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患者のためのがんの薬事典

タキソテール(一般名:ドセタキセル)
乳がんや肺がんの二次治療にも効果が証明されたタキサン系抗がん剤

監修:佐々木康綱 埼玉医科大学臨床腫瘍科教授
文:荒川直樹
発行:2004年5月
更新:2019年7月

  

イチイの樹皮成分から見つかったタキサン系抗がん剤。 乳がんの化学療法の標準的な治療薬の一つですが、 国際的な臨床試験で肺がん、胃がん、食道がん、頭頸部がんなど さまざまながんへの有効性が証明されています。

多種類のがんに有効なタキサン系の薬剤

タキソテール(一般名ドセタキセル)は、前号で紹介したタキソール(一般名パクリタキセル)と同じタキサン系の抗がん剤です。タキサン系抗がん剤の作用メカニズムは、細胞の分裂に必要な*微小管(チューブリン)の働きを阻害し、がん細胞の分裂を防ぎ、最終的にがん細胞の死滅につながると考えられています。

タキソテールは、従来の抗がん剤とは作用する場所や作用のしかたが異なるので、他の抗がん剤が効かなくなったがんにも有効なうえ、併用による相乗効果が期待できます。現在、転移・再発乳がんの化学療法や進行した肺がんの化学療法では、標準的な薬剤の一つになっています。

なお、タキソテールとタキソールは、同じタキサン系の薬剤ですが、抗がんスペクトラム(有効性を示すがん細胞の範囲)が多少異なるほか、副作用の性質にも違いがあります。またタキソテールのほうが価格が安く、同じ効果が期待できる場合は、患者の負担を考慮してタキソテールを使う場合もあります。

*微小管=タンパク質からなるミクロの管。細胞の骨格や運動などに関わる

乳がん・肺がんの二次治療の有効性が証明

タキサン系の薬剤が最初に認められたのは卵巣がんです。タキソールとブリプラチン(一般名シスプラチン)の併用によって、進行卵巣がん患者の生存期間が従来の治療法と比較して1.5倍に伸びたという報告がありますが、タキソテールにおいても抗がん剤治療の経験のない進行卵巣がん患者1077名の臨床試験でシスプラチンとの併用療法の有効性が証明されています。

タキソテールは、乳がんにおいては化学療法の中心的役割を果たしています。とくに、リンパ節に転移していると考えられる乳がんの手術後の再発や転移を防ぐために術後の化学療法に使われています。AC(アドリアシン+エンドキサン)の後にタキソテールの治療を行うと、AC単独治療群よりも手術後生存率が有意に改善することが認められています。さらに、2003年に発表された1491名の臨床試験では、リンパ節の転移度の低い早期乳がんにおいてもこの併用療法が有効であることが認められています。

前述のように、タキソテールとタキソールは、抗がんスペクトラムに違いがあります。タキソテールは、卵巣がん、乳がんのほか、進行非小細胞肺がん、頭頸部がん、進行胃がん、進行食道がんについても有効性が証明されています。とくに、タキソテールは非小細胞肺がんと乳がんにおいて、すでに他の治療を受けて無効だった患者の二次治療に対する延命効果が臨床試験で証明された唯一の薬剤となっています。

過敏症状やむくみに注意しながら慎重に治療

タキソテールは、点滴静注を行う注射剤です。使用方法は、患者の体表面積1平方メートルあたり有効成分ドセタキセル60ミリグラムまたは70ミリグラを1時間かけて点滴静注します。1回投与した後は3~4週間休薬します。

治療中の副作用の現われ方については、タキソールとの違いがあります。たとえば、投与後すぐ現われる過敏症状(アナフィラキシーショック)は、薬剤を溶かすための溶媒が異なるためタキソテールでは起こりにくいと考えられていますが、現実にはタキソテールを投与された患者さんにも出現することがあります。欧米ではタキソテールによる過敏症状が報告されているため、タキソテールにおいても治療前に抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンなどの前投薬が用いられています。

下の表にタキソテールの主な副作用を挙げましたが、タキソテールに特徴的な副作用はむくみ(浮腫)です。浮腫はタキソテールの投与量が蓄積されるにつれて発生頻度が高まることがわかっています。とくに海外では重い浮腫が報告されているので、胸水・腹水などがある患者には慎重な投与が必要です。それに対して、タキソールの治療の妨げになることのある、手や足に出現する神経症状(しびれ感など)は、タキソテールのほうが軽微であるとされています。またタキソールに特徴的な痛みを伴う筋肉の症状は、タキソテールでは見られません。

そのほか、白血球(顆粒球)の減少によって細菌感染などが起こりやすくなることも重要な副作用の一つです。投与して1~2週で現われ2週以後に回復するという経過をたどりますが、治療後にノドが痛くなって発熱が現われた場合には、すぐに医師に連絡することが重要です。

しかし、タキソテールによる白血球減少は一過性であり、減少後すみやかに回復するため外来での治療が可能となります。

タキソテールの有効性を確かめる臨床試験が積極的に続けられています。その一つが、すでにホルモン剤の治療が行われた前立腺がんへの効果です。現在のところ、こうした前立腺がんにはホルモン剤しか治療の手だてがないので、タキソテールが有効であれば治療の選択肢が増えることになります。

体表面積=体重と身長により計算した値

■タキソテールの主な副作用
もっとも一般的な副作用
・感染リスクの増加を伴う白血球の減少
・出血リスクの増加を伴う血小板の減少
・髪が薄くなるまたは抜ける
・足首や手のむくみ
・下痢
・食欲不振
・悪心・嘔吐
・発疹
・末梢神経の炎症またはダメージによる
 手足のしびれ及びうずき
それほど一般的でない副作用
・口や唇のただれ
・水分貯留による体重増加
・疲労
・筋肉痛
・間質性肺炎
まれな副作用
・深刻なアレルギー反応
・手足の赤み、腫れ及び痛み

くすりのメモ

商品名:タキソテール
成分名:ドセタキセル
発売元:アベンティス ファーマ

どんながんに使われるのか:
健康保険が適用されているのは、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、卵巣がん、頭頸部がん、食道がんです。

使用法:
点滴で用いる注射剤です。通常(成人)は、1日1回、体表面積1平方メートルあたり60mg(乳・非小細胞肺・胃・頭頸部がん)または70mg(卵巣・食道がん)を1時間かけて点滴。3~4週間間隔で投与します。

治療費はどれぐらいか:
1回の投薬量80mgの薬価は7万9910円です。健康保険を利用した場合、1回の薬剤費は3万円前後の自己負担になります(医療機関によって異なります。その他、再診料や検査費用などもかかります)。


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