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患者のためのがんの薬事典

ティーエスワン/TS-1(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)
効果の増強と、副作用軽減を同時に狙った経口抗がん剤

監修:畠清彦 癌研有明病院化学療法科部長
文:水田吉彦
発行:2005年8月
更新:2019年7月

  
ts-1

抗がん剤治療は、効果が高く・副作用の少ないことが理想です。そこで考案されたのがTS-1。消化器がんに使われる5-FUを土台に、いろいろな工夫がほどこされています。わが国における進行再発胃がんの治療において、約8割の医師が第1選択薬として使用しています。

消化器がんの治療に用いる抗がん剤と言えば、その代表格は5-FU(一般名フルオロウラシル)です。TS-1は、新しく物質を作った訳でなく、その5-FUに“3つの工夫”を加えた経口抗がん剤です。

『1つ目の工夫』は、“プロドラッグ化”と呼ばれる手法です。この方法では、5-FUの元となる薬剤を投与し、それが体の中で5-FUへ変化するように考えられています。こうすることで5-FUが長時間、体内に存在できます。TS-1に含まれる5-FUのプロドラッグは、テガフールと呼ばれるものです。

『2つ目の工夫』は、“分解阻害剤の配合”です。5-FUをさらに長時間、体内に存在させるために、5-FUが分解されるのを防ぐ薬剤(ギメラシル)がTS-1には加えられています。このギメラシルが、結果として5-FUの効果を高めています。

『最後の工夫』は、“副作用を軽減する薬剤の配合”です。5-FUでは、下痢などの消化器症状が多くみられました。そうした障害を少しでも減らそうとする薬剤(オテラシルカリウム)が、TS-1には添加されています。

このような3つの工夫によって、患者は外来で治療が受けられる上、抗がん剤治療をうまく継続することができるのです。延命効果に期待しながら、QOL(生活の質)を落とさない治療ができるのではないかと、医師の間で考えられています。

臨床試験での成績

TS-1の効能・効果、および用法・用量は図表に示す通りです。

■TS-1の効能・効果など
効能・効果(2005年7月現在)
胃がん、結腸・直腸がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん
効能・効果に関連する使用上の注意
1)非小細胞肺がんにおけるTS-1単剤での使用については、有効性及び安全性は確立していない。
2)術後補助化学療法として、TS-1の有効性及び安全性は確認されていない。
現在、臨床試験が進行中のがん種
子宮頸がん(単独療法)、乳がん(単独療法)

まず、TS-1を“単独”で用いた際の、臨床試験成績を示します。他の抗がん剤で治療したにも関わらず進行してしまったか、もしくは再発してしまった胃がん患者では、129人中60人(47パーセント)に、がんの縮小効果がありました。同様な結腸・直腸がんの患者では、129人中42人(33パーセント)に縮小効果がありました。同じく頭や首にがんのできた患者(頭頸部がん)においては、85人中29人(34パーセント)に縮小効果がありました。

次に、TS-1とシスプラチン(白金製剤。商品名ブリプラチン、ランダ)を“併用投与”した場合ですが、初めて抗がん剤治療を行う非小細胞肺がんの患者で、55人中26人(48パーセント)に効果がありました。

ちなみに、TS-1の標準的な服用方法ですが、体の面積から基準となる投与量を決め、朝・夕食後の1日2回、28日間連日服用して、その後14日間休薬します。これを1クールとして、必要なだけ繰り返します。患者の体調や、副作用の状態によっては、14日間服用・7日間休薬などの、異なるサイクルもあります。

■TS-1の投与スケジュール
TS-1の投与スケジュール

また、空腹時の服用では、オテラシルカリウムが吸収されないので、効果が弱くなってしまいます。副作用で食欲がない場合でも、少量で構いませんから食事をした後に、服用するほうがよいでしょう。

服用上の注意が必要

TS-1を投与すると、血液中の5-FUが高い濃度で維持されます。すると、がんに効果のある反面、困ったことも起こります。がん細胞だけでなく、正常な細胞にも高い濃度の5-FUが攻撃をしかけますから、その攻撃に弱い骨髄などがやられてしまうのです。骨髄は、人間が生きていくために不可欠な血液成分などをつくっていますが、5-FUはその仕組みを壊してしまう可能性があります。TS-1を投与した場合、従来の経口抗がん剤では見られなかった高い頻度で、骨髄の障害にまつわる副作用(骨髄抑制)を示すことがわかっています。

具体的には、白血球が減少して感染しやすくなったり、血小板が減少して出血が止まらなくなったりします。もし、TS-1を飲んでいて倦怠感、発熱、咳、口内炎などが起こりましたら、それは白血球の減少によるものかも知れません。また、歯茎の出血、青あざ、鼻血などが出た場合には、血小板の減少による症状かも知れません。その際には、直ちに担当医に連絡することが大切です。

また、一緒に使うと5-FUの血液中の濃度がとても高くなり、副作用の強く現れる薬があります。それは、他の5-FU系の抗がん剤であったり、あるいは抗真菌薬などです。他の5-FU系の抗がん剤を、参考までに列挙しますと、5-FU、UFT、*フトラフール、*フルツロン、*ミフロール、*ヤマフール、*ゼローダなどがあります。

抗真菌薬としては、アンコチル、*ドメラジン、*アルシトシン、*ココールなどが該当します。これらの薬はTS-1と一緒に使えませんから、TS-1で治療を始めるにあたっては、現在服用中の薬を全て担当医に見せて、一緒に服用しても問題がないかを確認してもらうことが大切です。

ちなみに、他の5-FU系の抗がん剤からTS-1に変更する場合や、またはその逆を行う場合には、最低でも7日間の休薬が必要とされています。

UFT(一般名テガフール・ウラシル)、*フトラフール(テガフール)、*フルツロン(ドキシフルリジン)、*ミフロール(カルモフール)、*ヤマフール(テガフール)、*ゼローダ(カペシタビン)
アンコチル、*ドメラジン、*アルシトシン、*ココール(全て一般名フルシトシン)


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