• rate
  • rate
  • rate

患者のためのがんの薬事典

グリベック(一般名:イマチニブ)
遺伝子情報の解読から生まれた新治療薬

監修:加藤健 JR九州病院内科医長
文:荒川直樹
発行:2004年3月
更新:2014年2月

  

慢性骨髄性白血病の原因となる遺伝子とそのメカニズムが分かってきました。
その研究成果を慢性骨髄白血病の抗がん剤治療に生かしたのが、2001年に発売された分子標的薬「グリベック」です。

飲み薬であり注射剤のようなつらい副作用が少ないのが特徴ですが、新しい医薬品なので未知の副作用にも注意しながら使用することが重要です。

ヒトの遺伝情報の解明がもたらした新薬

20世紀に医学・生物学が残した最大の業績は、私たち人間の遺伝子(DNA)に書き込まれた遺伝情報である塩基配列が解読できたことです。そして、その情報ががん医療にも大きな進歩をもたらし始めています。

それは、たくさんの遺伝子のなかには、私たちの体のなかにがん(悪性腫瘍)を作り出す原因となる遺伝子があることが分かってきたからです。その発がん遺伝子の働きをなくしたり弱めたりすることで、がんを予防・治療することが可能になってきました。そして、この新しい発想で作られた最初の抗がん剤が、グリベックです。

グリベックは慢性骨髄性白血病の治療薬です。慢性骨髄性白血病は、「血液のがん」と呼ばれ、骨髄のなかにある造血幹細胞(血液細胞の元になる細胞)ががん化し、異常な白血球を作り続ける病気です。そして、その原因が遺伝子異常にあることが分かってきました。

慢性骨髄性白血病患者の95パーセントの人にフィラデルフィア染色体という異常染色体が見られ、これはBcr・Ablチロシンキナーゼという酵素を作りだします。チロシンキナーゼは骨髄の細胞のタンパク質のリン酸化という現象を引き起こし、それが骨髄細胞の分裂に異常をもたらし、異常な白血球を際限なく作りだしてしまうのです。

病気の原因が異常染色体によって生まれたチロシンキナーゼにあるならば、その酵素の働きをストップする薬剤を作れば、慢性骨髄性白血病の治療に役立つはずです。製薬会社の研究者たちは、異常染色体が作り出すBcr・Ablチロシンキナーゼをターゲットとした分子標的薬をコンピュータを用いて合成、そのひとつがグリベックの有効成分イマチニブだったのです。

フィラデルフィア染色体=9番染色体と22番染色体の末端(座)が入れ替わるというような特殊な「転座」が見られる

安定期の患者の9割が完全寛解

慢性骨髄性白血病の従来の治療法としては、まずハイドレア(一般名ヒドロキシカルバミド)、マブリン(一般名ブスルファン)などの抗がん剤による化学療法があります。

化学療法で白血球の増加を抑えることができますが、ほとんどの場合はやがて再発します。そのため、抗がん剤で白血球の数が安定しているときに、インターフェロン療法や骨髄移植などを行い、完全寛解や完治を狙うのが治療の考え方です。

では、新たな分子標的薬であるグリベックは、この治療過程のどこで用いるのでしょうか。開発当初、インターフェロン療法が無効だった患者に用いる第二選択薬として用られていました。

しかし、日本の臨床試験でインターフェロン未使用の患者に対して投与し、100パーセントの完全寛解率を得られたところから、日本では第一選択薬として使われることが認められました。この治療方針は、海外の臨床試験でも科学的な方法と評価され、現在では、アメリカでもグリベックを第一選択薬として用いることが認められています。

グリベックの臨床試験の成績はかなり良好です。海外で、病状が比較的安定している慢性期の患者532名にグリベックを投与したところ、89.5パーセントの患者で、白血球の状態が正常化する血液学的完全寛解となりました。病気が進行し異常な白血球が急激に増えてしまう移行期、急性期の患者でも9割以上になんらかの効果が得られました。臨床試験は70名以上の患者を対象にして国内でも行われていますが、ほぼ同様の効果が認められています。

