で、この点は大きな問題です。

肝機能障害、腎機能障害、胸水や腹水などがある患者への投与は、これらの症状を悪化させたり、副作用を増大する恐れがあるため、禁止されています。また、妊婦または妊娠している可能性がある、もしくは授乳中の場合も、使用を控えることが定められています。

その他、アスピリンなどの解熱鎮痛剤や非ステロイド性の消炎鎮痛剤などを服用していると、副作用が強まることがあるので、併用の際は、充分な注意が必要です。

副作用の問題と関連しますが、メソトレキセートの投与の際には、ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)という薬剤が重要な役割を果たします。ロイコボリンは、「抗葉酸代謝拮抗剤」という種類の薬剤で、葉酸代謝拮抗剤の毒性を軽減し、副作用を抑えるはたらきがあります。

通常はメソトレキセートによると思われる副作用が現われた場合の措置として使用しますが、前にあげたように、元々ロイコボリンを含んだ化学療法の組み合わせも確立しています。この薬自体に抗がん作用はありませんが、併用することにより、メソトレキセートを従来よりも多くの量を投与することが可能になるため、その分高い抗腫瘍効果を得ることができます。

[メソトレキセートを用いた化学療法の臨床成績]
療法名 対象となるがん 臨床成績
CMF療法 乳がん ・進行、再発乳がん61例に対して36.1%(22例)の有効率(50%以上の縮小=有効の割合
メソトレキセート
・ロイコボリン救援療法
肉腫 ・肺転移のある肉腫35例(骨肉腫23例、その他の骨・軟部肉腫12例)において、肺転移巣の有効以上は20%(7例)
・骨肉腫、肺転移の3例には、転移巣の完全消失が認められている
急性白血病 ・他剤に無効でかつ中枢神経系に浸潤のある急性白血病10例に対する有効率は70%(10例中完全寛解2例、不完全寛解5例)
・睾丸浸潤のある急性白血病3例に対する有効率は67%
(3例中、完全寛解1例、不完全寛解1例)
悪性リンパ腫 ・他剤に無効でかつ中枢神経系に浸潤のある悪性リンパ腫6例に対する有効率は17%(6例中、完全寛解1例)
メソトレキセート
・5-FU交代療法
胃がん ・37例に対して、40.5%(15例)の有効率。
5-FU単独投与との比較試験の結果、有用性が認められている


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