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患者のためのがんの薬事典

エンドキサン(一般名:シクロホスファミド)
乳がん・悪性リンパ腫の中心的抗がん剤

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
発行:2006年6月
更新:2019年7月

  
写真:エンドキサン(一般名シクロホスファミド)

抗がん剤開発の創成期に登場したエンドキサンは、現在使われている抗がん剤の中でも、とくに長い歴史を持った薬剤です。
日本では1962年に製品化されました。
適応範囲は広く、主に乳がんや悪性リンパ腫の標準治療薬のひとつとして使用されています。

毒ガスからつくられた「アルキル化剤」

[エンドキサンの適応と臨床成績(単独投与の場合)]

疾患名 有効例数/評価対象例数 有効率(%)
多発性骨髄腫 159/362 43.9
悪性リンパ腫 616/1060 58.1
肺がん 152/537 28.3
乳がん 364/1005 36.2
急性白血病 134/382 35.1
真性多血症 2/3
子宮がん 63/304 20.7
卵巣がん 166/358 46.4
神経腫瘍 42/84 50
骨腫瘍 28/61 45.9
慢性白血病 92/191 48.2
咽頭がん 17/28 60.7
胃がん 57/270 21.1
膵がん 5/21 23.8
肝がん 13/33 39.4
結腸がん 31/132 23.5
睾丸腫瘍 17/27 63
絨毛性疾患 25/39 64.1
横紋筋肉腫 22/34 64.7
悪性黒色腫 11/45 24.4

抗がん剤の歴史は、マスタードガスという毒ガスの研究から始まっています。兵器として使用されていたマスタードガスに、人間の白血球を減らす作用があることにアメリカの研究者が、着目。第2次大戦中に、水溶性のマスタードガスであるナイトロジェンマスタードを抗悪性腫瘍剤として応用したものが、世界で初めての抗がん剤と言われています。

ナイトロジェンマスタードは、がん細胞のDNAを、アルキル基という構造を持った分子に変化させ(アルキル化)、DNAの合成を阻害することで、がんの成長を止めるという作用を持っており、この種類の薬剤を「アルキル化剤」と呼びます。このナイトロジェンマスタードをもとに、1950年代に開発された抗がん剤が、今回解説するエンドキサンで、現在、アルキル化剤に分類される抗がん剤の中で、最も代表的な薬剤です。他には、イホマイド(一般名イホスファミド)、ダカルバジン(一般名ダカルバジン)、アルケラン(一般名メルファラン)、ニドラン(一般名ニムスチン)などがこの種の抗がん剤になります。

エンドキサンは、悪性リンパ腫に対する治療薬として開発されましたが、現在その他に乳がん、肺がん、卵巣がんなど、様々ながんに対して適応があります(右表参照)。また、抗がん作用だけでなく、免疫抑制作用も持っており、膠原病などの治療にも使われています。

乳がん、悪性リンパ腫に対する多剤併用療法

エンドキサンは、比較的抗がん作用の弱い薬であるため、通常は他の抗がん剤との併用で使われます。古くから様々な種類のがんに用いられてきましたが、現在では、とくに乳がんや悪性リンパ腫などの抗がん剤治療で、エンドキサンを含んだ多剤併用療法が多く行われています。

乳がんでは、術前・術後の補助療法として用いられている他、手術のできない進行・再発がんのケースで、ホルモン受容体が陰性の患者さんに対して、第1選択の抗がん剤治療となっています。CMF療法(エンドキサン+メソトレキセート=一般名メトトレキサート+5-FU=一般名フルオロウラシル)、CAF療法(エンドキサン+アドリアシン=一般名ドキソルビシン+5-FU)がその代表ですが、エンドキサンを含んだ組み合わせには、他にCEF療法、AC→T療法、AC療法、EC療法なども多様されています。

悪性リンパ腫は、抗がん剤治療で完治する可能性のある数少ないがんの1つです。非ホジキンリンパ腫では、代表的な治療としてCHOP療法(アドリアマイシン+エンドキサン+オンコビン=一般名ビンクリスチン+プレドニゾロン=一般名プレドニン)が行われています。

またこの内、B細胞ががん化したタイプのものに対しては、現在、CHOP療法に分子標的薬のリツキサン(一般名リツキシマブ)を加えたR-CHOP療法が高い効果をあげており、この種類の悪性リンパ腫の標準的な治療になっています。その他、再発症例の救援療法として、EPOCH療法やCHASE療法なども行われています。

乳がんと悪性リンパ腫以外では、代表的なものとして、卵巣がんに対する、ブリプラチンまたはランダ(一般名シスプラチン)と組み合わせたCP療法や、小細胞肺がんの再発例に対するアドリアシンとオンコビンと組み合わせた3剤併用療法が行われています。

CEF療法=エンドキサン、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)、5-FU
AC→T療法=アドリアシン、エンドキサン、タキソテール(一般名ドセタキセル)
AC療法=アドリアシン+エンドキサン
EC療法=ファルモルビシン(一般名エピルビシン)+エンドキサン
EPOCH療法=エンドキサン+オンコビン+ラステット(一般名エトポシド)+アドリアシン+プレドニゾロン
CHASE療法=エンドキサン+ラステット、キロサイド(一般名シタラビン)+デカドロン(一般名デキサメタゾン)

副作用と投与上の注意点、発がんリスクも

エンドキサンは、抗がん剤の中でも、比較的副作用が出ることの多い薬剤で、代表的なものは、脱毛、吐き気や嘔吐、発疹、白血球減少などがあります。

他に、重篤な副作用として、骨髄抑制や、排尿痛や血尿を伴う出血性膀胱炎が起こることがあります。出血性膀胱炎は、エンドキサンが尿中に排出される際、膀胱内に刺激を与える物質に変化することが原因で、尿を長時間ためておくと炎症が起こりやすくなるため、この副作用の予防として、水分を多くとり、頻繁に排尿をするといった対策をとります。最近ではメスナという薬で予防することもできます。

また、胎児に奇形を生じる可能性が動物実験などで示されているため、妊娠している、もしくは妊娠している可能性のある場合や、授乳中の患者さんには使用すべきではないとされています。これらに当てはまる場合は、事前に主治医に伝えておく必要があります。

本来は、がんを抑える作用のある抗がん剤ですが、エンドキサンには、同時に、新たながんをつくる発がんリスクとなる可能性も指摘されています。長期投与した患者に急性白血病、骨髄異形成症候群、膀胱がん、悪性リンパ腫、腎盂・尿管がんなどが発生したとの報告があります。現在このような2次がんについては研究が進められているところですが、抗がん剤治療終了後も、この点に注意した経過観察が必要です。


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