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患者のためのがんの薬事典

アービタックス/エルビタックス(一般名:セツキシマブ)
最近話題の『分子標的薬』。イリノテカンで効果のなかった進行性大腸がんに、最後の砦としての期待

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
文:水田吉彦
発行:2005年12月
更新:2014年2月

  
エルビタックス

従来の抗がん剤には、正常な細胞にもダメージを与えてしまう欠点がありました。理由は簡単です。がん細胞と正常な細胞を、区別なく攻撃するように作られていたからです。しかし、最近、がん細胞の増殖メカニズムのみを攻撃し、正常細胞には害の少ない薬剤が開発されています。それが『分子標的薬』であり、優れた効果と少ない副作用が利点とされています。今回は、分子標的薬剤の大筋をご理解いただき、その上でエルビタックスが、どのようにがん細胞を攻撃するのか説明しましょう。

私たちの体を作る細胞は、必要に応じて増殖し、役目を終えると死滅します。そうした細胞の増殖と死滅は、主に遺伝子によってコントロールされますが、遺伝子に傷(突然変異)などが生じるとコントロールできなくなり、無秩序な細胞増殖を起こしたりします。これが、いわゆる『腫瘍化』と呼ばれる現象であり、なかでも生命を脅かすような腫瘍を、とくに『がん』と呼んで区別します。

正常な臓器や組織では、新しく細胞が増えた分だけ古いものが死滅し、全体として細胞の数が増えすぎないように調節されています。一方、がん組織では細胞が活発に増殖し、なかなか死滅しないことから、全体として大きく成長を続けます。なぜ、がん細胞はそれほど活発に増殖できるのか?なぜ、自分から死滅しようとはしないのか?それが学者の疑問であり、研究テーマでした。最近の研究で、それらが徐々に明らかにされました。とくに、がん細胞の増殖メカニズムは詳しく調べられ、分子のレベルで幾つもの発見があったのです。その結果、分子レベルの増殖メカニズムに的を絞って攻撃をしかける新しい抗がん剤(分子標的薬)が、次々と開発されました。

エルビタックスも、そうした分子標的薬の1つであり、進行性大腸がんを中心に国内で臨床治験が進められている最中です。

EGFRを標的にするモノクローナル抗体薬剤

エルビタックスが攻撃を仕掛ける標的は、がん細胞の表面に顔を出している上皮増殖因子受容体(以下EGFR)と呼ばれるタンパク質です。このEGFRは、簡単にいえばアンテナの役目をしており、体内に漂う『細胞よ、増えろ!』といった命令物質をキャッチしては、がん細胞自身に増殖の指示を与えているものなのです。

大腸がんでは、約60~80パーセントの患者さんで、がん細胞の表面に沢山のEGFRが顔を出しています。このEGFRが多いほど、がんの悪性度は高く、転移しやすいとも言われます。そこで、このアンテナにフタをして、がん細胞の増殖を止めてしまおうと考えられたのがエルビタックスです。 

エルビタックスは、EGFRだけを選んで結合する抗体(タンパク質の1種)です。最先端の遺伝子工学を駆使して作られた特殊な抗体であり、学者はそれを『モノクローナル抗体』と呼んでいます。モノクローナルとは、「特定の物質だけに結合する抗体を選び抜き、人工的に作り上げたもの」といった意味合いです。エルビタックスはEGFRに取り付いて、そのアンテナとしての働きを停止させます。その結果、がん細胞は増殖しなくなるといった仕組みです。 では、実際の効果のほどは如何でしょうか。欧米で行われた大腸がん(結腸および直腸がん)の臨床治験をみてみましょう。

 

■エルビタックスの概要
医薬品名称 セツキシマブ(欧米での販売名1エルビタックス)
概    要 上皮成長因子受容体(EGFR)に対するモノクローナル抗体
剤    型 注射剤
対    象 疾患大腸がん(結腸・直腸がん)
外国承認状況(米国の例) イリノテカンに不応または耐容不能でEGFR陽性の転移性結腸・直腸がん(2004年2月にFDA承認)
用法・用量 イリノテカンとの併用にて、350mg/m2を3週間ごと。他

進行性大腸がんの臨床成績

2004年に海外の医学誌で発表された、第2相・多施設共同試験の結果を紹介します。この試験には、転移性・進行性の大腸がんをイリノテカンで治療したけれど、途中で効かなくなった218名が参加しました。

■「エルビタックス十イリノテカン併用」と「エルビタックス単独」の比較
「エルビタックス十イリノテカン併用」と「エルビタックス単独」の比較
文中の第2相・多施設共同試験では、エルビタックス単独での効果も
111名の患者で確かめられていた。併用療法と単独療法を比較すると、
併用療法のほうがより多くの患者に効果を発揮していることがわかる

それらの患者には、イリノテカンをそのまま使いながら、エルビタックスを上乗せするといった“併用療法”が行われました。イリノテカンは、転移性大腸がんの有効な治療薬の1つとされており、それが効かなくなった人たちには、次の選択肢があまり残されていません。そこで、エルビタックスが上乗せされた次第です。

結果は、投与を受けた23パーセント(218名中50人)の人たちで、がんが縮小する傾向にありました。その他の33パーセント(218名中71人)の人たちでは、がんが大きくなるのを阻止できました。218名の全体を平均すると、がんが悪くなることに歯止めを掛けられた期間は4.1カ月でした。この併用療法を行いながらの平均余命は、8.6カ月でした。

繰り返しますが、かなり進行した状態の人たちで試験しましたから、ここに示す併用効果は相当に良い成績だと考えられます。初発で早期の大腸がんには、効果の高い抗がん剤が幾つかあります。はじめて再発した際にも、やはり効果の期待できる抗がん剤があります。しかし、再発した大腸がんで従来の薬が効かなくなると、その後の打ち手がなかなか見つかりません。そんなときに、エルビタックスの出番となるのかも知れません。大変に高価な薬ですが、進行した大腸がんに対する『最後の砦』として、米国ではイリノテカン+エルビタックスの併用療法が既に認可されています。

ちなみに、併用療法で生じた副作用には軽微なものが多く、イリノテカンの副作用をエルビタックスが増強する感じではありませんでした。主だった副作用は、呼吸困難、にきび様の皮疹、皮膚乾燥、亀裂などが特徴的で、その他は抗がん剤で一般的にみられる副作用でした。


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