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患者のためのがんの薬事典

カンプト/トポテシン(一般名:イリノテカン)
多剤併用化学療法における標準的選択薬。多くの処方組立てで重要な役割を果たす

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
文:水田吉彦
発行:2006年2月
更新:2019年7月

  
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イリノテカン(注射剤)が国内外で承認され、10年以上が経過しました。その間に、イリノテカンを含む多くのレジメン(複数の抗がん剤による処方組立て)が検討され、現在では多剤併用療法に欠かせない「主役級の名脇役」になっています。とくに、大腸がんや肺がんの標準治療において、重要な役割を果たしています。効果がある反面、副作用も強いイリノテカンについて、最近の位置付けを解説します。

強力な作用でDNAを切断する

中国の雲南省では、ヌマミズキ科の旱蓮木が街路樹として植えられています。別名を喜樹とも言うその木の根から、アルカロイド成分であるカンプトテシンが発見されました。これを化学的に合成したものが、抗がん剤のイリノテカン(略号CPT-11)です。イリノテカンは、細胞の中にあるDNAを切断することで、細胞が分裂増殖するのを阻害します。作用機序の面からは、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)と同じトポイソメラーゼ阻害剤に分類されます。この種の抗がん剤は、がんを強力に攻撃するのと同時に、正常な細胞までも傷つけてしまうことから、重篤な副作用が目立ちます。そこで、作用機序の異なる他の抗がん剤と組み合わせることで、投与量を少なく抑えながら副作用を軽減し、効果はむしろ高まるといった使い方が考案されています。その結果、イリノテカンは単独でも使用可能ですが、現在では多剤併用療法の中に組み込まれることのほうが多くなっています。

国内で承認されているイリノテカンの効能・効果(表1)の中でも、大腸がんと肺がんにおける役割が特に重要視されています。よって、本稿ではそれらに対する治療成績を解説し、他のがん種については要点を列挙するに留めます。

■表1.効能・効果および臨床成績の概略
効果・効能 臨床成績
小細胞肺がん
非小細胞肺がん
本文参照のこと
結腸・直腸がん 本文参照のこと
胃がん  国 内 : 再発・進行例に対する奏効率は単独投与にて18.4%、シスプラチンとの併用で47.7%。一方、TS-1との併用で52.6%の奏効率が得られ、同併用とTS-1単独投与を比較する第3相治験が進行中
子宮頸がん卵巣がん  国 内 : 再発・進行例に対する単独投与の奏効率は、子宮頸がん19.7%、卵巣がん19.1%
 米 国 : 白金製剤が効かなくなった転移後の卵巣がんに対して、単独投与の奏効率は17.2%
乳がん  国 内 : 単独投与における奏効率は20%
 米 国 : 同奏効率は14~23%
悪性リンパ腫  国 内 : 再発例に対する単独投与の奏効率は35.1%

(奏効率:腫瘍が「縮小」または「消失」といった効果の得られた患者の割合(上記数字には「不変」含む))
:適応は「手術不能」または「再発」例に限られる)

進行・再発大腸がんに対する処方組立て

大腸がんの化学療法は、1990年代の前半まで5-FUだけの時代が続きました。しかし、イリノテカンやオキサリプラチンが登場し、それらとの併用療法が考案されるにつれ、治療成績は大きく向上しました。現在、5-FUはロイコボリン(一般名ロイコボリンカルシウム)と一緒に使うことが多く、更にイリノテカンを併用する「IFL」や「FOLFIRI」といった組立てが有名になりつつあります。

ともに5-FU+ロイコボリン+イリノテカンの3剤併用であり、考案された当初は進行・再発大腸がんで効果が試されました。その結果、これらの組立てでは5-FU+ロイコボリンの2剤併用に比べて奏効率が2倍(約40パーセント)に改善され、生存期間も2~3カ月間は延長しました。そうしたことを反映して、欧米では再発後の初回標準療法としてFOLFIRIなどが広く受け入れられています。但し、副作用が強いこと、3剤の投与スケジュールが複雑であることなどから、熟練した医師のもとで投与される必要があります。

IFL=5-FUの急速注入+ロイコボリン+イリノテカン
FOLFIRI=5-FUの持続注入+ロイコボリン+イリノテカン

大腸がんの術後補助化学療法

手術後の一定期間に渡って抗がん剤を投与する「術後補助化学療法」は、顕微鏡レベルで残存するがん細胞を死滅させ、再発率を低下させるのに役立ちます。従来、大腸がんの術後補助化学療法には、5-FUとロイコボリンを組み合わせた2剤併用の半年間投与が主でしたが、欧米ではFOLFIRIなどの3剤併用の療法も検討され、良好な臨床成績を得ています。   

例えば今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、結腸がんに対する術後補助化学療法として、5-FU+ロイコボリンとFOLFIRI療法が比較され、イリノテカンを含むFOLFIRIのほうが「3年間の無再発生存率」において優れるとの結果が報告されました。ただし、国内では術後補助化学療法としての保険適用がFOLFIRIにはありません。副作用や煩雑な投与スケジュールなどの問題もあるため、今後の一般化は難しいように思われます。

肺がんにおける位置付けなど

肺がんは、全体の約8割を占める非小細胞肺がんと、小細胞肺がんに区別できます。その双方において、イリノテカンを含む多剤併用が標準治療に位置づけられています。

非小細胞肺がんで初めての化学療法を行う際には、イリノテカン、タキソール、タキソテール、ジェムザール、ナベルビンのうちのどれか1つと、ブリプラチンまたはランダを組み合わせる2剤併用療法が主に用いられます(但し、非小細胞肺がんの化学療法は全般的に成績が良くない)。

一方、小細胞肺がん(とくに進展型)についても、イリノテカンとシスプラチンの併用療法(IP療法)が試験され、奏効率84パーセントといった良好な成績が得られており、目下の標準治療とされています。しかしながら、イリノテカンを含む組立ては肺がんや大腸がんを問わず副作用が強いことから、全身状態の良好な患者さんに限って投与されます。

副作用の中では、とくに骨髄抑制(血球などが作られなくなること)と下痢(投与当日に起こる下痢と、1~2週間後に起こる下痢の2種類がある)が重篤であり、注意を要します。それら副作用の頻度は、白血球減少73パーセント、好中球減少60パーセント、貧血57パーセント、血小板減少27パーセントであり、下痢は44パーセントに認められます。従って、表2に示す患者さんでは原則投与しないこととされています。

タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(ドセタキセル)、ジェムザール(ゲムシタビン)、ナベルビン(ビノレルビン)、ブリプラチン、ランダ(シスプラチン)

■表2.警告(原則投与しない患者 ~添付文書より~)
1)骨髄機能抑制のある者
2)感染症を合併する者
3)下痢(水様便)のある者
4)腸管麻痺、腸閉塞のある者
5)間質性肺炎または肺線維症の者
6)多量の腹水、胸水のある者
7)黄疸のある者
8)アタナザビル(抗ウイルス薬、商品名レイアタッツ)投与中の者
9)イリノテカンに過敏症の者


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