患者のためのがんの薬事典
メサペイン錠(一般名:メサドン)
強オピオイド薬でも取り除けないがんの痛みに対する新薬
がんの痛みに対し、強さの異なる鎮痛薬を段階的に使って効果的に痛みを取り除くのが「WHO(世界保健機構)方式」の疼痛治療。最も強い痛みにはモルヒネなどの強オピオイドが使われていますが、それでも解消しない痛みもあります。また、強オピオイドを使っていて、それが耐性で効かなくなることもあります。それらのような場合に使われるのが、新しく登場したオピオイド鎮痛薬「メサペイン錠」です。
モルヒネが効きにくい痛みにも使われる
がんの痛みの治療では、医療用麻薬のオピオイド鎮痛薬が使われています。日本でよく使われているのは、モルヒネ*、オキシコドン*、フェンタニル*で、これらは効果が強いことから、「強オピオイド」に分類されています。この強オピオイドに、新しい薬剤「メサペイン錠」が加わりました。
メサペイン錠の有効成分であるメサドンは、1930年代にドイツで開発された薬です。アメリカでは、60年ほど前から痛みの治療に使われてきました。
痛みは大きく、「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられます。臓器や組織に、損傷や炎症が起きて生じる痛みが侵害受容性疼痛です。がんの痛みの多くはこれですが、がんが神経に広がっていくことで、神経障害性疼痛が起きることもあります。
オピオイド鎮痛薬は、侵害受容性疼痛には強力な効果を発揮します。しかし、神経障害性疼痛に対する効果はあまり強くありません。
その中にあって、メサペイン錠については、基礎試験の段階で、神経障害性疼痛にも効く可能性が認められています。
優れた鎮痛効果が期待される半面、副作用には十分注意しなければなりません。最も注意すべきなのは、「QT延長症候群」など、突然死につながることもある危険な不整脈が現れることがある点です。
これは、命にかかわることもある副作用です。したがって、メサペイン錠を使用している間は、定期的に心電図検査などを行うことが必要になります。
*モルヒネ=商品名塩酸モルヒネ、MSコンチンなど *オキシコドン=商品名オキシコンチン、オキノームなど *フェンタニル=商品名フェンタニル、デュロテップMTパッチなど
患者さんによって適量が大きく異なる
メサペイン錠を使用するには、この薬の豊富な投与経験が求められます。なぜなら、薬の成分が体から消失していくまでにかかる時間がほかの薬より長いうえ、人によって差が大きいからです。
ほかのオピオイド鎮痛薬は、半減期がだいたい数時間。ところが、メサペイン錠の半減期は、平均でも30時間以上あります。さらに、短い人で7時間、長い人で65時間と、人によって大きな差があるのです。
そのため、投与の適量は人によって大きく異なるので、少量から使い始めます。効果や半減期を問診や血中濃度で確かめながら、徐々に増やしていき、その人の適量を探します。慎重に治療を進めないと、過量投与になる危険性があるからです。
オピオイド鎮痛薬の量が多過ぎると、鎮静作用が効き過ぎ、ひどい場合には呼吸回数が少なくなって死に至ることもあります。これはどのオピオイド鎮痛薬でも同じですが、メサペイン錠は血中の半減期が長く、過量投与になりやすいので、とくに注意が必要です。
4段階目に使用する強オピオイド
がんの痛みの治療では、「WHO方式」と呼ばれる3段階の治療が推奨されています(図1)。痛みの強さを3段階に分け、それに応じた治療を行うというものです。
第1段階の痛みには、オピオイド鎮痛薬以外の薬が使われます。第2段階の痛みには、コデインやトラマドールといった弱オピオイド。そして、第3段階の強い痛みに対して、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルといった強オピオイドが使われるのです。
メサペイン錠は強オピオイドに含まれますが、強い痛みがあるからといって、最初から使うことはできません。日本では、ほかの強オピオイドで治療困難な場合にだけ使えると定められているからです。
つまり、WHO方式の3段階のうえに、第4段階として、
メサペイン錠による治療が加わります。
まず、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルで治療が行われ、効果が得られない場合に、第4段階としてメサペイン錠による治療が行われるのです。したがって、メサペイン錠を使い始めるときは、ほかの強オピオイド鎮痛薬から切り替えることになります。
ここで気をつけたいのは、メサペイン錠以外の強オピオイドは、お互いに交差耐性がありますが、メサペイン錠では不完全である点です(図2)。
たとえば、モルヒネを使っていて耐性ができた患者さんは、オキシコドンやフェンタニルにも耐性ができて、薬が効きにくくなっていますが、メサペイン錠は交差耐性が不完全なため、初めての使用でよく効く可能性があるのです。 そのため、メサペイン錠を初めて使うときの投与量は少なめに決められ、徐々に増やしていくことになります。
服用する患者さんには、除痛の効果を適宜、医療者に伝えていただき、個人に合った適切な投与量へとつなげていきます。
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