患者のためのがんの薬事典
ベルケイド(一般名:ボルテゾミブ)
皮下投与が新たに加わり末梢神経障害が軽減できる多発性骨髄腫の治療薬
ベルケイドは、多発性骨髄腫の治療において、再発または難治性だけでなく、未治療の患者さんにも使える薬剤として、切れ味のするどい効果が評価されてきました。反面、問題となっていたのは、副作用の末梢神経障害。そこに2013年1月、新たにこの薬の皮下投与が承認されました。従来の静脈内投与に比べ、末梢神経障害が軽くなることがわかっており、新たな選択肢として期待されています。
未治療患者さんにも使えるただ1つの新規薬剤
多発性骨髄腫の治療では、新規薬剤と呼ばれる3種類の薬がよく使われています。ベルケイド*、サレド*、レブラミド*という3種類です。
これらの薬は、いずれも再発または難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬として登場しました。現在、本邦においてはベルケイドだけが適応を広げ、多発性骨髄腫の未治療患者さんにも使用できるようになっています。
適応拡大の根拠となった臨床試験についてご紹介します。この臨床試験は、多発性骨髄腫の治療を初めて受ける患者さんを対象に、当時の標準治療であったMP療法(アルケラン*+プレドニン*)と、それにベルケイドを加えたVMP療法(ベルケイド+アルケラン+プレドニン)を比較しています。
その結果、図1に示すように、VMP療法のほうが、生存期間が長くなることが明らかになったのです。
また、多発性骨髄腫になると、血液中に「Mタンパク」という物質が増加してきます。これを減らすことが、多発性骨髄腫の治療では重要ですが、ベルケイドはMタンパクを減らす効果に優れています。この試験では、Mタンパクを減らす効果があった患者さんが71%、また、Mタンパクが消失した患者さんが30%いました。
こうしたデータにより、ベルケイドは、多発性骨髄腫の未治療患者さんに使用できる薬剤として認可されたのです。
*ベルケイド=一般名ボルテゾミブ *サレド=一般名サリドマイド *レブラミド=一般名レナリドミド
*アルケラン=一般名メルファラン *プレドニン=一般名プレドニゾロン
問題になっていた末梢神経障害
優れた薬剤として多発性骨髄腫の治療に使われてきたベルケイドですが、欠点もありました。その代表的なものが、副作用として現れる末梢神経障害です。
手足のしびれや痛みが現れ、重症になると、歩けなくなったりすることもあります。副作用の重症度はグレード1~4で表されますが、グレード3に達した場合には、薬による治療を一時休まなければなりません。そうならないように、投与量を減らしたりしながら、副作用をグレード1~2で止め、治療を継続する必要があります。
また、なるべく副作用を軽くするため、通常の週2回投与を、週1回投与に変えることも行われてきました。それによって、効果は変わらないのに、末梢神経障害が減ることが確認されていたのです。
新登場の皮下投与は副作用が軽くなる
ベルケイドはもともと静脈内投与の薬でしたが、2012年12月、新しく皮下投与が承認されました。
そもそも静脈内投与を行うには、点滴用の針を血管に刺して準備しておくなど、それなりの手間と時間がかかります。その点、皮下投与ならば表皮に近い皮下組織に注射するため、比較的簡単に行えます。そこで行われたのが、静脈内投与のベルケイドと、皮下投与のベルケイドを比較し、効果が同等であることを確認する臨床試験でした。その結果、効果が同等であることは証明できたのですが、予想もしなかったことが明らかになりました。
副作用の発現率は、全体では同程度だったのですが、最大の問題である末梢神経障害では差が現れていました(図2)。静脈内投与の場合、末梢神経障害の発現率が53%なのに対し、皮下投与での発現率は38%だったのです。
また、グレード3以上の末梢神経障害の発現率も、静脈内投与では16%、皮下投与では6%となっていました。
静脈内投与と皮下投与は、効果は同等でしたが、末梢神経障害に関しては、発現率も、重症度も、皮下投与のほうが低いことが明らかになったのです。
腹部や大腿部などの異なる箇所に注射
前述した臨床試験の結果により、ベルケイドの皮下投与が新たに承認されました。副作用の末梢神経障害が起こりにくいということで、患者さんにとっては朗報といえるでしょう。
皮下投与は、腹部や大腿部など、柔らかい部位を選んで注射します。また、毎回同じ部位にするのではなく、注射部位を変えて投与します。
約半数くらいの患者さんで、注射した部位が赤くなりますが、とくに問題はありません。ほとんどの場合、次回投与時までには消えます。
ベルケイドは、これまでも治療効果の点では評価が高かったのですが、副作用の末梢神経障害が大きな問題となっていました。それに対する方法として、静脈内投与の週1回投与のほかに、皮下投与の週2回投与という方法も登場しました。治療の選択肢が増えたことで、末梢神経障害を回避しやすくなったといえます。それにより、治療を継続しやすくなったともいえるでしょう。
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