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森川那智子のゆるるんヨガdeほっ! ゆるゆるセルフケア 125 最終回

マインドフルネスってなに? <呼吸を味わうポーズ>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2018年5月
更新:2018年6月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)など著書多数。近著に『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)

「がんに負けない体力をつけましょう」

緩和ケア病棟に入院中、担当医からナツキさんはそう言われたそうです。

それまで服用していた鎮痛薬が効かなくなり、痛み止めの薬を変えるための入院でした。どの薬をどれくらいの量使えばいいのか、それを見定めるのです。

緩和ケア病棟に入院すると決まったとき、いつかそういう日が来ると覚悟はしていたものの、ひどくうろたえていました。

この期に及んで、「がんに負けない体力をつける」という言葉に違和感を感じたそうです。がんに負けたから緩和ケア病棟に入院するというイメージを持っていたからでした。しかし、同時にこの言葉に励まされもしました。

幸い新しい薬が合ったようで、1週間で緩和ケア病棟を退院することになりました。緩和ケア病棟に入院というのは、最終段階と思ったけれど、「しんどくなったら入院すればいいし、それで少し楽になったら退院すればいい」という担当医の言葉に納得がいったそうです。

退院直前に、「3食食べて、できることは家事も運動もやりましょう。疲れたら少し休み、あきらめないこと」、さらに担当医はこう続けたそうです。

「今日、このがんに効く治療法がなくても、明日、新薬が発見されるかもしれない。画期的な治療法が出てくるかもしれない。がんの治療は日進月歩で進んでいるのだから、そういうチャンスがないとは言えない。そのチャンスに遭遇するためには、まず生き延びること」

「自分に起きていること」をそのまま受け止める

がんは治らない病気ではない。必要な治療を受けながら、できるだけ仕事も続け、生活全体の質を保つという考え方が、定着しつつあります。

ですけど、がん患者さんのなかには、もう治療法がないという厳しい局面に直面する人も少なくありません。ナツキさんのがんが再発したときがそうでした。がんの発生箇所が難しく、エビデンス(科学的根拠)のある治療法がない、経過を見守るしかないと言われたとき、本人はもとより家族が受けたショックは計り知れないものがありました。

もちろんセカンドオピニオンも求めました。インターネットや知人友人の医師を頼って、本当は何かまだ十分知られてない治療法があるのではないかと、精力的にリサーチもしました。

結果的には、治療法はないというのは、何もできないということではなく、最初にすべきことは、緩和ケア病棟がある病院を探して、そこに転院することでした。

私が主宰する「こころとからだクリニカセンター」のがんサバイバーとその家族のための「ヨガクラス」にも参加しました。「きついと感じたら、休み休みやる」をモットーとしたクラスです。

私は家族の方と関わらせていただきました。家族は、「本当に苦しいのは本人なのに、支えないといけない私が、どうしようもなく落ち込んでしまって」と自分を責めていました。

私はマインドフルネスと呼ばれる認知療法の手法を使いながら、家族を支えることにしました。頭をよぎる考えやそれに伴う感情や感覚に注意を向け、価値判断しないで気づき、ただ受け止めるということを、マインドフルネスではとても丁寧に扱います。ヨガを行うときに、自分の身体の一部や全体を、とても繊細に思いやりをもって扱うのと同じようにです。

と言うのも私たちは、「こんな状況下ではこう考えるべき」とか、「こんなふうに考えてはいけない」とか、そうとは気づかずに価値判断しながら暮らしています。価値判断することに、あまりにも慣れ親しんでいて、自分がその瞬間、価値判断していることにも気づかないでいるくらいです。

「本当はこうすべきなのに、そうできない私は使えない奴だ」という考えについて、マインドフルネスでは、「『本当はこうすべき』と今、私は考えているんだな~」とただ受け止めます。少しの間その考えに留まります。2~4呼吸しているくらいの時間留まってみます。

その考えが頭に浮かび、現実の自分はそうできないでいると、ほとんど自動的に、焦燥感がわいてくるのに気づきます。不安と緊張が高まり「私は使えない奴」という考えが浮かんできます。

そういう思考と感覚、感情のプロセスに気づくと、そのことに巻き込まれて、「本当に私は使えない奴」と自分を責めたり、罵倒する自分に気づきます。

「本当はこうすべき」と思う自分に対しても、「やる気が出なくてできない」自分に対しても、「使えない奴と自分を責める」自分に対しても、少し、思いやりを持って眺めることができるようになります。

少なくとも、今この瞬間、自分に起きていることにそのまま「何とかしないと」ではなくて、「そうかそうなんだ」とそのまま受け止めてみるのです。

この繊細な作業が、心が悲鳴を上げているときには、ガチガチになっている心と体をほぐすきっかけとなります。

今月は、1日1回、椅子に腰を下ろして、目を軽く閉じて、1~3分、ただ自分の呼吸に注意を向ける、呼吸を丁寧に味わうというエクササイズを提案します。

<呼吸を味わうポーズ>

呼吸を味わうポーズ

椅子に少し深めに腰を下ろし、背中は自分なりにすーっと伸す。両腕は膝に伸ばす。手のひらは上に向けても、下に向けてもどちらでもOK。

今している自分の呼吸に注意を向ける。呼吸は自律神経支配下にあるので、注意を向けても向けなくとも、生まれたときからずっとしているので、ふと気づくと、呼吸から気持ちがそれて、何か考えていたり、思い描いていたりしている。そのことに気づいたら、また注意を呼吸に戻す。1~3分。

あまりに簡単なので、やった気になってしまいがちだが、実践してください。

写真モデル:栗木登志子ヨガインストラクター。自身ががんサバイバーであり、がんサバイバーやシニア世代のためのヨガ指導に力を入れている

 

ごあいさつ 「森川那智子のゆるるんヨガde“ほっ”」は今回で終了します。次号から〝マインドフルネス(今という瞬間に注意を向けること)〟という視点から、「こころとからだと気づき」について書いていきます。マインドフルネスはヨガ体験の中核をなすものです。近年では、マインドフルネスはメンタルヘルスへの有効性についてエビデンスが蓄積されています。
〝ゆるるんヨガ〟という視点から、〝マインドフルネス・ヨガ〟という視点に移し、がん患者さんとそのご家族や医療者たちにとっても、ストレスを和らげるヒントになる読み物にしていきたいと思います。

●こころとからだクリニカセンター PC www.kokokara.co.jp/ 携帯 www.kokokara.co.jp/m/

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