患者のためのがんの薬事典
イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)
〔投与法編〕納得のいく説明を受け、副作用に万全の注意を
進行した肺がんに画期的な効果がありながら、
重い肺の副作用による死亡例の多発で、
危険な抗がん剤というイメージがついてしまったイレッサ(一般名ゲフィチニブ)。
このイレッサを、がんと闘う武器として活用するためには、
専門医とよく相談しながら慎重に服用することが必要です。
担当医から薬の有効性と副作用についてよく聞く
前回「概要編」で紹介したように、イレッサは、手術で完治できない肺がんでも、外来治療で大幅な腫瘍縮小効果をもたらすことが期待できる画期的な新薬として2002年に登場しました。しかし、発売後に重い肺の副作用(間質性肺炎など)による死亡例が次々と明らかになり、一般の人には危険な医薬品というイメージを持たれてしまいました。
では、イレッサは抗がん剤として失格だったのでしょうか。そうではありません。肺がんの化学療法の専門家たちは、現在でもイレッサを、他の治療法が効かなくなった患者に画期的な効果をもたらす可能性のある重要なくすりだと考えています。
副作用のリスクを最小限に抑え、イレッサの有効性を最大に活用するためには、患者自身も医師から有効性と副作用について納得のいくまで説明を受けることが重要です。そして、実際に治療を開始する場合には、経験豊富な医師の元で慎重に服用してください。
手術ができない肺がん、手術後の再発に適用
肺がんでイレッサを使うのは、すでに転移が確認されたり局所のがんが大きくなって手術ができない場合、手術はしたけれど再発してしまった場合のどちらかになります。
もちろん、イレッサはここまで進行する前段階の肺がんにも有効だと考えられ、手術後の再発予防に利用できるのではないかと考えている研究者もいます。しかし、こうした患者は、もともと手術をすれば完治することが期待できる患者です。
多くの専門家は、副作用で死亡する可能性をゼロにできないうちは、イレッサは肺がん患者にとって最後の治療薬であると位置づけています。
標準治療とイレッサのメリット・デメリット
こうした適応の肺がん患者の場合、現在、スタンダードの治療法と考えられているのは、ブリプラチン(一般名シスプラチン)やパラプラチン(一般名カルボプラチン)などプラチナ製剤と他の抗がん剤を組み合わせた化学療法です。これらによって症状を改善し、寿命を伸ばす効果が期待できます。もし、この治療がうまくいかなかった場合や再び悪化したときには、タキソテール(一般名ドセタキセル)という薬剤を用いて、再び寿命を伸ばせる可能性もあります。
これらの標準治療に対してイレッサは、吐き気、脱毛などのつらい副作用は従来の抗がん剤と比較して少ないことと、患者によっては劇的に効く可能性があるというメリットがあります。一方、リスク要因となるのは、投与する患者100人につき1~2人の割合で、間質性肺炎などの重い副作用が起こることです。
こうした点を、医師とよく相談した上、治療方法を選択すべきだといえます。なお、イレッサはプラチナ製剤やタキソテールの治療を試した後で使用することもできます。
イレッサを服用するときの注意事項
イレッサは飲み薬です。1日1回、250ミリグラムを毎日服用します。飲み忘れのないように、毎朝、朝食後に服用することが薦められています。
このため、イレッサは外来治療で投与することも可能です。しかし、重い肺の副作用が起こる場合には、治療開始後の1カ月以内に起こることが知られているため、最初の1カ月は入院かそれに準じる状態(なにか異常があったらすぐに医師がかけつけることができる状態)で治療することが必要です。
重い肺の副作用は、急激に症状が悪化し、死に至ることがあるので要注意です。予兆として息切れ、呼吸がしにくい、動悸、咳や発熱などのかぜに似た症状が現れることもあります。入院中、こうした症状を少しでも感じたら、すぐ主治医や看護師に話すことが必要です。
服用後、すぐがんが縮小したケースも
治療を開始してから約1カ月以降は、外来で治療を続けることができます。しかし、1カ月以降に肺の副作用が起こる可能性もあります。前述の予兆を感じたら、すぐに来院して検査を受けることが必要です。
また、肺以外の副作用とその頻度は別表のとおりです。他の化学療法と比較して副作用が軽微なことはイレッサの特徴ですが、なかには脱水を伴う重症の下痢、アレルギーによる重い皮膚症状、肝機能障害などが報告されています。
副作用がおこる部位 | 頻度が高いもの 10%以上 | やや頻度が高いもの 1-10%未満 | 頻度のわからないもの |
---|---|---|---|
消化器 | 下痢、はき気 | 嘔吐、食欲がなくなる、口内炎 | |
皮膚 | 発疹、かゆみ、皮膚乾燥、にきび様の皮疹 | 爪の障害 | |
眼 | 結膜炎、眼瞼炎(がんけんえん:眼やまぶたの充血・かゆみなど) | 角膜のただれ | |
肝臓 | 肝機能障害(多くは無症状、血液検査が必要) | ||
その他 | 無力症(体がだるく疲れやすい) | 出血 |
イレッサの長期の臨床成績はまだ明らかではありませんが、治療が効果を出した患者さんのなかには、服薬開始後すぐがんが縮小しはじめ、1年以上たっても、一般の人と変わらないような生活を送っている方がたくさんいます。
副作用に細心の注意をはかりながら、ずっと治療を続けられることが期待されます。
くすりのメモ
商品名:イレッサ
成分名:ゲフィチニブ
発売元:アストラゼネカ社
どんながんに使われるのか:
肺に最初にできたがん(原発性肺がん)のうち、すでに転移してしまった非小細胞肺がん。がんが大きくなりすぎて手術できなくなったり、手術後に局所再発してしまった非小細胞肺がんに使われます。
使用法:
内服薬です。1日1回250ミリグラムを毎日飲みます。服用時間は、毎朝の食事時の服用が勧められています。
治療費はどれぐらいか:
健康保険が適用されます。3割の自己負担の場合は、1カ月あたり4万5000円程度です。
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