森川那智子のゆるるんヨガ de ほっ!
ゆるゆるセルフケア70 「立位牛面のポーズ」
森川那智子(もりかわ なちこ)
こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。
『こころがラクになる本』(大和書房)
『リラックスヨガ』(成美堂出版)など
著書多数こころとからだクリニカセンター http://www.kokokara.co.jp/
痒いところに手は届く?
今回紹介する「牛面のポーズ」は、肩関節の柔軟性を高める効果があります。すると自分の体表のどこにでも、自分の手が届くようになります。素敵だと思いませんか。
確かに今では、背中ボタンのブラウスやワンピースなどめったにないし、背中を洗えるバス用品などいろいろあります。なので、背中の痒いところまで手が届いたところで、「だからなに?」といわれそうですが。
ところで、日本人は風呂好きで知られていますが、江戸時代の初期までは、湯船につかるのではなく、蒸し風呂で皮膚をふやかし、垢を擦り落とすのが一般的だったそうです。
しかも町には湯屋があり、そこには「湯掻き女」という、客の垢を爪でこそぎ落としてくれる女たちが働いていました。熟練した湯掻き女の手にかかると、それはもう桃源郷の心地がしたそうな。と、これは山田風太郎の小説で知ったことです。
痒くても絶対掻くな、掻くからもっと掻くなるというのはスキンケアの常識ですが、それはごしごしこすったり掻いたりしてはいけないという意味。そっとやさしく静かに掻くと、とても気持がよく、血液や体液の巡りを良くして、免疫力を高めます。
Mさん(58歳)は、肺がんで緩和ケア病棟に入院しているお母さんを見舞いに、週末ごとに実家のある地方都市に帰っています。
長い間1人で暮らしていた母親は80歳を過ぎたあたりから少し痴呆の症状が出てきて、グループホームに入居、肺炎のため入院したところ、がんが見つかりました。それも手の施しようがないという段階で。
緩和ケア病棟のある病院に転院して1カ月。
「スタッフは明るいし、病棟はきれいで、病院独特の臭気はまったくないし、大事にしてもらっている感じ」でほっとしました。
すでに自力で食事が摂れなくなっていますが、「点滴どうしますか?」と医師にきかれたときは戸惑いました。当然点滴するものと思っていたからでした。
点滴をしないと2、3日で逝くことになると告げられて、彼女は「点滴、お願いします」と即答しました。
点滴しないという選択肢があること、家族がそれを決めるということは想定していませんでした。
点滴をすると母は体力を回復したのか時々目が覚まし、話をします。話をすると言っても、「お母さん、わたしだけど、わかる?」と呼びかけると、「うんうん」とうなずくだけですが、Mさんにとっては話ができたことになります。
「それにしてもやることがないでしょ。ただそばにいてあげるだけでいいのですよと言われているので、本を読んでいますが」
あるとき、ふと母の足にふれたとき、むかし母が体を掻いてもらうのが好きだったことを思い出しました。それから、足をゆっくり静かに、ごくごく軽く掻いてあげると、とても気持ち良さそうだというのです。
お母さんの手や足を触っていると、自分も落ち着き、穏やかな時間が流れていくのが感じられました。
それで掻くマッサージに目覚めたAさん「健康なうちは自分で自分の背中も掻きたい。だけど、肩や腕が硬くてとても手が背中に届かない」それならと、「牛面のポーズ」をお勧めしました。
以前、このポーズの基本型は紹介しましたが、今回は立位で行うバリエーションです。肩こりにも効き目があり、上腕をシェイプさせる働きもあります。
ぜひ2セット続けて行うことをおすすめします。2セット目は1セット目と比べ、手と手の距離が確実に近くなり、違いが実感できます。
ただくれぐれも「痛い」というまではやらないでください。目いっぱいの半分以下をめどに。
立位牛面のポーズ
① 両足を肩巾に開いて立ちます。
② 左手を下から背中に回します。じわじわと背中を這わせるようにして、肩甲骨の間まで伸ばしましょう。
③ 右手を頭上に伸ばします。
④ 肘を折り、右手を背中にまわして、両手を組みます。この姿勢で自分のペースで10呼吸。左右交互に2セット行いましょう。手がとどかない場合はタオルを使うといいです。
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