インターフェロン療法=インターフェロンは動物の細胞がウイルスなどの刺激を受けたときに作り出すタンパク質。免疫力を強めたり、細胞の増殖を抑える作用があるため、がん治療に用いられている

飲み薬だが副作用には要注意

グリベックは飲み薬です。1日1回、有効成分のイマチニブにして400ミリグラムを食後にコップ1杯の水かぬるま湯で服用するだけ。注射剤の抗がん剤と比較すれば副作用が少ないのが特徴ですが、約半数の患者に吐き気が見られるなど、軽度のものを含めるとほとんどの患者に副作用が見られます。

なかには正常な白血球の減少、貧血、脳出血、肝機能障害、腎臓障害などの重い副作用が見られることもありますので、異常(表参照)があったときにはすぐにかかりつけの病院に相談できるようにしておくことが必要です。また、グリベックと一緒に飲んではいけない医薬品、健康食品、飲み物(グレープフルーツジュース)などもありますので、服用開始前に医師から十分な説明を受けてください。

グリベックは、2001年に発売されて以降、いまでは慢性骨髄性白血病患者にとってなくてはならない抗がん剤になりました。そして、2003年7月には消化管間質腫瘍の治療薬としても認可されました。グリベックは慢性骨髄性白血病の原因となるBcr・Ablチロシンキナーゼだけでなく、消化管間質腫瘍の原因となるKITチロシンキナーゼの働きも抑制することが分かったからです。そして海外の臨床試験では約6割の患者で腫瘍縮小効果が認められました。

今後は、長期間飲み続ける患者も出てくると考えられますので、その効果がどれくらい続くのか、いつ、何を指標に止めたらいいのかなどが研究課題です。

ヒトの遺伝情報の解明がもたらした新タイプの抗がん剤。今後、さまざまながんの治療に光をもたらすと期待されます。

くすりのメモ

商品名:グリベック錠100mg
成分名:メシル酸イマチニブ
発売元:ノバルティス ファーマ株式会社

どんながんに使われるのか:
1.慢性骨髄性白血病。
2.組織内にKTIタンパク質が発現している消化管間葉系腫瘍。

使用法:
錠剤の飲み薬です。有効成分のイマチニブとして1日1回400mg(4錠)を食後にコップ1杯の水またはぬるま湯と一緒に服用します。ただし、慢性骨髄性白血病の移行期、急性期の患者では1日600mgに増量します。

治療費はどれぐらいか:
1錠(100mg)の価格は3225.8円(2006年4月現在)。健康保険が適用されます。3割自己負担の場合は、薬代だけで1カ月あたり12万円程度です。

編集部注

服用中とくに注意すること(副作用のサイン)
次のような症状に気づいたら、すぐに主治医に相談してください
・発熱や寒気がする・のどが痛む・手足に赤い点または赤い(青い)あざができる・出血しやすい(歯ぐきの出血、鼻血など)・体がだるい・疲れやすい・頭痛の持続・突然の激しい頭痛・吐き気・嘔吐・上腹部の痛み・血を吐いたり便に血が混じる(黒い便が出る)・食欲がない・発疹・皮膚の発赤・皮膚や白目が黄色くなる・胸の痛み・ピンク色の泡状の痰が出る・座っているほうが呼吸が楽である・夜間になると咳込む・息が苦しい・体重が急に増える・尿の量が減る・体や足がむくむ・から咳が出る・おなかがはる
ひどくなると全身の皮膚が赤く腫れて水ぶくれができたり、皮膚粘膜(口・耳など)がただれることがあります。
次のような症状に気づいたら・なるべく早めに主治医に相談してください
・筋肉痛・筋肉がけいれんする・関節が痛む・胃がもたれる ・目の回りやまぶたが腫れる・厚ぼったくなる


同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!