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患者のためのがんの薬事典

タキソール(一般名:パクリタキセル)
乳がんや肺がんの治療に併用療法の有効性が認められた

監修:渡辺亨 国際医療福祉大学教授
文:荒川直樹
発行:2004年4月
更新:2019年7月

  

イチイの樹皮成分から見つかった抗がん剤です。 単独投与でも効果が認められていますが、 従来の抗がん剤との併用療法も行われており、 さまざまながんの治療に効果をあげはじめています。 乳がんの術後化学療法では標準的な治療法の一つになりました。

イチイの樹皮から見つかった有効成分

自然界の動植物や細菌が作り出す成分の研究が新しい抗がん剤の発見につながることがあります。1970年代、アメリカの国立がん研究所が中心になって行った探査プロジェクトの最大の成果は、イチイの樹皮成分から、タキソール(一般名パクリタキセル)が発見されたこと。タキソテール(一般名ドセタキセル)とともにタキサン系抗がん剤と呼ばれます。

タキソールが乳がんなどのがん治療に有効な薬剤であることは動物実験などですぐ分かりました。しかし、残念ながら有効成分がイチイにはごく微量しか含まれていなかったため、すぐには臨床応用することができませんでした。本格的な臨床研究が始まったのは、1990年代に入って、タキソールを人工的に合成する方法が明らかになってからのことです。しかし、使ってみるとタキソールが従来の抗がん剤にはない新しい特徴を持った医薬品であることが次々と分かってきたのです。

他の抗がん剤との併用効果を期待

タキソールは、体内に入ると細胞の骨格を形成する微小管という細胞内組織に結合します。これによって、細胞が分裂するときにできる紡錘糸が形成されるのを阻害するのです。

このようにタキソールは、従来の抗がん剤とは作用する場所が異なるので、他の抗がん剤が効かなくなったがんにも有効な上、併用による相乗効果が期待できます。そのため、さまざまながんの化学療法にタキソールを加えた併用療法が研究されています。

たとえば、最初にタキソールの効果が確かめられたのは卵巣がんです。アメリカでは、ブリプラチン(一般名シスプラチン)と呼ばれる抗がん剤と併用すると、従来の治療法に比べ、進行した卵巣がん患者の生存期間が1.5倍以上に延びることが分かりました。

そして、タキソールの有効性がとくに認められたのが乳がんの治療です。リンパ節に転移していると考えられる乳がんでは手術で腫瘍を切除した後の再発や転移を防ぐために術後の化学療法が行われます。その方法としては、これまでCMF(エンドキサン+メソトレキセート+5-FU)療法やAC(アドリアシン+エンドキサン)がよく知られていました。しかし、1998年にアメリカで発表された大規模な臨床試験の結果によると、AC療法の後にタキソールの治療を行うと、AC単独よりも手術後生存率が有意に改善することがわかったのです。そのことから、アメリカではAC+タキソール療法が標準的な治療法として認められています。日本でも、広く行われるようになってきました。

そのほか、進行した非小細胞肺がんの治療においても、従来のブリプラチン+ベプシド療法よりもブリプラチン+タキソール療法のほうが、患者のQOL(生活の質)が優れていたという報告が出るなど、さまざまながんでタキソールを加えた併用療法が研究されています。

微小管=チューブリンと呼ばれるタンパク質からなるミクロの管。細胞の骨格や運動などに関わる

過敏症状に注意しながら慎重に治療を行う

タキソールの使用方法は、患者の体表面積1平方メートルあたり有効成分パクリタキセル210ミリグラムを3時間かけて点滴静注します。1回投与した後は、少なくとも3週間休薬します。これが1サイクルの治療。再発した乳がんの場合には、より少ない量(80~100ミリグラム)を毎週1時間かけて投与する治療方法も有効です。

乳がんの術後化学療法に用いられるAC+タキソール療法というのは、やはり3週間で1サイクルのAC療法を4サイクル行った後、タキソール療法を4サイクル行います。合計で24週間ですので、ほぼ半年かけて行う治療です。

タキソールも他の抗がん剤と同様、副作用の発現に気を付けながら治療を行うことが重要です。タキソールではとくに注意すべき副作用が三つあります。そのひとつが過敏症状です。有効成分が、パクリタキセルが水に溶けないために注射剤の溶媒としてポリオキシエチレンヒマシ油が用いられており、それが原因となる過敏反応(アナフィラキシーショック)が起こることがあるのです。治療ではこの溶媒専用の点滴器具が用いられるほか、治療前に抗ヒスタミン剤やステロイドホルモンを前投与するなど、過敏症状の予防に万全の体制をとります。

二つめは白血球(顆粒球)の減少です。投与して1~2週で現れ2週以後に回復するという経過をたどりますが、治療後にのどが痛くなって発熱が現れた場合には、すぐに医師に連絡することが重要です。

そして三つめが末梢神経症状で、手足にしびれや関節痛などが起こります。これも投与終了後に回復します。そのほか、脱毛も8割以上の患者で起こりますが、これも治療を終了すれば回復しますので安心してください。

いまタキソールは、胃がん、食道がんなど、さまざまながんの治療が試みられているほか、乳がんの手術前化学療法なども検討されています。今後もタキソールのような、新しいタイプの抗がん剤が登場することによってがん治療の幅が広がることが期待されています。

■タキソールの副作用
比較的よく見られる(20%以上)副作用
アレルギー症状 発疹
循環器症状 低血圧
消化器症状 悪心・嘔吐、下痢、口内炎
肝機能の異常 肝機能検査値の上昇
腎機能の異常 腎機能検査値の上昇
皮膚症状 脱毛
全身症状 無力症、腹痛
筋肉・骨格症状 筋肉痛、関節痛
その他 発熱、潮紅

くすりのメモ

商品名:タキソール
成分名:パクリタキセル
発売元:ブリストル・マイヤーズ株式会社

どんながんに使われるのか:
健康保険が適用されるのは、卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん、胃がんです。

使用法:
点滴で用いる注射剤です。通常(成人)は、1日1回、体表面積1平方メートルあたり175~210mgを3時間かけて点滴静注し、少なくとも3週間休薬します。これを1クールとして投与を繰り返します。再発した乳がんの場合、80~100mg/㎡を毎週投与する治療法(ウィークリー投与法)もあります。

治療費はどれぐらいか:
身長160cm体重55kgの人の場合、1回あたりの治療費は約16万円(3割負担なら約6万円)になります。


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