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患者のためのがんの薬事典

ゼローダ(一般名:カペシタビン)
転移・再発乳がんの3次化学療法に用いられる

監修:佐々木康綱 埼玉医科大学臨床腫瘍科教授
文:荒川直樹
発行:2004年6月
更新:2014年2月

  

ゼローダは体内に入ると肝臓や腫瘍内で代謝され 抗がん効果を持つ5-FUになるように工夫された薬です。 がん組織中に多く含まれるサイミジンフォスフォリラーゼという酵素により 5-FUに変換されるため、腫瘍内で高い5-FU濃度を維持し、 これまで有効な薬剤がなかった進行がんの治療への応用が期待されています。 既に有効性が証明されているのは転移・再発した乳がんと大腸がんに対してです。

体内で5-FUに変わり、がん細胞の増殖を抑える

5-FU(一般名フルオロウラシル)は、古くからある抗がん剤のひとつで、がん細胞のDNA合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤です。ゼローダの有効成分カペシタビンは、体内に入ると肝臓や腫瘍内で代謝され5-FUに変わります。つまりゼローダそのものには抗がん効果はなく、体内で5-FUに変換されて初めて抗がん薬として作用します。こうした薬剤のことを専門家はマスクドコンパウンドと呼んでいます。

マスクドコンパウンドの利点は、5-FUを直接服用するより、下痢や嘔吐などの副作用を少なくすることができる点と、腫瘍内での薬剤の濃度を高めることができる点です。

なお、ゼローダが代謝される途中でできる中間代謝産物にはゼローダと同様に5-FUのマスクドコンパウンドであるフルツロン(一般名ドキシフルリジン)があります。フルツロンはすでに抗がん薬として用いられていますが、基礎研究では、フルツロンを決められた用法用量で服用したときよりも、ゼローダを服用したときのほうが、血液中のフルツロン濃度やその持続時間も長いことが分かっています。そのため、フルツロンが有効ながんでは、さらに効果を増強することが期待されたり、有効性が十分に証明されなかったがんでも、抗腫瘍効果が認められます。現在、欧米でも、有用な抗がん剤のひとつとして積極的に臨床試験が実施されています。

標準治療が無効後に残された選択肢

ゼローダは2003年の6月に薬価収載された新薬です。現在用いられるのは、すでに転移がある乳がんと、手術後再発した乳がんです。

こうした乳がんの標準的な治療は、まずアントラサイクリン系抗がん剤による併用療法があります(1次治療)。これで効果が現れない場合には、タキサン系抗がん剤が単剤または併用で用いられます(2次治療)。しかし、これまで、これらの標準的化学療法で奏効しなかった場合には、もう新たに施す治療法がありませんでした。

そこに新たに加わったのがゼローダです。アメリカで行われたゼローダの初期の臨床試験では、従来の標準治療薬剤で、すでに治療したものの効果が得られなくなった患者にゼローダが投与されました。それでも患者の20パーセントで明らかに腫瘍が縮小、43パーセントで症状が安定するという結果がでています。ゼローダの治療によりどれだけの延命効果があるかまでは証明されていませんが、転移・再発乳がんの3次治療として明確な腫瘍縮小効果が証明されたのです。

さらに、2次治療薬としてタキソテールと併用した場合、タキソテール単剤の使用と比較してさらに延命をもたらすことも証明されました。

そして、日本で行われたゼローダの臨床試験においては、タキソールによる治療がすでに無効であった患者55名のうち20パーセントにあたる11例で腫瘍が縮小するという結果が認められ、アメリカでの臨床試験の結果が裏付けられました。

副作用に十分注意し、慎重に治療を行う

ゼローダは飲み薬です。体表面積に応じて1日1800~3000ミリグラムを21日間使い、その後7日間休薬するのが1コースです。

この用法用量は、新しい抗がん剤では一般的になった最大耐用投与量の原則で決められています。同系の薬剤であるフルツロンは副作用が問題にならない量で使用されていたのに対して、ゼローダの使用量は体が耐えられる範囲で最大の有効性が期待されるように設定されているのです。ですからゼローダによる治療は、抗がん剤治療に詳しい医師の管理の元に行う必要があります。最初は入院して治療することもあるでしょう。

主な副作用は下表に示しましたが、最も注意すべき副作用は手足症候群と呼ばれるものです。これは、手足の先や爪などが赤くなったり、色素沈着を起こしたりするものです。ときには腫れて痛くなったり、水ぶくれ状態(水疱)になったり、知覚過敏が起こることがあります。こうしたときは医師の指導によって、休薬するか、薬の量を減らしたり皮膚科の治療を受けたりすることが必要になります。

さて、ゼローダは転移・再発乳がんの治療に新しい可能性をもたらす薬剤のひとつといえます。しかし、まだ開発されたばかりの薬剤ですので、慎重な使われ方が必要です。

現在、臨床応用が進んだアメリカでは、アントラサイクリン系抗がん剤で治療した後の2次治療としてタキサン系抗がん剤であるタキソールとゼローダを順番に用いるか、両者を併用するのが標準治療になりつつあります。しかし、日本国内では、まず転移・再発乳がんのうちアントラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤で効果が得られなかった場合の3次治療から用いられています。

こうした臨床経験を積みながら研究レベルで術後再発予防などへの適用が検討されているのです。他の臓器のがんにも期待され、臨床研究がスタートしています。

■ゼローダの主な副作用
もっとも一般的な副作用
・下痢
・悪心
・嘔吐
・口や唇のただれ
・手足のしびれ、痛み
・手足の皮膚の赤み、発疹、乾燥
・感染するリスクの増加を伴う白血球の減少
・出血するリスクの増加を伴う血小板の減少
・疲労のリスクの増加を伴う赤血球の減少
・皮膚の炎症
それほど一般的でない副作用
・腹痛
・便秘
・食後の胸焼け
・発熱
・手足のちくちくした感じ
・頭痛
・めまい
・不眠
・目の炎症
・血液テストにおける肝機能の増加
まれな副作用
・足首の腫れ

くすりのメモ

商品名:ゼローダ
一般名:カペシタビン
発売元:中外製薬

どんながんに使われるのか:
現在、わが国で健康保険が適用されているのは、手術のできない乳がんと手術後再発した乳がんです。

使用法:
飲み薬です。体表面の大きさに応じて成分量900mg~1500mg(3錠~5錠)を朝食後と夕食後の2回服用します。21日間連続して服用し、7日間休薬するのを1コースとして、これを医師の指示にしたがって繰り返します。

治療費はどれぐらいか:
1回の投薬量900mgの薬価は約1200円、健康保険を利用した場合、1カ月の薬剤費は1万5000円前後の自己負担になります。


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