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マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第2回 つながりを感じる <首を左右に傾けるポーズ>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
発行:2018年7月
更新:2018年10月

  

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

「今という瞬間に注意を向ける」、とはどういうことなのか、いぶかしく思う人もいます。

今という瞬間は、次の瞬間にはもう過去になっているではないか、そう考えている間にも、今という瞬間は過去へと次々に飛び去っていっていく。今という瞬間はいったいどこにあるのかと、考えてしまうのです。

私たちにとって時間はあんまり当たり前すぎていて、日頃はそれについて吟味することもありません。時間は日常的には、主に目的にそって意識されます。

例えば、この原稿も「何日までに書き上げないといけない」というふうに意識されます。何時ごろには家を出る予定だから、何時までに身支度を済ませ、何時にまでにオフィスに着き、そのあとのスケジュールは何と何という具合です。

身支度をしている最中も、1つ1つの行為に専心しているわけではありません。服を着ながら、今度の休みには服を見に行こうと考えたり、一昨日見た友人の服を思い出ていたり、歯医者の予約をいつ入れるか考えたり、同時に定期的なメンテナンスをさぼっている私はどう思われるか想像していたり、体は今ここにあるのに、心はここではないどこかを駆け巡っています。

誰でも、今という時間しか持っていない

ヨガを始めて間もないころ、インドが好きでインド各地のアシュラム(修行をする場)を巡っている人と話をしたことがありました。

私は、自分がヨガ体験をどんなに素晴らしく感じているか、ヨガによる癒し効果を周囲の人々に伝えるにはどうしたらよいか、そんなことを話したのだと思います。

「重要なことは」と、そのヒッピー風の青年は遠慮がちに言ったのでした。

「誰でも、いつだって、今という時間しか持ってないことだよ」

私は、こうなれたらいいな、こうしたいなという未来について、熱を帯びて語っていたのですから、明日も明後日も5年後も10年後も当たり前に「ある」ことを前提にして話していました。ですから、一瞬、その言葉の意味がわかりませんでした。

10年後、20年後はいざ知らず、明日くらいはあるでしょう。それだって不確実だというのなら、そんな遠くない未来、せめて1時間後くらいなら確実にあるでしょう、と反論したはずです。

すると、「1時間後というときは永久に来ない。1時間たったら、そのときは、それが今になっているでしょう?」と言うのでした。

どうやら未来の不確実性を問題にしているのではなかったのでした。

当時の私のメンタリティは、受験生とあまり変わりはなく、今日は明日を準備するためにあるべきだという考えが、心の底に沁みついていました。しかもそうとは気づかないままにです。だからこそ、ヨガのマインドフルネス体験を必要としていたのでした。

私のところに相談に来る人たちも、時間プレッシャーを抱えているケースがほとんどです。前向きに生きているつもりが、前のめりになって、「こうしてはいられない」「もっと効率的に」と思って、自分を焦らせてしまうのです。

日本には昔から、身体性の豊かな文化が身近に

ヨガをしているときに流れている時間が、なぜ、かけがえのない新鮮なものとして感じられるのか。それは当たり前に1日が24時間に、1年が365日に仕切られ、その仕切りの中で仕事したり、デートしたり、用事をしたり。

同時に頭の中では、過去について、また未来について、果てしなく様々な考えや思いが行きかっている。そうしてあたふたと過ぎていく時間、突然予定がなくなり落ち着かなくなる時間、そのように過ぎていく時間とどう違うのか、当時の私には、なかなかうまく説明できませんでした。

ただわかっているのは、まるごとに体験しているという感覚、我を忘れて没頭するというのではなく、忘れていた大事な何かが、ゆったりと巡ってくるという感覚。

初めてマインドフルネスという言葉を目にしたのは今から25年も前、ジョン・カバット・ジンの著書のなかでした。『生命力がよみがえる瞑想健康法』って、すごくありきたりのどこにでもありそうなタイトルでしたが、中身はとても新鮮でした。

ちなみに同書はタイトルを『マインドフルネス ストレス低減法』と変えて、ヨガや瞑想に関心ある人にとって必須のマインドフルネス入門書となっています。お勧めですよ。

もっとも、日本には昔から、「身心一如」(しんじんいちにょ:体と心は一体で分けることはできない)をキーワードにしている身体性の豊かな文化が身近にたくさんありました。この話を書くと長くなってしまうので、また別の機会にしましょう。

ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)=米マサチューセッツ大学医学大学院教授・同大マインドフルネスセンター創設所長

<首を左右に傾けるポーズ>

今という時間はいつでもここに存在しています。今現在とは、過ぎていく時間とは全くの別物です。今という瞬間、瞬間に意識的に注意を向けることで、日常意識される時間から抜け出していることにまず気づかされます。

それでは、マインドフルネスに重点を置いたヨガのポーズの行い方を1つ、紹介します。とてもシンプルなポーズで、誰にでもできます。名前を付けるとしたら、「首を左右に傾けるポーズ」です。

首を左右に傾けるポーズ1

①椅子の深く腰を下ろし、脊柱をすーっと伸ばします。両肩はゆったり広げて、両腕は脇に垂らしています。息を吸いながら、頭頂をふわっと上方に持ち上げるようにイメージします。

首を左右に傾けるポーズ2

②穏やかに息を吐きながら、首を左側にゆっくり傾けていきます。このとき、右肩がつられて上がらないようにします。そう意識するのとしないのとは右の首筋が伸ばされている感覚がどう違うのか、吟味してください。呼吸はそのまま続け、呼吸とともに、首筋の筋肉の感覚に注意を向けます。とくに違いは感じないということもあるかもしれません。感じるべきというものではありません。

2、3回呼吸したら、次の吸う息で、ゆっくり最初の位置に戻していきます。戻す過程で、頭部の重さを感じながら戻してください。そして、呼吸を整えます。

次に反対側を同じように行います。

どうでしょうか?

こうしたシンプルな動きと、その動きによって生じる体の内部の微妙な感覚に注意を向けていくことが、今という瞬間に注意を意識的に向けること、すなわちマインドフルネスという方法なのです。言葉でいうとなんだかくどくなりますね。

こういう体の動かし方、意識の向け方に慣れてないと、退屈に感じるかもしれません。でも、思い出したら、1日1回やってみてください。心と体のつながりをふっと感じる瞬間が訪れることでしょう。

 

●こころとからだクリニカセンター
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