• rate
  • rate
  • rate

患者のためのがんの薬事典

ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)
単剤、併用療法で転移性乳がんの進行を抑える


発行:2004年12月
更新:2019年7月

  

ハーセプチンは転移性乳がんに有効な画期的な薬です。
乳がん細胞に「手錠」をかけ、がん細胞を兵糧攻めにして増殖を抑えるような働きをします。
ただしハーセプチンの治療はHER2というタンパク質が陽性の患者さんに限られます。

HER2陽性の転移性乳がんで腫瘍縮小効果が認められた薬

ハーセプチンは分子標的治療薬として、日本で最も早く製造販売が認可された薬剤です。

通常乳がん細胞の進行はとても遅く、直径1センチになるのに10年くらいかかりますが、中には増殖のスピードが早い細胞があります。研究の結果、その細胞は表面に「HER2タンパク」という受容体を持っていることが判明しました。パーセプチンはこのHER2にくっつくことで、がん細胞の増殖を抑える働きがあります。

乳がんだけでなく卵巣がん、肺がん、胃がんなどにHER2を持ったがん細胞があることが報告されていますが、とくに乳がんにおいて、予後を決定する因子の一つと考えられています。日本では、転移性乳がんでHER2の過剰発現が認められた患者さんにのみ、適応が認められています。したがって、手術をした後、もしくは手術をする前で、すでにもう転移がわかっている症例しか対象になっていません。

HER2が陽性かどうかは、検査をすればわかります。代表的な検査法は、タンパクの量を調べる方法(IHC法)とタンパクを作るもととなる遺伝子の量を調べる方法(FISH法)です。採取したがん細胞を調べ、HER2タンパクがほとんどない人(0)からたくさんある人(3+)まで分類し、強陽性の3+の人あるいはHER2遺伝子の量が多い人はハーセプチンの治療対象になります。全乳がんの20~30パーセントがHER2陽性です。

これまでHER2陽性の患者さんのがんは、増殖の進行が早く、従来の抗がん剤も効きにくかったため治療が困難でした。しかしハーセプチンにより増殖を抑えることができるようになったため、延命効果も期待できるようになりました。

単独および併用療法で腫瘍縮小効果がある

ハーセプチンは、HER2陽性の転移性乳がんの標準治療薬です。単独で使用する場合も効果がありますが、症状が強いときやハーセプチン単独で効果が弱いときには他の抗がん剤と併用します。

HER2陽性の転移性乳がんに対して、ハーセプチン+AC(アドリアシン+エンドキサン)、ハーセプチン+タキソール(一般名パクリキセル)、AC、タキソールの4群無作為化比較試験が行われた結果、ハーセプチンを併用したほうが腫瘍縮小効果および生存期間の延長が認められました。

現在、術後補助療法にハーセプチンを組み入れた臨床試験や、術前補助療法にハーセプチンを組み入れた臨床試験が数多く行われています。

2004年6月に開催された米国臨床腫瘍学会では、MDアンダーソンがんセンターで行われたハーセプチンのランダム化比較試験の結果が発表されました。乳がんの手術前にHER2陽性の患者を2群に分け、一方はタキソールとアントラサイクリン系抗がん剤FECを連続して投与し、他方は同じ抗がん剤にハーセプチンを併用投与した結果、併用群の患者の約70パーセントで乳がんが完全消失するという劇的な効果があったと報告されています。

ハーセプチンとアントラサイクリン系の抗がん剤を併用した場合心毒性が懸念されますが、心不全の発生は1例もみられませんでした。今後、ハーセプチンの標準治療が変わる可能性は十分あります。

FEC療法=5-FU、ファルモルビシン、エンドキサンの3剤併用療法

出やすい副作用は発熱と悪寒

ハーセプチンは通常1日1回、初回投与時には体重1キログラム体表面積1平方メートル当たり4ミリグラム、2回目以降は体重1キログラム当たり2ミリグラムを90分以上かけて、1週間間隔で点滴による静脈注射を行います。

最も現れやすい副作用は発熱と悪寒で、いずれも3人に1人くらいに出ます。頭痛、倦怠感なども出る場合もありますが、これらの副作用は初回の投与のときのみで、2回目以降はなくなることが多いようです。ハーセプチン単独投与の場合、骨髄抑制による白血球減少、脱毛はほとんどありません。

頻度は少ないですが、重篤なものとして、心臓機能の低下や呼吸器の障害が出ることがあります。したがって、投与前には心臓の機能を調べ、投与中も定期的に心機能のチェックをする必要があります。

ハーセプチンとタキサン系の抗がん剤を併用した場合の副作用は、白血球の減少、脱毛、吐き気、嘔吐、倦怠感、発熱などです。白血球の減少は、ほとんどの人に点滴後1週間くらいで出始めますが、自覚症状はありません。脱毛は点滴後3週間ぐらいで、ほとんどの方に起こります。吐き気や嘔吐、倦怠感は半数くらいの方が経験されます。また、タキサン系の抗がん剤を4~5回くらい投与したときに、手足のしびれやむくみが出る場合があります。主にしびれはタキソール、むくみはタキソテール(一般名ドセタキセル)で出ます。

投薬中の日常生活の注意

食事は栄養になるものをきちんと食べましょう。吐き気や嘔吐があるときは、アイスクリーム、ゼリーやプリンなど、冷たくて口当たりのいいものが食べやすいようです。食欲が出なければ無理をして食べる必要はありませんが、水分はとるようにしてください。軽い運動は気分転換にもなるので積極的に行ったほうがよいでしょう。

タキサン系の抗がん剤を併用した場合、普段はかからないような感染症にかかりやすくなります。38.5度以上の熱が3日以上続くようでしたら、担当医に相談しましょう。投薬中は人混みを避ける、手や身体を清潔に保つ、小さな傷でもすぐに消毒するなど、普段より少し気をつけてください。

■ハーセプチンの副作用
一般的に起こりうる副作用(軽度~中程度)
●発熱、悪寒
それほど一般的でない副作用(軽度~中程度)
●吐き気、嘔吐、疼痛、頭痛、めまい、発疹、無気力症など
まれに起こる可能性のある副作用
●心障害、アナフィラキシー様症状、肺障害、肝障害、腎障害など

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!